『ブランド価値共創』

【マーケティング定番書籍】その4

『ブランド価値共創』

 著者:和田充夫
 出版社:同文館出版
 第1刷:2002年7月31日

ブランド価値共創

1. 本書を読んだ背景

本書を読んだのは2003年から2005年の間、アバウトですね(笑。
日本消費者行動研究学会では重鎮であられる和田充夫先生のブランド論です。
和田先生と言えば “関係性マーケティング” ですね。

2. どんな人に向いているのか?

巷に溢れるブランド論の著作の中で、本書をお薦めするとすれば、まずアカデミア(学術)の皆さんでしょうけど、実務家でもブランディングの初歩を勉強したい方にはお薦めいたします。
例えば、D・アーカーの著作を読む前に読んでみるのもいいと思います。

3. 本書のポイント

3-1. まず和田先生のブランド価値の構造です。
大まかに言えば、一般的なマーケティング用語での「機能価値」が「基本価値」、「情緒価値」が「観念価値」に対応すると言えるでしょう。

・基本価値:品質信頼度、品質優良性評価度
・便宜価値:製品入手容易度、製品使用容易度
・感覚価値:魅力度、好感度
・観念価値:コミュニケーション共感度、ライフスタイル共感度

3-2. 和田先生が最初に述べられているように、関係性マーケティングのフレームを背景に、「ブランド・ロイヤリティ」といった供給者中心の概念を超えて、「ブランド・パトロナージュ」から「ブランド共創」といった概念を確定されていることが特徴的です。
それでも“机上の空論”に陥ることなく、マーケティングのSTPに忠実に論じられています。
 
3-3. もはや当たり前の感が強い「経験価値マーケティング」の基本を学ぶには良い書籍です。

4. 感想

今回も、最後の感想で本書からインスパイアされた過去の自分の仕事の回想が多くなっります。
今回ほど仕事回想の内容が多いのは、今回が最後となります(たぶん・・・)。
ご興味のある方のみお読みください(笑

私が音楽シンクタンクに入社したとき、ミッションの一つとして“アーティストのブランディング”を掲げさせていただいておりました。
もっともレコード会社でもマネジメントオフィスでもなく、メインの業務は小売店のコンサル・業態開発でした。
退職する数か月前になって、自分が本当にやりたかったこと、まずはアーティストのブランド価値を測定してみようということでネット調査を企画・実施しました。
そのブランド価値のフレームを本書から援用させていただいた次第です。

20200907_女性アーティスト_1

アーティストは人ですので、「便宜価値」を除いた「基本価値」「感覚価値」「観念価値」各々の構成要素を決め(基本価値には「歌唱力」「声質」など)プリコード化しました。
下記はそのレポートの一部です(全体で数百ページです)。
感性(商品)を「要素還元主義」で定量化する、というアプローチでした。
社会学の分野では、宮台真司とかがやられていたようです。

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それまでは音楽業界でアーティスト=ブランドという概念はなかったものの、2006年にこのレポートのプレスリリースを打った後に、オリコンさんのようなメディアが、アーティスト=ブランドという言葉を使い始めました。
そのような状況でしたが、このレポートを見ていただいたエイベックスのあるマーケターさんだけ、「同じようなことやってます・・」と仰せだったこと記憶しております。

*その最初で最後の調査も“中途”で終わったままです。1) 売上データも勘案した総合的なブランド力測定、2) 共分散構造分析(SEM)を使ったブランド価値構造の精緻化の2点を行っていなかったのは心残りでした。。

*そういえば、和田充夫先生にこのレポート贈呈しますと約束したのに、いまだにご贈呈していなかったなと・・。

尤も2006年秋、私の退職後もこのレポートを代理販売する契約を締結しておりましたので、データを使って「価値構造」(Keyグラフ)、CD購入に至るトリガー、魅力度を高める価値の数量化理論Ⅰ類などで遊んでいたこともありました。
(当時は、商品化するまでの資金、余裕、気力はありませんでした・・)

「CD購入のキードライバー」
このページは「感覚価値」です。

CD購入キードライバー

このアーティストの「CD購入のキードライバー」は「ルックス」と「フレッシュな感じ」。
「ルックス」はいわば "当たり前品質" ですが、常にトレンドから取り残されない新鮮な話題提供が重要であることが示唆されます。

「価値構造」
普通、Key Graphはテキストマイニングの共起分析で使いますが、これはアンケート調査の複数回答 (MA) 選択肢の共起分析結果です。

価値構造

中心価値は、「好感が持てて魅力的」という観念価値ですが、感覚価値である「ルックス」「ファッションセンス」との結びつきが強く、基本価値の「楽曲との整合性」、「楽曲の構成」も中心価値となっています。
さらに、これから別の視点で中心価値を構成するポテンシャルがあるのは、「自分に必要だし人にも自慢したい」という観念価値の群。
「生き方への共感訴求」がポイントになると想定されます。
メインの価値構造を維持・強化するか? サブとなる価値構造をどうするか? ここからはアーティスト個々の特性を勘案していく、ということになります。

魅力度を高めるために必要な要素(数量化理論Ⅰ類)
これはBoAですね(何せ2006年ですので・・)。

重回帰分析

まず「ルックス」なんですけど、「声質の良さ」をベースとして、時代から取り残されない楽曲制作や話題の提供がポイントになることが示唆されています。
*グラフの青系は感覚価値、赤系は基本価値です。

以上です。

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水琴窟




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