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【半径3メートルの世界】 世界を変化させるために手放したもの

忙しいと言いながら、1月末の平日の夕方、かなり強引に時間を作って美容室に行った。それも、今まで行っていた美容室ではなく新しい美容室へ。

今まで行っていた美容室のオーナーとは、かれこれ30年くらいの付き合い。成人式のために伸ばしていた髪を切りたくて、初めて訪れた美容室で彼に出会った。それ以来、なぜか彼から離れることができず、彼が別の美容室に転職してもついて行き、独立することになった時にはお店の内装デザインでも協力した。

私も52歳になり、彼も56歳になった。
彼は昨年、この先のお店の運営を考えて、私がデザインした店舗を手放し、シンプルな居心地のよいお店の空間を作った。
それには私は関わることがなかったけれど、もちろん彼について行った。

実はこの彼に私の兄弟も髪を切ってもらっている。だから、頻繁に会うことがない兄弟の様子も、彼になんとなく聞くことができた。

そして、私の解散した二人の元旦那さんたちも彼に髪を切ってもらっている。でも、この二人の様子を私から聞くことはない。

二番目の元旦那さんとお付き合いしていた頃、髪を切るたびに毎回ちょっとバランスが悪いような気がして、私が行きつけの美容室を紹介したのだ。
だから解散した時、美容室の彼に一つだけお願いした。
「二番目の元旦那さんがここに髪を切りに来ても来なくても、私は全然気にしない。でも、同じ日に予約になるようなことにはしないでほしい。もし重なりそうになったら、さりげなく別の日になるようにしてね」

この約束は、もう12年ほど守られていて、私は今までも一度も美容室で彼に会ったことがない。
でも、元旦那さん二人とも美容室に通い続けていることだけは、数年前に知ることになった。どんなきっかけで知ることになったのかは忘れてしまったけれど、別に知ったところでなんとも思わなかった。
この美容室に通うかどうかは私が決めることではなく、彼らが好きにすればいいことだ。もはや彼らの行動は私には関係ない。


昨年末。父にLINEの設定を頼まれた時、私の目の前に知った名前が現れた。そう、二番目の元旦那さんの名前。タイミングがいいというか、悪いというか、私が父のスマホをいじっている時に、彼からのLINEメッセージが入って来たのだ。

そして、その文章の一端を私は読んでしまった。

「ねえ、まだこんなやりとりしているの?」
私は父にちょっとイラッとしながら聞いた。

父は取り繕ってはいたものの、明らかに動揺している。この状態を私に知られて困っている。結局色々と聞いてみれば、二番目の元旦那さんの仕事のことで、父が協力してあげることになったようだ。

まだそんなことしているのか……。父に対して苛立ちを覚えた。
そして彼に対してもとても腹が立った。もう解散してから12年という月日が流れているのに、いまだに父を頼るなんて。

私たちの解散直後、彼が父を頼っていることはなんとなく知っていた。でも、私の見えないところでやっていることだったし、まさかそれが今でも続いていたなんて思ってもみなかったのだ。

美容室の件では、彼がどんな行動を取ろうとも私には関係ないと思って気にしていなかったけれど、いざ私のわかるところに彼が現れたらものすごく不愉快だった。なんだか私の世界を侵食されたような気分になった。

そして「私のことを一番に思ってくれているはずの父が、私のことを傷つけた人を大切にしている」そういう思いが怒りと悲しみを生んだ。

もちろん解散することになったのはお互いに問題があったからだと思っている。でも、表面的な理由は彼の浮気だった。そして、「彼に傷つけられた」という思いが私の中に根強く残っていることにも、この時初めて気がついのだ。

12年前、家を追い出されて実家に戻った時、私は両親に彼が浮気をしていることを打ちあけ、解散したいと泣きながら話した。
その時も父は「お前が仕事を辞めて家に入ればおさまることだ」と言い、私は、私の気持ちを理解しようとしてくれない父の言動に絶望感を味わっていた。

私は色々な思いが一気に湧き出て、怒りに任せて口走った。
「パパは娘を傷つけるような男を助けるんだね。娘と彼と一体どっちが大事なの」

口に出した瞬間、とても馬鹿げたことを言ってしまったと思った。12年も前の出来事を忘れることもできず、口にした言葉が虚しかった。でも、後悔はなかった。馬鹿げているとわかっていても、ずっとずっと聞いてみたかったことだったんだから。

父は黙っていた。横にいた母も黙った。
きっとこんな馬鹿げたことをいい大人になった娘に言われると思っていなかったのだと思う。

そして、言ってしまった私が一番驚いたのは、私自身が親から精神的な自立をしていなかったということに気がついたことだった。
もうとっくに親を離れて生きていると思っていたのに、いつもまでも親に守ってもらいたいと思っていたんだ。ずっと頼って甘えていた。
そして、両親に執着していたんだ。


父との一件があったあと、二番目の元旦那さんが私の実家のそばで事業を続けていたり、美容室にも通い続けていることに対して、違和感を感じるようになった。

そして、私は友人に
「元旦那さん、甘えすぎだと思わない? 一緒の美容室に通うのを辞めてほしい」と初めて口にした。

これが本音だった。元旦那さんたちが美容室に通っていることを容認するような態度をとっていたけれど、本当は私のそばからいなくなってほしいと思っていたんだ。

そして、私の心の中にあったのは二番目の元旦那さんに対しての執着、そして「私が通っている美容室」だという美容室への執着。

私は自分の本心を話して、一息ついた。

すると、
「美容室を変えよう。私が変えればいいことだ。私が全ての執着を私自身から取り除こう」
こんな言葉が頭に浮かんだ。

私はその時入れていた通い続けていた美容室への予約をキャンセルし、別の美容室を探した。ちょうど結婚相談所がお薦めてしてくれている美容室が近くにあり、直感的に「ここがいい」と思えた。

思い立ったら即行動。私は週末を待たず平日の夕方の時間帯で、一番早く空いている日に予約を入れた。

当日、初めての美容室の鏡の前に座り自分を見つめていた。担当の美容師さんと鏡越しに目を合わせる。婚活をしているという事情を考慮するとプロフィール写真から大きく髪型は変えてはいけない。担当の美容師さんはその上で一つの方向性を提案をしてくれた。

いつもと違う人が私を見て考えてくれた髪型は、私のどんな一面を引き出してくれるのだろう。「任せてください」という担当美容師さんに、全面的に委ねることにして私は仕上がりをじっと待った。

髪を乾かしたあと、鏡の中には少しスッキリした私がいた。私は今まで見たことのない自分を鏡の中に垣間見た。こんな雰囲気もありかもしれない。他人から見たらほんの少しの変化かもしれない。でも、私には大きく変わったように思えた。いや、変わったのではない。私の中の別の自分を発見したのだ。

両親、元旦那さん、馴染みの美容室。執着を手放した先には、素直な自分が見えていた。気持ちが軽くなっていることを感じる。


今、髪を切っておきた変化が、私の半径3メートルの世界に今までとは違う彩りを加えている。そして、今まで以上に自由に軽やかに私は小さな世界を楽しみ、愛おしく思い大切に生きるようになった。

もっと自由に、もっと世界に変化を起こしたい。もっと、今まで見たことのない私を発見したい。私のこんな想いが、まだ手放すことのできない何かに対する執着を手放すように促している。

「まだ見ぬ私」を探す旅は、まだ旅の半ばといったところだろうか。


「まだ見ぬ私」を探す旅のスタートの話です。よかったら読んでみてください。













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