ユーザー調査

[後編]デプスインタビューとヒトの認知特性

このnoteについて

産技大「人間中心デザイン」プログラム、第3講:ユーザー調査(Methodology of User Research)の内容の振り返りになります。

このnoteで伝えたいこと

ユーザー調査の講義と演習を通じて学んだことの中から、下記3点に焦点をあてて、整理します。

[前編]では下記1,2を、こちらの[後編]では3について説明します。

1. UXリサーチとは何か
2. UXリサーチの手法にはどのようなものがあり、どう使い分けるべきか
3. インタビュー演習を通じて改めて学んだ「ヒトの認知特性」について

3. インタビューとヒトの認知特性の関係

前編のnoteでUXリサーチの大別及び使い分けについて説明しました。(下図再掲)

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前編で説明した調査手法のどの組み合わせ例にも「(デプス)インタビュー」が登場したことからも、インタビューのスキルがどのリサーチにも必要だということはご察しいただけるのではないでしょうか。

私個人の考えですが、インタビューそのものの巧拙は、やはりそれまでにその方が行ってきたインタビューの数と比例関係があると思います。手前味噌で恐縮ですが、本講義の一環であったユーザーインタビュー演習の際に、グループのメンバーに私のインタビューを褒めていただく機会がありました。それは、謙遜でもなんでもなく、他の受講生と比較すると慣れていただけだと思います。目的はリクルーティングやブランドリサーチなど多岐に渡れど、半構造化インタビューに関しては数百回と行ってきたためです。

ただ、インタビューのスキル向上のためには、無策に数をこなすのではなく、やはりコツはあると思っています。それこそが、ヒトの認知特性の理解、なのではと思います。
認知特性を知らないと、情報の聞き出し方や解釈を自分たちの都合のよいように行ってしまい、調査の質を下げてしまう恐れがあります。
インタビュー結果に影響を与える可能性がある、8つの認知特性について紹介します。

記憶

ヒトの記憶には種類があり、インタビューでは聞きたい記憶の種類ごとに、ヒアリングの仕方を気をつける必要があります。
下記の図が記憶の種類、及びそれらの特性についてまとめたものです。

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認知的不協和

「能力が足りない、手段が思いつかないといった際に、自分自身を誤魔化してしまう」という特性です。こちらに関しては、イソップ童話の有名な「すっぱいブドウ」が好例なので、他のサイト様を参照させていただきます。

また、とある宗教団体に信者として潜入した方が、認知的不協和の理論を検証した事例があります。そちらについても、参考サイトを紹介します。

選択的注意

こちらは「重要だと判断した情報に注意を向けてしまう」という特性です。

既にどんな内容かご存知の方もいるかもしれませんが、お時間が許せば下記の動画を観て、お題に取り組んでみてください。

お題:「白いシャツのチームが、ボールをパスする回数を数えてください」

いかがでしたでしょうか?(ちなみに受講生の多くは引っかかりました)

ここで注意したいのですが、この「選択的注意」を含め、このような特性があることを理解することが重要であり、それ自体に善悪があるわけではありません。この選択的注意も、適切に使うことで、意図的に意識や検討範囲を絞ることにも利用できます。

認知の相互作用

こちらは「情報を処理する方法には、トップダウンとボトムアップの2種類が存在する」という特性です。

これも具体例とともに。以下のチャートをご覧ください。

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実際にこのスライドが講義の最中に表示されると、意外と多くの受講生が右を向いてしまったものです。
これは、上の文字と下の矢印の情報の処理の仕方が異なることに起因しています。

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これがUXリサーチを行う上で、どのように重要なのでしょうか?
自分自身のトップダウン・ボトムアップの処理というよりは、被験者がこのような処理を行っていることを理解していることが重要です。
つまり、被験者が行っているトップダウン処理を推測するための想像力ボトムアップ処理を理解するための観察眼を磨くことがポイントになります。

先入観

「既に知っている知識によって、発想が妨げられてしまうこと」が先入観です。固定観念、偏見と言われることもあります。(先入観:weblio辞書)
有名なクイズとともに説明します。

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念の為、回答は「母親が病院の先生だから」です。最近は状況は変わってきていると思いますが、今でも「病院の先生と聞いて男性を想起する方が多い」という先入観を逆手にとったクイズです。

インタビュアーと被験者の相互が先入観を持っていると、インタビューはカオスと化す可能性があります。以下は講義中に紹介された会話例です。

Aさん「この辺にファミリーマートみたいなのはありますか?」
Bさん「コンビニですか?」
Aさん「コンビニっていうか、朝ごはんを食べられそうなところを探しているんですけど…」

この会話ではBさんが"ファミリーマートみたいなの"が、"イートイン"のことだと理解できましたが、Aさんからの説明がなかった場合、全く異なるものを頭の中に思い浮かべながら話が進んでしまうことになってしまう…という例でした。

機能的固着

その物体の慣習的な使用方法の知識に縛られて、問題の解決が妨げられること」というのが機能的固着の説明です。この事例を見ていただければ納得感を持って理解いただけるでしょう。

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(錯思コレクション(Collection of Cognitive Biases)様より画像を転載させていただきました。)

知識の呪い

「知識の呪い」について説明したものがこちらです。

自分がよく知っていることほど、それについてあまり知らない人の身になることが難しい
Hinds, P. J. (1999). The curse of expertise: The effects of expertise and debiasing methods on prediction of novice performance. Journal of Experimental Psychology: Applied, 5(2), 205–221.

この内容は普段のプロダクトマネージャーとしての仕事をする上でも、納得感があり、かつ、より一層意識をしないとな、と感じました。
その道のプロ、エキスパートの意見ほど、むしろ大きく外れてしまうこともありえます。
自分にとって既知の機能を、はじめて利用する方と近い感覚で評価するためにも、具体例とともに理解しておくべき内容だと思います。

確証バイアス

「自分にとって都合のよい情報を収集してしまう」という特性です。
これは私の経験談ですが、ユーザビリティテストやコンセプト調査等で特にやってしまいがちな失敗のように思います。
これを理解するための会話例をご覧ください。

(プロダクトのUI案をAさんがBさんに提示しながら)
Aさん「案1って良いと思いませんか?」
Bさん oO(もっと違う形の方が好みなんだけど、これも悪くはないから同意しておこう…)
Bさん「そ、そうですね。」

このインタビューを通じて、後日Aさんが「インタビューの結果、案1の方が評価が高いことがわかりました!」という報告をした場合、それは意思決定の材料になりうるでしょうか?ちょっと難しいですよね。
以下のような聞き方の方が、フラットに考えを聞きやすいかもしれません。

Aさん「案1と、あるいは逆に案2とどちらが良いと思いますか?それとももっと別の案の方がお好みでしょうか?」
Bさん「そうですねー、これも悪くはないんですけど、どちらかというと、ここがこうなっている方が好みかな…」

結び

前編から後編に渡ってご覧いただきありがとうございました。
そもそもUXリサーチとは、というところからUXリサーチ手法の大分類、またその中でも特に重要なインタビューの際に、注意すべきヒトの認知特性について記載しました。

講義や演習で学んだことを、noteにしてみることで、自分自身が理解できていたこと、理解が不十分だったことが明確になるのは、noteのいいところですね。
また、ここで学んだことを、私と似たような悩みを抱えている方に伝えることで、より「人間中心」なサービスやプロダクトが増えるといいな、と祈ります。

次回は、第4講:「ユーザビリティ評価」についてまとめようと思います。
ありがとうございました!

過去の講義内容まとめ

第1講:人間中心デザイン入門

第2講:UXデザイン論

第3講:「ユーザー調査」前編


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