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上肢懸垂用肩装具は意味あるのか?

肩の亜脱臼

筋緊張が低下した発症早期の麻痺側肩関節亜脱臼は、抗重力肢位となった際の棘上筋や関節包の過剰な伸張により、周辺の軟部組織に過度のストレスを与え、麻痺側肩関節周辺組織の微細損傷ならびに炎症の出現を誘発する。立位や歩行練習などの機会の増大に伴い麻痺側上肢が下垂位となる頻度が増えれば、そのリスクは高まる。


上肢懸垂用肩装具(オモニューレクサ)

上肢を引き上げる作用があり、X線撮像により、装着後は上腕骨頭が平均0.8cmほど挙上することが報告されている。


片麻痺患者に上肢懸垂用肩装具をつけて歩行するとどうなるか?

研究の結果、歩行速度の変化無しに、肩装具装着時には非装着時と比べ、多くの症例が麻痺側遊脚期中の上前腸骨棘高が増大し、平均0.7㎝ほど有意に増大することが明らかになった。

しかし、上前腸骨棘高の増大に伴い、外果高は増大するものと、そうでないものが存在した。

なぜ麻痺側上前腸骨棘高が増大するのか?

抗重力肢位において亜脱臼により上腕骨頭が下垂した場合、上腕骨近位に付着する広背筋は、僅かながら短縮状態となる。

上腕骨近位部および肩甲骨に付着する筋群の多くは腱膜を介し、膜性に連結している。

広背筋は骨盤及び肩甲骨、上腕骨の一部に付着するため、上腕骨頭の下降により生じる広背筋の短縮は膜性に連結する筋群にも筋張力の変化を及ぼし得る。

筋は短縮位よりも伸張位の方が筋力を発揮しやすい特性を持つ。

広背筋の筋張力の低下は連結する各筋の筋張力も影響を及ぼす。

上腕骨頭が下降し広背筋の筋張力が低下した状態では、膜性に連結する肋間筋群、前鋸筋にも影響を及ぼし、腹斜筋群が付着する下部肋骨や肋骨弓周囲で結合する筋群のアライメントにも変化が生じる。

さらに亜脱臼状態では肩甲骨が下制し、腹斜筋群は短縮位となる。肩装具によって肩甲骨を内側上方に引き上げるため、肩甲骨のアライメントが修正され、それらの筋はわずかに伸張される状態となる。

つまり、肩装具によって連鎖的に骨盤挙上に関与する筋肉の働きを向上させることができる。

上肢懸垂用肩関節装具の装着が重度上肢麻痺を呈する脳卒中片麻痺者の歩容に及ぼす影響 大橋信義 他 

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