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暮らしの充実こそが、接客を決める

こんにちは、NIPPONIA 小菅 源流の村の谷口峻哉です。
前回書いた記事がありがたいことに多くの方に読まれ、100以上の「スキ」をいただくことができました。
「自分のホテルが好きすぎて、そのこだわりをシェアしたい」という内容だったのですが、読んでいただきリアクションしてくださった皆さま、どうも
ありがとうございます。

さて新年ということもあり、自身を振り返る意味も込めて、今回は私が大切にしている「仕事よりも、暮らしが大切」という価値観について書いていきたいと思います。

かいつまんで説明すると、前回の記事でも最後に触れたように「お客様を"感動"させるほどのサービスを作り上げるためには、徹底的に考え抜かれたロジックと、お客様のことを心底考え抜くスタッフのホスピタリティが重なって初めて生まれる」のですが、その前提として「まずは自分自身がハッピーでいる」必要があるという風に考えています。
サービス業で働く人たちの中には自分を後回しにしてしまう人が多いように思うのですが、自分を満たすことが先で、その後に顧客満足度がついてくるという風に私は考えています。もう少し深掘りしていきますね。
※決して仕事をたくさんする人を否定したいわけではないのと、あくまでも一個人の考えです

三つ子山からみた小菅村。この風景に憧れて移住を決意しました。

サービス業

ホテルやレストランは業態としては”サービス業”と呼ばれるのですが、言葉の通り「サービス(奉仕)を生業としている」というイメージがあり、「お客様に仕える仕事」「自分のことよりお客様のことを大切にする」という思想に陥ってしまいます。「お客様は神様」みたいな世界観ですね。

その考え方を否定するつもりは全くないのですが、私としては「自分を幸せにできない人は、他人を幸せにすることは難しい」と考えています。

かくいう私も、新卒でリゾートホテルで働くことになって最初の3年間は「全ての時間をお客様のために」と考えていました。
休日も出勤してエクセルで顧客管理表を作成して、憧れの先輩スタッフの仕事の仕方を盗むためにピタッとくっついて動き方を学び、仕事終わりにはスタバに寄って読書をしながら勉強タイム。夜勤も多く、一日20時間働くことも頻繁にありました。
一見充実していたし、あの期間があったからこそホテルマンとしてのスキルが磨かれたのは確かですが、だんだんと悪循環に陥っていきました。

無理をしても続かない

そう、継続できなかったのです。アクセルベタ踏みで進めば早く成長できるのですが、その分ガソリンが早く切れてしまいます。
もちろん、世の中にはハードワークを難なくこなせてしまうすごい人たちもいますし、そういった方々が社会を変えてくれるのだと思いますが、当時の私にはそれが合いませんでした。
(今では自分のことを以前より理解できるようになってきて、"人の指示に従って働く"ということがそもそも合っていなかったので、その環境下でのハードワークと相性が悪かったのだと思います。自分で自分をマネジメントできるようになってからは、暮らしを大切にしつつも、ここぞという時にアクセルを踏めるようになってきました。特に新卒では圧倒的に"質"よりも"量"が足りないので、早く成長したいのであれば「人一倍コミットすること」が必要な時期もあると思います。)

結局、新卒で入社したホテルは5年間働いて退職しました。
何とかモチベーションを維持しようと努力しましたが、体力的、精神的につらい状態だと気持ちが切れてしまい、気がついた時には「いかに無難に毎日を過ごすか」ばかり考えていました。そんなタイミングで妻から「オーストラリアに留学したい」という提案があり、それが後押しとなって退職を決意しました。

オーストラリアへ

退職後、ほどなくして妻とふたりでオーストラリアへ引越ししました。暮らしと仕事の環境を変えることでライフスタイルを変えたいというのが大きな理由ですが、この機会に英語を学んだり、大好きなフィットネスを学びたいという目的もありました。
結果的に2年以上オーストラリアで過ごしたのですが、その大半はブリスベンという町で過ごしました。そこで出会った数々の人々が私たちの人生を変えたといっても過言ではありません。

特に印象的だったのは、働く理由。
「何のために仕事をしているか」という問いに対して、日本にいた頃の私は「お客様のため」と答えていたのですが、オーストラリアで働く友人・知人は口を揃えて「家族のため」「自分自身のため」と答えていました。
家族のために仕事をして、お金を稼いでいるので、残業もしません。できるだけ早く仕事を終えて、愛する家族との時間をつくったり、大切な友人とBBQをしたりして過ごすのです。ホリデーも年に4回もあるので、貯金したお金で旅をする家族も多いです。(オーストラリアは長期休暇の制度が充実していました)

何というか、素直で、本質的だなぁと思いました。少なくとも私は、たった一度の人生なら、自分や家族を大切にした方が後悔がないだろうし、接客という仕事におきかえても、スタッフが充実感をもって生き生きと働いていたらそれはお客様にも伝わると思うからです。

オーストラリアの好きな場所のひとつ、バイロンベイの灯台。

幸せにする順番

最後に、今までの話を整理していきたいと思います。
まず接客業である以上、最も満足していただきたいのはお金と時間を使ってわざわざ小菅村まできてくださる「お客様」です。そのため、顧客満足度は最も重要な指標のひとつだと考えています。

しかし、同時に考えなければいけないのが「村人」です。
いかにたくさんのお客様が来て満足してくれてホテルの売上も好調だったとしても、それによって村人が不幸になり、村人の笑顔が失われていくのだとしたら、私たちは誇りを持ってホテルを運営できません。

「お客様」は大切だし、「村人」にもハッピーになってもらいたい。
そんなわがままを叶えるためには、「まずは自分自身がハッピーでいる」必要があるのです。
稚拙な表現かもしれませんが、あなたがハッピーであれば、あなたと接する人々もハッピーになっていくのです。

分かりやすい例でいうと「シャンパンタワーの法則」というものがあります。シャンパングラスをピラミッド状に積み重ねて、上からシャンパンを注ぐセレモニーです。そのシャンパンタワーの1番上を自分自身、2段目を身近な人や家族、3段目を友だちや一緒に働いている仲間、4段目をお客様と見立てます。そして、自分はどこからシャンパン、つまりエネルギーを注いでいるかを考えるんです。

全体を完成させるためには、一番上のグラス、つまり、自分自身を満たさなくてはいけないのです。自分自身を満たしていって、そのあふれ出たエネルギーで2段目を満たし、3段目、4段目と満たしていくと、全体を満たすことに繋がっていくのです。

シャンパンタワーの法則

暮らしを充実させることから

今まで話したことが、全てのホテリエに通じるとは思っていません。ただ、私が働いている宿では「暮らすような滞在」をお客様に約束しています。もっというと「暮らしのおすそわけ」といっても良いかもしれません。また、一緒に働きたいと応募してくださる方々の中には、一度は都会で働いたことがあり、そこで自分の暮らしを見つめ直す機会を経て、地方に移住する決意をしたという人が多いように感じます。

そうすると、やはり働くスタッフ自身が暮らしを楽しむこと、自分を満たすこと。そして、それをお客様にシェアすること、思わず話したくなってしまうこと。その結果として顧客満足度が上がるのだと考えています。

ちょっと精神論っぽいかもしれないですが、一緒に働くスタッフには大切にもっていて欲しい価値観です。みんなが楽しそうに働いていたら、それこそが最高の接客につながります。決してテクニックなどではないのです。

これから新しいプロジェクトも始まるので、この考え方に少しでも共感できるという人に出会えることを願っています。

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