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Interview12/何も問題ない。

さつき(写真家)

私は大学時代、他大学のサークルに入っていたこともあり、
自分が通っている大学でできた仲良しの友達といえば
片手で数えられる程度でした。
その中の貴重な1人がさつきです。

たまたまゼミが一緒で、ノリが似ていて、
授業は合えば一緒に受けるという感じで、
いつも一緒にいたわけではないけど、
でもなんかずっと隣にいた友達です。
それでさつきは隣でずっと写真を撮っていました。
さつきは写真を撮ることが好きで、
卒業後に憧れの写真家に弟子入りし、
カメラの道へと進みました。

しかし芸術の道とは簡単ではないようで、
昨年ついにアシスタント業を辞めて
地元の山口県に戻ったといいます。
それでいて最近また、
現地のデザイン会社のカメラマンとして
転職先が決まったそう。

傷口に塩を塗ることになったら
どうしようかなと思いつつ、
いろいろあった過去を踏まえて
今の心境を聞いてみたい。
東京と山口、オンラインでつながったとき、
彼女は画面越しにカメラを構えていました。
変わらずカメラを構えている彼女を見て、
私はとてもうれしかったです。

(取材:2022年2月)

昨年はほんと、ドラマな年だったよ。

――何食べてるの?

さつき
マックのポテト。無性に食べたくなって。でも今Sサイズしか売ってなかった。ポテトの輸入がなんか難しいとかで。

――なんかそうらしいね。マスタードソース? バーベキューソース?

さつき
マスタードソースにしたー。元気だった?

――うん、元気。全然会えないね~。そっちは最近どう?

さつき
ほんとね、いつ会えるんだろう。あ、ついに転職先が決まりました!

――おおお! おめでとう! 変わらずカメラの仕事?

さつき
うん、デザイン会社のカメラマン。

――おめでとう!! 2022年バタバタだったと聞いているから、ここで落ち着けたらいいね。このままの流れで昨年のことを聞きたいんだけど、ずばり昨年はいい年だった? それとも悪い年だった?

さつき
え~~、どうだろう……。まあ、しんどいことは多々あったけど、結果は悪くないというか。いやでもどうだろ、悪かったのかな、うーん……。

――おお、そんな風に悩めるのはちょっと意外。失礼な話かもだけど、私が知る限り、さつきにとってあまりいい年じゃなかったんじゃないかな~って勝手に思ってたから。悩めるのはいいね。昨年のビッグニュースはなんですか?

さつき
それはもう、2年と8か月続けた、写真家のアシスタントを辞めたこと。

――うんうん、それって具体的にどんな仕事だったの?

さつき
シャッターを切る以外のこと全部。師匠の秘書的な業務から、撮影の準備、機材の組み立て、レタッチ、パターンづくり、フィルムのやり取り、色見本から納品までのメールのやり取り、請求書作り、暗室でベタをとったり、書籍や書類の電子書籍化、車の掃除、そのほかにも師匠のお子さんのチャイルドシートをつけるとか家族旅行の手伝いをするとか、ご家族のことまでやってたかな。

――ものすごい仕事量。撮影の媒体的にはどんなものが多かったの?

さつき
ファッション系のポートレート撮影が多かった。アパレルブランドのルックとか、カタログ撮影とか。

――華やかな感じがするなあ。ええと、最後まで、さつきがシャッターを切ることはなかったの…?

さつき
いや、数回はあったかな。披露宴のエンドロールのムービー撮影とか、ダブルブッキングしちゃった時に美容院系の撮影をピンチヒッターしたりとか。

――そうだったんだ。ちょっと聞きづらいんだけど、なんで辞めてしまったのか聞いてもいいですか。

さつき
うん。師匠が極端な言葉を使いがちな人で、それによって私がだんだん冷静さを失ってしまい、半ば強制終了で辞めた感じかな。その時助けてくれた人がいたんだけど、その人ともその後うまくいかなくなり、実家に帰った感じ。家族ぐるみで付き合いがあって、親戚みたいに昔から面倒見てくれてた人なんだけど。

――うん……。

さつき
辞めてからしばらくその人の家に泊まらせてもらったんだけど、私はもう疲労困憊で何も考えられない状態だったのね。それでその人に失礼なことをして困らせてしまって。だんだんその人との関係性が怪しくなり、私もその人に対しておびえるようになっちゃった。その人に晩御飯何がいいか聞かれた時、「これが食べたい」っていうのが答えられなくなっちゃったくらい。

それである日ついに帰りたくなくなっちゃって、駅のベンチでぼーっと「どうしようかな~」って悩んでて、それで夜になって、その人から電話が来て、母からも電話が来て。

――うわあドラマのような……。

さつき
ね。その後山口から母がきて、その人との関係を修復しようとしたんだけど、結局かなわず実家に帰ることになった。山口でホームセンターのバイトを始めて、今。

――師匠からあまりよくない待遇をされて離れることになり、その時守ってくれた人とも、うまくいかなくなってしまったと。大きい波が何回もきたんだね。

さつき
そうなの。師匠とも、助けてくれたその人とも、結局綺麗に終われなかった。……てか書きづらーい。どうまとめんの?

――考えます……。

さつき
へへへ。

カメラはもうこりごり?

――では続いての質問を。新しい仕事が始まろうとしてるけど、昨年のいろいろを踏まえて、今年はこうしていきたいなとか、ある?

さつき
うん。なんていうか、積極的に手を抜いていきたいなって。今までは……例えば私が食器を洗うのがすごく嫌いだとするでしょ。今までの私だったら、「食洗器買うくらいならちょっと我慢しよう」って思ってたんだけど、そこを、「食洗器買って楽しちゃお」っていう発想にしていきたいというか。ちょっと頑張ればできることだとしても、頑張らないでできる方法でいってみる。楽な方法を積極的に取り入れていこうかなと思ってて。それで余力で、やりたかったことに力を注げられたらいいかな。

あと、山口のホームセンターで働いてより強く実感したんだけど、完璧に同じ考えを持った人っていないじゃん。同じようなことを言っていても、微妙に違ったりする。これまで私はその違いがどうしても気になっちゃって、何日も誰かの言葉に引きずられる、みたいなことが多かったんだけど、「違うよね~オッケー」みたいな軽さになりたいなって。違うことに対してへこまないようになりたいというか。そのためにどうしたらいいのかは考えてるところなんだけど。あとは12月に、大学時代からお世話になってるギャラリーで個展を開くことが決まったので、そこのオーナーを含め成長したところを見せたいなって思ってる。

――いろいろあった上で、自分のこういうところを直していきたいなって思えているのは本当に素敵。

さつき
へへへ。昨年、アシスタントをやめて山口に帰ってしばらくした頃に、私の作品に対してある人からレビューをもらったのね。自分の正直な思いを書いて、それと一緒に作品をその人に送ったの。自分の身に起きたこととか、今の精神状態とか、最近見る夢の話とかまでわりと赤裸々に。そこで私は「写真の世界から出てしまった」って書き方をしたんだけど、そしたらその人が、「写真の世界ってそもそもないよ」って。ちゃんと見てくれてるんだなっていう感想がきたの。ほんとこれはね、うれしすぎて聞かせたい。読むね。

「好きなことは続けるべきなんだよ。だから変なことは考えないで、とにかくカメラを持ち歩いて撮り続けてほしいなと一ファンとして思います。好きだけど嫌い、嫌いだけど好き、そういうことで世界は成り立っているから何も問題ないよ」。

――これは……さつきの思いをちゃんと受け止めた上で、返ってきた言葉だね。

さつき
うん。ほんとに救われた。あと、それこそ12月に個展を開くギャラリーのオーナーが昔落ち込んでた時に「あなたには写真があるから大丈夫だよ」って言ってくれて。そん時はもう、みんなラブ~って思った。
そう言ってくれる人がいる。今の私でOKって言ってくれる人って、写真を撮ってたから出会えたなあって思う。

――写真を通して傷ついたことがたくさんあったわけじゃん。でも続けたからいい出会いがあったって思えているんだね。

撮りたい気持ちが見える写真

――ちなみに今はどんな写真が好き?

さつき
ん~変わってないかな。ずっと好きなのは、「撮りたくて撮ったんだろうな」っていう写真。「きゅん」っていうより「ぎゅん」ってきて撮ったんだろうなっていう写真が好き。例えば写真家が自分の奥さんを撮ってる写真とか。奥さんが自分の鼻をつまんでる写真とか、ひょうきんな表情とか。

――うんうん。なんでそういう写真に惹かれるの?

さつき
なんだろ、撮ってる人の気持ちが見えるものが好きなのかな。うーーん。なんか、「分かる分かる~」って共感できて。自分もその「ぎゅん」として撮る感覚が好きだから見てるとうれしくなっちゃう。これからもそういう感覚でシャッターを切れたらいいなって思う。

――ありがとう。前向きな言葉がたくさん聞けてうれしかったよ。カメラも嫌いになってなくて、やっぱすごいと思う。

さつき
えへへ。ふわあ~~~。

――ふわあ~~~。疲れたよね。ありがとう。頑張りましょうね。私たちは、引き続き、生きていくことを頑張っていきましょう。なんていうか、人生は続きます。

さつき
終わらないよ、なかなか終わらない。

――(笑)。

さつき
(笑)。また会えるといいね。来年になるのかな。

――帰ってきたら、ぜひ。次こそ対面で。

(おわります)


さつきが「インタビューマガジン『NEUTRALI』」にて取材を受けたそうです。内容は今回の記事と少し似ていますが、同じことでも違う人が聞くと、また本人の言葉で語られていると、ちょっと違う仕上がりになっていて面白いです。優しい時間が流れています。ぜひ。

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