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誰がためにデザイン賞はある?|デザイン賞の獲り方(建築・インテリア)

巷に多く存在するデザイン賞。
各業界ごとに大小さまざまなデザイン賞が存在します。
デザイン賞でなくとも、皆さんが従事している業界でも何かしらの賞があると思います。

今日はそのような賞が「誰のために存在しているのか」そして「どうやったらそれが獲れるか」の話をしたいと思います。

先に結論を言うと、賞は「制作者・クライアント・社会」のために存在し、獲得するためには「募集要項をよ〜く読む」ことです。

どちらも至極当たり前のことをわざわざ言っています。
なのになかなか賞を獲れないのはなぜか?を考える記事になっています。

お急ぎの方は、目次の「デザイン賞の獲り方」をクリックで。


どんな賞が、誰のためにあるか。


一般的に認知度が高く、誰でも耳にしたことがある賞といえば、

・M-1グランプリをはじめとしたお笑いの賞
・世界的映画際で監督や俳優に与えられる賞
・グラミー賞や日本レコード大賞などの音楽関連の賞
・グッドデザイン賞

あたりでしょうか。
この中で僕が所属する空間デザイン業界が関係するのは、グッドデザイン賞です。

赤い丸に白い「G」の文字が45度傾いて配置されたロゴは、インテリアショップや企業のホームページ、家電量販店や百貨店など、さまざまな場所で見られるので、目にしたことがある人も少なくないでしょう。

グッドデザイン賞は「デザイン」が介在するあらゆる行為や製品を対象としているので、非常に幅の広いデザイン賞になります。

グッドデザイン賞は、デザインによって私たちの暮らしや社会をよりよくしていくための活動です。1957年の開始以来、シンボルマークの「Gマーク」とともに広く親しまれてきました。製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、私たちを取りまくさまざまなものごとに贈られます。かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質を評価・顕彰しています。

グッドデザイン賞ウェブサイトより

こういったデザイン賞はいったい誰のために存在しているのでしょうか?

「そりゃ、応募した本人のためでしょ?」
という声が聞こえてきますが、実はそれだけではありません。

M-1や音楽のように、個人(もしくは小さなグループ)の技術を評価する賞に関しては概ね「本人のため」になりますが、建築やインテリアの賞に目を向けると、大きく3つの「誰か」が存在します。それは以下の3つです。

  1. 制作者(自社)のため

  2. クライアントのため

  3. 社会のため

次項では、僕が手がけたホテルのプロジェクトをあるデザイン賞に応募した場合を例に挙げて、なぜその人・社会のためのデザインなのかを解説します。

iF DESIGN AWARD 受賞作品|NIPPONIA HOTEL 函館 港町 /ダイニング


3つの受賞者

制作者(自社)のため

自分が賞に応募した訳なので当然ですね。
制作者が何のためにデザイン賞に応募するのかと聞かれたら、ほとんどの場合「自社の認知度を上げるため」「自社の信用度を高めるため」といった理由が返ってくるはずです。

デザイナーとして独立したての新人さんにおいては、デザイン賞は特に注目していることだろうと思います。

実績が少ない中で必死に営業しても、なかなかクライアントに辿り着かない。あるいは取れる仕事が自分「らしさ」を求められてのものではなく、汎用的な技術だけを必要とされ、モチベーションが上がらない。といった状況にある人が多いからです。

こういった状況からの脱却に、デザイン賞の獲得が役にたつことは往々にしてあると思います。

その人が持っている信念や技術は、デザイン賞獲得の前後で何ら変わらないのに、相手側の見る目が変わってしまうんですよね。
僕みたいに捻くれた人間はついつい「賞を取ったからといって見る目を変える人間なんて信用ならない」などとうそぶいてしまいます。

しかしながら、逆の立場で考えてみると、自分も会ったこともない人を色眼鏡で見ていると気づかされます。

「権威に認められているから良いものに違いない」と考えなしに評価してしまうことは危険だと思います。しかし、まだ世に知られていなかった人が、受賞をきっかけに自身を評価してくれる人に出会えるようになる。
こういった事実に関しては素晴らしいことだと思います。

iF DESIGN AWARD 受賞作品|NIPPONIA HOTEL 函館 港町
既存レンガ躯体と縁を切った構造

クライアントのため

受賞はクライアントのためにもなります。

自身が経営するホテルがデザイン賞を獲得した。
まっさきに有用性を感じるのは広報部門だと思います。
プレスリリースのネタにもなりますし、場合によってはメディアからの取材が得られ、お客さんの増加にもつながるでしょう。

もう一つ例を挙げるなら、社員のモチベーションUPです。
すでに働いている人にとっては、自社の扱う空間やサービスが評価されたことでモチベーションが高まります。
また未来の社員に対しては、自社事業をプレゼンテーションする際に使うなど、採用の現場でも役に立つでしょう。

制作者は自分がデザインした空間が、受賞の有無に関わらずクライアント側でどのように作用するのかを考えて、プロジェクトに向き合うべきだと思います。

社会のため

デザイン賞の受賞が社会のためになる、とはピンとこない感じがします。
他に類を見ない格好の良い空間ができたけれども、果たしてこれがどう社会の役に立つの?と。

「デザイン賞を取ったから社会のためになる」のではなく「社会のためになるからデザイン賞を獲得した」と考えれば理解が簡単だと思います。

この理解が賞の獲得に重要なのです。


ホテル敷地の俯瞰写真|金森倉庫群に隣接する建物が対象

デザイン賞の獲り方

募集要項に答えが書いてある。

冒頭で結論として書きましたが、デザイン賞獲得を目指すのであれば、募集要項に穴があくくらい読み込む必要があります。
大学の受験生が赤本を買ってきて、設問の傾向と対策にじっくり時間をかけるように丹念に。
なぜなら、そこには賞を与えたいプロジェクトがどんなものかをうかがい知るための設問が掲載されているからです。

この記事で例に挙げているホテルのプロジェクトは、ドイツのデザイン賞、iF Design Awardに応募し入賞しました。

この賞への応募で提出を求められたのは、一般的な情報と竣工写真、図面の他に、以下5つのテキストがありました。

  1. Design Statement/デザインの方針・コンセプトを教えてください。

  2. Idea/プロジェクトを他と差別化するアイデアは何ですか?

  3. Form/かたちに関する独自性は何ですか?

  4. Function/どのような機能上の工夫をしていますか?

  5. Impact/このプロジェクトが周囲に与える影響はどのようなものですか?

これらの設問が事務局が重要視しているものであり、これに対して期待以上の回答ができるプロジェクトが賞を獲得できるという訳です。

しかし、これらの設問を眺めているとあることに気づきます。
それは、制作者だけでは全ての設問に回答ができないことです。

事業内容も問われている

デザイン賞であれば、1のデザインコンセプトや、3のかたちの独自性を述べられれば良いと思うところに、2のプロジェクトの他との差別化や、5のプロジェクトが周囲に与える影響は?といった、事業そのものに関する設問が存在します。

つまり事業内容そのものもデザイン賞の評価の対象になっているということです。一昔前にはあまり見られなかったことです。

十数年ほど前の、建築やインテリアの賞を獲得した作品を見ると、事業内容が評価に関与している気配はあまり感じられません。

現代社会では良くも悪くも、社会的意義や環境への配慮といった指標が日常的に喧伝されており、物事の評価基準になっているように思います。

デザイン賞についてもこの流れ、時代に沿って開催されているという理解で良いでしょう。

つまり、現在のデザイン賞は制作者個人の技量で獲得できる募集要項のものは少なく、ほとんどは社会問題をどう捉えているか、解決するための思想・施策が導入されているか、といった事業をのもののデザインが密接に関わっているということです。

客室のデザイン|9室ある客室は全て差し色を変えたコーディネート

クライアントと一緒に設問に回答する

ようやく結論めいたところまでやってきました。
もっと端的に書けないものか、、、

現代に開催されているデザイン賞で結果を得るには、制作者単独でデザインについて考えるのではなく、クライアントと一緒に設問について考えよう、ということです。

制作者とクライアント両者が、社会の要請に真摯に応えるデザインをすれば自ずと社会のためになるはずです。

設問に回答してからデザインをはじめる

最後に。

ここまで読んでこられた方はお気づきかと思いますが、プロジェクトが完成してから「あ、今あのデザイン賞がやってるな」と気づいて応募するよりも、プロジェクトの初期段階でデザイン賞の募集要項への回答を書き出してからデザインを進めた方が、受賞する確率はかなり上がるはずです。

また、回答を書いた際は是非自分以外の第三者に読んでもらってください。
クライアントでも、パートナーでも、友人でも良いです。

デザインに真剣になればなるほど、ひとりよがりの考えが入っていたりするものです。第三者の考えを借りることで、より社会に開いたデザインをすることができるのではないでしょうか。

建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。