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流行っている施設の設計しか依頼がない話。

事務所に来られた素材メーカーの営業さんに、どんな空間を最近手がけたのかを聞かれたので回答すると、
「今流行っている施設ばかりですね!」という反応が返ってきました。

「いやぁ、そんなことないですよ」とお決まりの返しをしましたが、これは「私たちが手掛けたお店が流行している」ということではありません。

確かに流行っている、もう少し言うと雑誌やWeb、TVなどのメディアで取り上げられることのある種類の空間設計を手掛けていることが多いのですが、これは私たちの手腕によるものではありません。

私たち空間デザイナー(ほとんどの場合商業施設や店舗をデザインする業種を指す)が手がける施設は、お金を出してその場を作ろうとするクライアントがあって初めて存在するものです。

言い換えれば、クライアントが「つくりたいもの」が出来上がる、ということになります。

ではクライアントが「つくりたい空間」はどんなものかというと「お店にたくさん人が来て、売り上げが多く得られ、利益がきちんと確保できる空間」であると言えます。

流行している = 社会に求められているもの?

事業者さんは、人々が何を求めているのかを常に考えています。
また、今は存在しないけれども、近い未来に求められるだろう、新しいサービスを開発しようとする起業家も多くいると思います。

そう考えると、多くの人々に求められる(流行している)空間は社会に求められているのだ、と考えてしまいそうです。
しかし、社会に求められている空間が常に多くの人々で賑わって利益を出すものとは限りません。

その代表的なものに「公益に資する空間」があります。

運営に関する人件費等の固定費が収入を上回る、もっと言えば収入そのものがない空間もたくさんあります。

こういった空間は、流行はしていないけれども、社会に求められて存在しているので、流行していることが社会に求められている全てではないということがわかります。

空間デザイナーの仕事は往々にして、多くの人に振り向いてもらえる、華やかな空間を手がけることが多いですが、この部分だけにフォーカスしてしまうと、大事なことを見失ってしまうのではないでしょうか。

多くの人が求める空間だけをつくる、という観点だけを持つことは危険です。声が小さく世間の目に止まっていない、メディアに届いていない、そんな小さなニーズがあることを忘れず、知ろうとする姿勢を常に持っておきたいものです。

空間デザイナーを目指す学生さんや、入社して間もなく、華やかな仕事で日々いっぱいいっぱいの新人デザイナーに伝わったらいいなと思って書き始めましたが、それ以上に自戒の念がいっぱいの話になりました。

多方面の視点を持って、得られた知見を組み合わせて、面白い、新しい表現をできるように努力していきたいと思います。

建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。