タピ子5

「バトル・オブ・ジユー・ガ・オーカ #03」 タピ子 Queen of the Sweets

目次】【前回

 ジユー・ガ・オーカの一角が燃え上がり、阿鼻叫喚の呻きが木霊している。その炎に照らし出されるように浮かび上がる幾人ものシルエット──それは恐るべきスイーツ妖精たち。生八つ橋のやつ音。そして彼女が率いる和スイーツ十傑である!

「やつ音様ぁ~! ここいらの消毒はすべて完了しましたぁ~」

 目を輝かせ、甘ったるい声でやつ音に駆け寄る赤髪の少女。激辛せんべいのゲキ巴(ともえ)。

「ぷぷ。ゲキ巴ちゃんさぁ、さっきまで『汚物は消毒だぁ!』って叫んでたじゃん。やつ音様の前だけかわい子ぶっちゃってぇ。かわいいね!」

 透き通るような白い肌。それを小馬鹿にしたように歪めて笑う少年、羽二重餅のはぶ文(ふみ)。「うっせぇ! 燃やすぞゴラ!」そう返すゲキ巴の口からはちろちろと炎が噴き出している。

「オラオラオラぁ!」

 その向こうではサンドバックのようにスイーツ妖精を殴り続ける少女。堅焼きせんべいのかたや萌(もえ)。殴られ続けるスイーツ妖精は輪っか状の物質で体を拘束され、かたや萌の最硬の拳から逃れることができずにいる。

「なんなのアイツ。ウッザ!」ゲキ巴が苛立たしげに睨んだ。

「カビの原因……」くぃっと中指で眼鏡を押し上げながら、細身の少女がそれに応える。「あいつ、ブルーチーズケーキの妖精……おそらくあいつ……が……カビの発生源……」その少女の名はくつわのくつ和。妖精を拘束しているあの輪っかは、このくつ和が生み出したものである。

※ 「くつわ」ってこういうのです。歯が折れそうなぐらい硬い。
http://www.asahi.com/area/aichi/articles/MTW20160530241430023.html

「ふーん……」はぶ文は気怠そうに伸びをした。「でもさぁ、あいつにそんな力があるのかなぁ……あんな貧相な流行力(ブームちから)でここまでカビをばらまくとかできないでしょ、どう考えても。なんか変だなー」「ふんっ」その傍ら、刀を抱えた野武士風の少年が鼻で笑う。

「疑問など抱くまでもねぇ。誰であろうと……やつ音様に近づく不埒者は、この俺が叩き切るまでよ!」

 不敵な笑みに鋭い眼差し。かるかんのかる左衛門。はぶ文はにやにやと笑いながら誰にも聞こえぬ小声で呟いた。「ばーか」

「やつ音様ぁ。いいんですかぁ、こんなところでもたもたしていて……」

 不安げにやつ音に問う少女。白玉あんみつのしら代。「わたしたち以外にも強力なスイーツ妖精たちがどんどん集まっているんですよぉ……今にも先を越されるんじゃないかってわたし、不安で不安で……」

 それを聞いたやつ音はくすりと微笑んだ。そして華やかな扇子で口元を優雅に隠すと、くつくつと楽しげに笑った。「おお……」和スイーツ妖精たちはその姿に目を奪われていく。気品溢れる優美な姿。堂々たる女王の風格。その場にいる誰もが感じていた──まさに、このお方こそ次代のスイーツ大帝に相応しい、と。

 やつ音は扇子でゆったりと自分を扇いだ。その動きはすべてが洗練されていて美しい。「なぁんも問題あらしまへん」珠のように可憐な声。そして再びくつくつと笑うと、その美しい瞳を冷たく細めて言い放った。

「全員、叩き潰せばええだけやわ」

🍡🍡🍡

 ザンッ!

 大地に降り立ったタピ子。パルクールめいた跳躍を繰り返し、すさまじい速度で包囲網を突破、そしてジユー・ガ・オーカの路地裏へと行き着いたのだ。

 タピ子はもと来た方角を見た。「ホユン……」そして「ま、あいつなら大丈夫だろう」呟きながら微笑む。

(タピ子ちゃん、僕はちゃんとついてきているよ😘)

 タピ子は静かに、周囲への警戒を怠らずに路地裏を進んでいく。

(なんだか静かな場所だね、タピ子ちゃん😉)

 ふいにその足が止まる。「ショコラダ・マイ。ここがあんたが言っていた場所か……」その視線の先、うらぶれた神殿に囲まれた奥まった場所。そこに静けさとともに、ちんまりとした祠が鎮座している。タピ子は周囲を警戒しながら祠に近づいていく──

(タピ子ちゃん、気を付けて! なにかが凄いスピードで近づいてくるよ😲)

「!」タピ子は跳躍した。直後、強力な打撃がタピ子が元いた大地を砕いていた! もうもうと立ち込める土煙。その土煙の中、ゆっくりと立ち上がる一人のスイーツ妖精。

「……君が。タピオカのタピ子だね」

 甘いバターの香りが辺りに漂う。その土煙から現れたのは見目麗しい少年。覚悟を秘めたその表情。そして真摯な眼差しはタピ子を鋭く捉えていた。タピ子は身構えた。(こいつは……強い!)

 彼こそはパン斗。パンケーキのパン斗である!

 さらに──

(まだいる😫)

 その様子を見下ろすようにして神殿の上に立つ一人の影!

「ふっふ。見つけたぜぇ……タピ子ぉ……!」

 その周囲には冷気が漂い、その腕は燃えている!
 狂暴な笑みを浮かべた少女──かき氷のかき子であった!

04に続く】

きっと励みになります。