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夢で逢いましょう 5 『閻魔』

夢の中にエンマ大王が出てきました。
エンマ大王は言った。

「わしー、えんま。よろしくー」
「え?エンマってあの地獄の大魔王?」
「なんだぁ?地獄?うまいのかそれ?」
「おいおいおーい。エンマだろ?軽すぎでしょあんた」
「はあ?軽くなきゃここにはいられんぞ。おまえ死んだのか?」
「死んでねーよ。なんだよ。何の用だよ」
「そりゃこっちのセリフー。んじゃ帰る」
「ちょちょちょ、まてよ。あんたさー。死んだ人を地獄、えーと恐ろしいところに送る役目があるんでしょうが。オレはさ。自慢じゃないが悪いことはしてねーぞ。むしろ愛に生きてきたつもりだ。だから天国に行く権利があるのさ」
「てんごく?なんだそりゃうまいのか?」
「なんなんだよ、あんたは。だからとーってもしあわせに満ちた光輝く世界だよ。霊界の。神様とかいる世界だよ」

「あーーー。それ、地球の事だろ?いいなあ。おまえたちはそんなところに住めて」
「はあ?ちょと何言ってるかわからない。あのね。人間は死んだら地球の3次元の世界から霊界に行くんだよ。生きている時の行いによって高―い次元の霊界に行く者もいれば、次元の低ーい、えっと畜生界とか地獄に落ちる者もいるんだ」
「次元に低いも高いもないぞー。第一おまえ、地球は3次元どころか9次元に満ちた世界だろう。えっと学校で習ったぞ。そんな見えないものがいのちを作っているって」
「じゃ、じゃあ、おれたちゃ死んだらどこにいくんだよ?え?それを管理してんのが、あんただろうが。ったく自覚がねーな」

「あー、そゆことね。まあ、地球から離れたくなーい、ていう霊がいるからね。そういうのをひっぱってきたりする。こいつがけっこう力業でさー。霊魂ってのはしぶといね。だいたいが記憶となって宇宙に放たれるんだよ。その離れようとする記憶を引き寄せているのが、まあ、おまえたちの言う愛に相当する、いやもっと大きな。かァみィのアイというか光というか」
「は?じゃ、じゃあ何?宇宙は記憶と愛でできてるっての?」
「まあ、簡単に言えばそうだ。その記憶と愛で集められた霊魂が混沌とした宇宙と地球の大気の間、エッジオブカオスで螺旋の渦、勾玉みたいになって再び地球に舞い降りるんだよ。母ちゃんのおなかの中に。おまえ、かあちゃんいないのか?」
「いるよっ。ったく変な奴だなあ」

「いいなあ。そうだ。地球ってな、かあちゃんみたいなもんだ。わしも地球に行きたいぞ」
「何言ってるんだ?地球は地獄だぞ。生き地獄だ。オレたちはそこで修行して立派に生きて愛の人になって、天国、素晴らしい霊界にアセンションするのだ」
「アセンション?ちょと何言ってるかわからない。地球は天国だろう。なぜにそこからわざわざ離れようとするの。だいたい地獄ってのは人間が作っている世界だろう。地球は慈愛に満ちているぞ」
「慈愛だ?んじゃあ、なんで俺は不幸せなんだよ。金もねえ、彼女もいねえ、希望もねえ。おまけにわけわかんない病気になっちまった。なんにも集中できねえ。テレビなんか10分も見れねえ。人としゃべってると相手の日本語が何語でしゃべってるのかわかんなくなっちまう。何かに集中しようとすると足ががくがく震える。めまい、吐き気、頭痛がする。人混みなんか絶対無理。あ?オレはいったいナニ人だよ?宇宙人か?地球環境がオレには向いてねぇんだよ。だからオレはアセンションするんだよ。愛だけがオレを救ってくれる。オレに必要なのは愛だよ、愛。神様、オレは愛を求めて生きるよ。神様~。おい、オレはあんたなんかに用はねえんだよ。神様呼んでくれ。かぁみぃさま!!」

「…はあ。ちょと深呼吸しなさいよ。愛が救ってくれるって?マジで言ってんの?そもそもおまえは自分のこと、すんげえ愛してるでしょ」
「あ?自分を愛している?あー、よく言うよな。自分を愛しなさいって。自分を愛さなきゃ人も愛せない、愛も与えられないって。でもこんなみじめな自分をどう愛せっちゅうのよ!そりゃ、しあわせな人の発想だろうがよ」
「…はあ。おまえ、自分がみじめで落ち込んでいるんだ?自己嫌悪?」
「あー、そうだよ。悪いかよ。死にてぇよ」
「そりゃさ。自分を愛している証拠じゃないの」
「…ちょと何言ってるかわからない」
「自分はこんなはずじゃない。本当の自分は違うんだ、て思うから、苦しむんだろ?自分のことがキライでどうでもよかったら、病気だろうがなんだろうがどうだっていいじゃないか。ちがうかい?自分のことを愛してるから、悩んだり苦しんだりするってことだろう。まずはそこから気がつかなきゃよ」
「自分を愛しているから・・・苦しむ」

「ああ、そうだ。めいっぱい愛してるよ。だから生きているんだ。おまえの体の細胞もそれに呼応して頑張ろうって思ってんだ。だから愛は求める必要ないのさ。愛は自分の中にいーっばい溢れているってことに気づくことが、まず大切」
「…あんた、本当にエンマさま?あー、わかった。本当は神様なんだろ?んでわざわざ大魔王のふりして、迷えるオレのために降臨してくれたんだね。神様の姿してたら、最初っからオレは甘えてしまうからな。あ、そうだ。きっとそうだ。そうに違いない。神様がオレを救いに来てくださったんだ。ああ、神よっ!」
「ちょちょちょ、抱きつくなよ。きもちわりーな。泣くなよ。よだれまで垂れてるじゃねーか。だいいち、神様はおまえたちをもうお救いになっているぞ。なんでまた救われたいんだ?」
「す、救われてる?」

「トロンとした目で見るなっちゅうの。そうだよ。この地球に生まれて、生きて、呼吸して、食べて、もうそんだけで十分だろが。そんだけでものすごい奇跡的なことだ。なぜに溺れたようにワラにしがみつこうとする?溺れる者はワラをもつかむ、か?それはさ。救われている、ということに気づいていないからだよ。力を抜けば自然と浮くだろう。救われているのにそれに気づかず、救われたい、溺れるって思うから不安と恐怖でいっぱいになっちゃって、あせって余計溺れるんだろう?
いいか。まず、自分は自分をめいっぱい愛していることに気がつくこと。例えれば、波に囚われて溺れそうになっている自分は自分じゃなくて、本当の自分は海そのものだってことに気づくことが大切だ。波は海がなきゃ生まれないけど、海は波があろうがなかろうが、ゆったりとそこに、在るんだ。おまえは、愛に満ちた海そのものだ。
そう。空に例えるとすれば、そこに浮かぶ雲は、おまえのこころだ。それは変化する。悲しんだり喜んだり苦しんだり悩んだり。でも雲は流れてやがて消える。それは眺めていればいい。見つめすぎるとその雲はだんだん集まって黒い雲になって、太陽の光さえも入らない暗闇になっちまう。ただ眺めていれば、消えるんだ。それに囚われてはいけない。おまえ自身は、空なんだよ。雲じゃなくて、空。どこまでも澄み切った真っ青な空。
それが、自分の『在る』なんだよ」
「…オレは波でなくて海であり、雲でなくて空である…」

「はあ。一気にしゃべったら、疲れた。わし、もう帰るわ」
「…オレは波ではなくて、海。オレは雲でなくて、空。オレは、オレのことを愛してる」
「そうだ。その愛をめいっぱい感じろ。神様に頼るな。ってか、おまえはもう神のパワーをいただいている海だ。空だ」
「オレは、ああ、オレは、オレを愛してるっ」

「(微笑)…んじゃな。また抱きつかれる前に帰るわ。もう一つだけ言っとく。おまえはおまえの海を自由に泳げる。さっき言ったことに気づきさえすればな。だが、泳ぐのは神の力じゃない。自分の力だ。自分の意思で泳ぐんだ。そりゃ苦しい。あたりまえだ。でもそれが自由、自在ってことだ。わかったか」
「自分で泳ぐ。愛してるから泳ぐ。オレの海…」
「(頷き)おまえの場合は荒波ばかりだけどな。それもちゃんと意味がある。さあて、オレはこれから帰って、仕事だ。キンタ、いや、相反するものを均等にする玉を地球にまかなきゃいけないんでな。さらばだ。人間よ。ヒューマン、ビイング!」

よだれを垂らして空を見上げるオレを残して、エンマはお空に消えていきました、とさ。


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