見出し画像

実父「そいつ変だな〜と思ったら、元男だったんだよ笑」と言われた話

 そう言った父は「まあ別に性別がなんだろうが、別にパパはどうでもいいんだけど笑」と付け足すように薄ら笑いを浮かべた。その言い訳って、ネット上によくいる差別主義者がよく言う文句に似ている。「俺は全然差別しないよ!ゲイの友達だって全然いるし!」と言い張るやつ。

 先日、実家に帰って親にどうしても書いてもらわないといけない書類があり、仕方なしに帰省した。そこでこの話をされた。
 父の職場に、リオ(仮名)という名の派遣社員のトランス女性がいるらしい。リオは太っていて、挨拶もままならず、ちょっと前まで夜職だったので昼間の仕事中はいつも眠そうで、ハキハキとせず、精神疾患もある女だと父は言った。管理職の父は、リオを気に入っていないから派遣からはずそうとしている。リオの愚痴をこぼしたかったらしい。
 「そいつなんか変だな〜と思ったら、元男だったんだよ笑」と父は言った。

 リオの容姿がたぶん彼の思う「女」には足りず、ハキハキと挨拶する”感じの良さ”のレベルも彼の思う「女」には足りず、それの着地点を「元男だった」で納得し回収していく様が、男女二元論的なものかつジェンダー規範に呪われた60代の男の行く末なのかと思われた。

 太った女。ハキハキしていない女。夜職出身の女。昼は動けない女。精神疾患の女。それが元男だったからって、なんなんだよ。
 特に、性別違和×精神疾患のコンボを、それらすべての理由としてあげていたが、それ全部ワイだけど? お前の娘も、ノンバイナリーの上に境界性パーソナリティ障害罹患中。私だよ、それ。お前はいつも私を見ない。

 その上、リオを派遣切りしようとしているのだ。特権階級にいる年配男性の父が。

 胸を無くせないかなと実子の私が本気で悩んでいることを、知ることはないでしょうね。「仕事の愚痴をこぼしたかっただけだよ」なんて良いように解釈したくないよ。あんたは、昔から、他人の身体のことを何かと言っていたね。特に太った人をバカにして見下してたね。「うちの子供たちはみんなデブじゃない😄」と言ってニコニコと安心し、私や弟たちそれぞれにパートナーができたら「うちの家族はみんなデブじゃない😄」に変わったね。でも、私のパートナーは太ってるけど。もしかして見えてない? 自分の良いようにしかゾーニングしないもんだから、いつもこうやって齟齬が生まれるんよ。ちなみに、太っているのはその人の体質だったり薬の影響だったりする可能性があることはもしかして、知らない?
 偏差値や頭の良さでもよく嫌なことを言ってたね。「〇〇線より西にある高校は馬鹿だから入るな」とニヤニヤしながら言ってたね。私の大好きな友達が通う高校を、偏差値で判断して馬鹿にしてたね。社会に出てわかったよ、偏差値で人の価値は決められないよ。本当の頭の良さは、会社や学校の名前ではわからないんだよ。
 あなたの職場には精神疾患の人がたくさんいるのは知ってるけど、「今度一回(父の職場を)見に来てみな!すごいから」と私に言ったのはなぜ? まず私が精神疾患者なんだけど、私たち精神疾患者を怪物か何かだと思ってる? 動物園じゃないんだよ。
 ときどきトランスジェンダーやゲイの人、精神病の人のことを、ユニコーンみたく別世界のモノみたいに語るのはなに? 私、ずっとそこに所属してるんだけど。幻のポケモンなんじゃなくて、もう私はあんたの目の前に、ここにずっと前からいるんだよ。
 自分の想像の範囲や規範でしか考えることができないのって怖いね。まさかね。まさか自分の“娘”がそうだとは思わないだろうね。かわいそうだね。ショックで寝込んで死ぬんじゃないの。

今度一人暮らしするタイミングがあったら猫を飼いますね!!