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名もなき発明王に、君はなる。|空間デザインのお仕事

この春卒業をして、建築事務所や空間デザイン事務所、インテリアデザイン事務所に就職するみなさん、おめでとうございます。

このnoteを書いている3月10日はまだまだ寒く、アラジンのストーブに青い火を灯し、その上においた柳宗理デザインのやかんから蒸気を出して暖をとっています。

発売されてから時間が経ってもなお、変わらず売れるロングセラー商品をデザインできたなら、プロダクトデザイナーは大満足だろうし、一流と呼ばれる人になるでしょう。

Aladdin|ブルーフレームヒーター
メーカーのHPより
柳宗理デザイン|ステンレスケトル つや消し
販売しているD&DEPARTMENTのHPより


誰かと初めて会うときには名刺がわりに、デザインしたプロダクトを見せれば「おー、これをデザインされたんですね!」と反応を得られるので、デザイン職の中では比較的営業がしやすい職種なのかなと思います。(実際はそんなことないかもしれませんが)

一方で、主に商業空間をデザインする仕事でも、ある種のプロダクトをデザインすることがあります。

しかしそれは名刺がわりに誰かに見せられるものでもないし、クライアントにすら認知されない、黒子のような存在であることがほとんどです。

さて、ここでクイズです。

下の写真の部品は何に使うものでしょうか?

円盤に4本の棒が溶接されている。円盤はφ85mm
円盤の下には丸パイプがくっついている。パイプの径はφ32mm



正解は「スタンド照明のソケットについている電球を取り外して、そのソケットにかぶせるモノ」です。

丸パイプの径がソケットのそれより一回り大きいサイズになっていて、すぽっと差し込めるようになっています。
深く差し込めるので逆さまにしない限り外れない仕様です。

、、、で、
なんでそんなことする必要があるん?


という疑問が浮かぶことでしょう(笑)
なぜにわざわざ電球を撤去して、鉄でできた物体を取り付けるのか。
電球無くしてしまったら光らないし、用をなしてないじゃないか、と。

理由を述べます。

このプロダクトのようなものが必要になったプロジェクトは、設計対象が木造の重要文化財であり、建物の改変に大きな制約がありました。

ずいぶん前、まだ文化財の扱いが今ほど慎重ではなかった時期に設置されていた照明器具が2つと、コンセントが一箇所ありましたが、現在は電気設備を追加で設置することがむずかしい状態でした。

そのような状況のなかで、家具などを設置して今よりも多くの人に来館してもらうというお題に答えるためには、照明器具の追加が必須だと感じました。しかし電気は使えない。

こんな制約があるなかで真っ先に思いつくのは「充電式の照明器具」でしょう。
しかし「和の空間に合うもの」「ある程度大きく、存在感があるもの」で探すと見つからない。

商業空間のデザインということもあり、プロダクトを一から開発するような時間もない。(そもそも自分のスキルでは開発できない)

ということで、色々な方向に発想を巡らせ解決方法を考えます。
最終的に出てきたアイデアがこれ。

既製品の和風の行灯照明器具の外側を利用し、光源部のみ充電式にする。

ここまでアイデアが出たらあとは実現するためのリサーチ&設計です。

外側のみ使うために購入した既製品の行灯


電球の代わりに充電式の光源をシェードの中に設置するとしたら、どんなものが適当か? 充電時間と点灯時間、色温度、光量などさまざまな条件を比較しながら商品を探します。

また、どんなに条件が良い商品でも、照明のシェードの中に収まらなければ使えませんので、そのあたりも加味する必要がある。

「あ、これちょうど良さそうだな。あぁ、、でもシェードにあたってしまうか」などと一筋縄にはいきません。

最終的に採用した充電式光源/LEDランタン by SANWA


商品が決まったら、次はどのようにシェードの中に固定するかを考えていきます。

電球を取り外したソケットの内部にはネジが切ってあるので、同じピッチ、太さのネジを見つけてそれに台座をくっつけるか?など。

ネジ形状はハードルが高そうだったので、最終的にはソケットの「外側」に円筒をかぶせる形状を採用し、先に挙げた写真の部品を設計して製作しました。

円盤状の台座から飛び出している4本の細い棒は、設置するLEDランタンが転けないようにするため工夫です。
なお、部品の色が白いのは、光を一番拡散しやすい色だからです。

このようにして、電源への接続が不要で、どこでも移動可能な和風行灯が完成しました。
電源コードを使わないので、切ってしまうことができたのは嬉しい副産物でした。(コードの見栄えがいつも気になるから)

こうして出来上がったプロダクトに名前はありません。
強いて言うなら「電球のソケットに差して上に何かおくやつ」でしょうか。

空間デザインの仕事をしていると、このようになんらかの問題を解決するための「名もなきプロダクト」を発明しなければならない状況に頻繁に遭遇します。

「発明」と言うほど社会にインパクトを与えるものではないし、設計者の名前が顕彰され、ロイヤリティが入ってくるわけでもない。

発明への直接的な対価はないけれど「問題を解決したい」というモチベーションでプロジェクトに没頭できる。
こんな性質が空間デザイナーには求められると僕は思います。

この春から空間デザインの世界に飛び込む人は「名もなき発明王」になってさまざまなプロダクトの「ようなもの」をデザインしてプロジェクトの成功に寄与してください。

最後に。

ないのなら、つくってしまえ、プロダクト。
ではなく
ないのなら、カスタムしよう、アイデアで。

空間デザインの仕事の領域は多岐にわたり、かつ考えることに費やせる時間が思いのほか短い職種です。

既製品にできるレベルのプロダクトを一品、プロジェクトの間に開発することは無理に近いはず。
であれば、今すでに存在するものと少しのアイデアを組み合わせる、DIY的な思考も必要です。頭と手をうごかして、世に一つしかないものづくりを楽しみましょう。

それではまた来週。

↓「問題解決」をテーマにした名もなき家具をつくった記事もどうぞ。(note初投稿の記事でした)



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