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《マクロな戦争》から《ミクロな ── ヒトとヒトの戦争》を抽出した傑作「Saving Private Ryan」

邦題は「プライベート・ライアン」(何のこっちゃ)。
Uボートと同じく、「マクロな戦争」を描き、そこから「ミクロな戦争」を抽出して主役に置いた映画です。

ネタバレあります。ご注意ください。
でも、古い作品(1998年)だからいいよね。
これも、エッセイは観た直後に書いています。

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中学2年の娘とスピルバーグの「プライベート・ライアン」を見に毎日地下劇場へ行った。
ここには女性優先席というのがあって、
「女性専用席じゃなくて優先席なんだから、男が坐ってもいいんじゃない? 女性が来たら、その時に譲ればいいんだ」
娘の言葉が妙に説得力があったので、一番見やすそうな優先席に腰を下ろした。
しかし、よく考えてみれば、私はバスや地下鉄にある老人優先席に、老人が来たら代わればいいのだから、と坐るタイプではない。

「いや、ここに坐るのは、今度女装して来た時にしよう」
と別の席に移動したが、そこは前に2人オバサンがいて、おそらくは彼女たちにとってのみきわめて重要な事柄を、熱心に議論していた。

「ねえねえ、前の人たち、映画が始まった後もうるさそう、ってカンジ
と娘が《女子中学生語》で囁いたが、地声が大きかったので議論を中断した彼らにギロリと睨まれた。

米軍のノルマンジー海岸上陸で始まった戦争映画は非常にリアルで、ドイツ軍の迎撃に撃たれて戦死する兵士は数知れず、海は血で染まり、腕が、足がもげ、腸が飛び出す。
隣の席では、
「気持ちが悪くなった」
と娘が目をつむっている。
「まあしかし、戦争とはこういうものだ」
と見てきたような事を私は言った。

映画では、トム・ハンクス扮するミラー大尉が4人兄弟のうち兄3人を一度に失ったライアン二等兵を戦地から救出して故郷の母親のもとに帰す、という命令を受け、8人のチームを組織する。
この中にドイツ語とフランス語が話せる、という理由でメンバーに入れられた通常は通信担当の兵士がいて、この素人みたいな男が、いわば平和な時代に生きる私たちを代表している。

7人のプロフェッショナルの中に混じっているこの男は、
「自分は実戦経験がありません」
とチームに入るのを厭がったり、戦場でのチームワークにロマンを想像して、
「中隊長殿は娑婆では何をしていたんですか」
と仲間の過去を知りたがったり、仲間を撃ったドイツ兵を処刑しようとする大尉に、
「降服している者を殺すのは違法だ」
と主張するのである。そして、実際の戦場では...

それにしても、トム・ハンクスはすごい。
どんな役を演じても、見ているうちにぴったりとしてくる。

それにしても、どうして「兵士ライアンの救出」という日本語タイトルにしないのだろう?

もうひとつ、ドイツ人はどんな気持ちでこの米国映画を見るだろう?

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Youtubeで25年ぶりに冒頭シーンを観たが、やはりすごい。

そして、僕たちは、こんなことはもう、第二次大戦の終結と共に少なくとも大規模には起きない ── と無意識のうちに信じていたのだなあ、と。

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