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ブラフ プロローグ

【あらすじ】
 アパレル会社社長の奥野おくの夢人ゆめとを殺害したとして逮捕・起訴されたのは彼の友人である草鹿くさか京一きょういちだった。奥野は別宅として使われている家の中で殺害され、バラバラに解体されたと見られているが、草鹿は犯行を全面的に否定。ところが、草鹿は奥野になりすまして彼の別宅で一か月ほどを過ごしていた。
 草鹿の弁護を担うたまき紗怜南されなという国選弁護人は、勝算がないとみられる法廷での戦いに臨む。被告人としての自覚のない草鹿に四苦八苦する紗怜南だが、彼が主張する無罪を勝ち取るために全力を尽くそうとする。彼女には負けられない過去があったのだ。
 しかし、この事件の裏には、ある事実が隠されていた。


大衆の学びと楽しみのために永遠に

 近づいてきた巨漢の拳がボロボロの椅子に座らされたアジア系の男の頬に打ちつけられた。堪らずに椅子から転げ落ちた男の胸倉を巨漢が掴んで無理矢理立たせる。
「どういうつもりなのかと聞いてる。難しい質問じゃないだろう?」
 椅子の向かい側、ウィスキー樽に腰かけるのは背広姿にハットを被った小柄な男だ。その青い目は暴力を映し出してもなお冷たく輝いている。どこかの醸造所の熟成庫の壁は黒カビに覆われている。その静寂の空間に男の声が響く。
「取引がしたいだけだ……」
 口から血を流す男が強がる眼差しを投げかける。ハットを被った男の瞳が隣の樽に立てかけられた絵画に向けられる。
「うまいウィスキーは長い年月をかけて熟成される。湿度は高く、だからここはカビが生えている。カビがあるかどうかは良い熟成庫かどうかを判断するポイントになる」
 アジア系の男が巨漢に椅子に叩きつけられるように座らされる。その顔の惨状はこれまでの苛烈な扱いを物語っている。ハットの男は何事もなかったように先を続けた。
「つまり、ここは絵にとって最も相性の悪い環境だといえる」
 何の前触れもなく、彼の手に握られたナイフが絵画のど真ん中に突き立てられる。
「ああ……!」
 巨漢に首の後ろを押さえつけられたままの囚われの男が絶望の声を上げる。
「私の目をごまかせると思うな」
「なんてことを……」
 打ちひしがれる男は突然足を蹴り上げて、そばに立つ巨漢の鼻っ柱をへし折った。巨漢の手をすり抜けて、男は駆け出して熟成庫の出口を目指す。足音がグワングワンと反響しながら遠ざかっていく。顔を上げる巨漢は鼻血を噴き出させて舌打ちをした。
「奴が逃げたぞ、ジェフ」
 ハットの男が告げると、ジェフと呼ばれた巨漢が懐から拳銃を取り出して逃げた男の後を追った。

プロローグ
第1話 断罪の庭
第2話 きっかけ
第3話 揺れる思い
第4話 それぞれの事実
第5話 真実を探る
第6話 氏川茜の話
第7話 探り合い
第8話 過ぎたこと
第9話 真実を巡る闘い
第10話 岡原弘通の話
第11話 攻防戦
第12話 草鹿京一の話
第13話 スーツを脱いで
第14話 オーメン
第15話 大暴れ
第16話 画竜点睛を欠く
第17話 瓦解
第18話 変なおじさん
第19話 コンフェッション
エピローグ

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