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書道の時間;《天下》と《陰険》

昨日、ほぼ60年にわたって保持してきた《天下》を手放した(というより、捨てた)話を書きました。

この《天下》について、ぺれぴちさんからコメントをいただきました。

天下の謂れがいつ出てくるかと興味津々で読み進めましたが、それには触れられることなくごみ袋行きになってしまいました😆

ぺれぴちさんからいただきました!

たいした謂れはないのですが、おかげで「書道」に関して想い出したことがありました。ぺれぴちさんに感謝です。

小学校低学年の頃、「習い事」といえば、「習字」か「算盤ソロバン」でした。「ピアノ」「水泳」「学習塾」などと違って、この二つは当時「教室」がむやみに多く、月謝もきわめて安かった。
両方に行っている子供はおらず、「習字派」と「算盤派」に分かれ、といっても合計でもクラスの半数に満たなかったけれど。
「習字派」と「算盤派」とは、寺子屋の「読み書き算盤」が分派した歴史を持つのかもしれませんね。
ちなみに「学習塾」に行っていたのは、父親がまさに「塾」を経営している女の子ひとりで、中学年、高学年、と進むに従って少しずつ増えて行ったようです。

私は「習字派」でしたが、通いたかったわけでなく、フルタイムで働く母親が自分の帰宅までの時間を過ごす場所として(今でいう学童保育のように)考えていたのでしょう。
書道塾ではよく姉や友人と喧嘩をして、顔や服に墨を付けて帰宅していました。
「墨は洗っても取れないのに!」
母がよく嘆いていました。

小学校2年の時、その教室全員が書道コンクールのようなものに応募することになりました。学年ごとの「題材候補」から自分で選んだのが《天下》でした。
何度か練習した後、いつもの薄っぺらい半紙ではなく、なんだか高価そうな紙に「清書」させられました。

60年経てば、人も書もこうなる……

「天」の字の「右はらい」を豪快に書こうとしたけれど、既に筆の墨が枯れかけてかすれてしまい、ああ……書き直したい、と言ったら、なぜか先生に、
「いや、そこがいいんだ」
みたいなことを言われ、1回勝負での出品となりました。

今から思えばあれは、高価な紙をこんなヤツにそれ以上使われたくなかったのでとりあえずホメた、に違いない……。

4年生だった姉の題材は、より漢字が難しい《遊雲》、しかも横書きでしたため、筆の運びも見事なもので、コンクールでは何か賞を取ったはずです。

コンクールから戻って来た「書」は、おそらく当初からの計画でしょう、額に装丁することになりました。

《遊雲》は今も姉の家で壁の高い位置に飾ってあり、《天下》のように悲惨な末路を(まだ)迎えてはいません。

書道教室では時間前に来て硯で墨を擦らなければいけないのが面倒でした。ある段階で「墨汁」が発売され、それに切り替える子もいたけれど、先生は批判的で、
「心を穏やかにして静かに墨を擦り、これから書く『字』について考えるのが大切なことなのだ」
みたいなことを言っていました。

── でも先生、毎回誰かと争って顔に墨を付けて帰る子供に、そんな「精神」は通用しませんぜ。

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時代は流れ、高校時代 ──
2年では、男子が全員「書道」、女子が全員「家庭」の授業を受けるという、おそらく今なら暴動が起きそうな時間割でした。実際、女子は怒っていましたね ── なぜ私たちだけ「書道」を受けられないのだ、と。
私はむしろ「家庭科」の授業がうらやましく、教師があまり好きではなかった「書道」を適当にすませて廊下から調理教室の窓を叩き、女子の作った料理をつまみ食いさせてもらっていました。

── それはともかく。

「書道」授業の最後の時間でした。
先生が、
「今日は、ひとりひとり、自分で言葉を考えて『書』にしたためることにしよう」
と言いました。
「しかも、ただ書くだけじゃない、その言葉の意味を考え、その言葉を芸術的に表現するような『書』にして欲しい ── 勇ましい言葉は勇ましく、重みのある言葉はそのように」

私が提出した「書」はもう残ってはいませんが、パワポで作品を再現してみました:

もちろん、筆を使った墨書ですが……

つまり、「陰険」という二文字を、いかに「陰険な気配で書くか」という点に工夫を凝らした作品で、
・文字は(中央に堂々ではなく)用紙の左下に小さく、いじけた感じで配置した。
・文字は極力角張った線の集まりとして表現し、融通の利かない、意固地な雰囲気を醸し出した。

(おお! これは傑作だ!)

自画自賛というか、心の中で自書自賛しました。
あまり個性のなさそうな ── すなわち、いつもの授業で書く文字とあまり変わり映えしてなさそうな友人たちの「書」を見て、
(よし、企画力で俺が圧倒している! どう見ても作品『陰険』が『A』ゲットだぜ!)
強く確信しつつ、先生に提出しました。

しかし……

なぜか、翌週返されたこの作品の評価は最低レベルでした。

(うーん、……なぜだ?)

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いずれにしても、私の人生と「書道」とは、折り合いがあまりよくないようであーる。

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