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よく分からないアートとの対峙と「礼節」

【制作の現場】

自分の中でも他にはない長期のプロジェクトを担っていると、人間のリズムのような浮き沈みの波がある。いい時ばかりではなく、予想もしなかった困難に前が見えなくなるような瞬間も多々ある。その中でチームという仲間はとても素敵で、その波を共に感じながら、その波の質やこれからの予測、これまでの経験、この場で生まれるアイデア等を共有して、新たな波に乗っていく。


仲間のひとりは、「現場では、常に自分が想像もしていなかったことが起こる、だから自分で想像しうる範囲外の想像に対して尊重することを忘れないように心がけている。呉越同舟のような感覚は常に持っていたい」と伝えてくれた。

尊敬する作家のスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)は、『良心の領界』の中で、

「人の生き方はその人の心の傾注(アテンション)がいかに形成され、また歪められてきたかの軌跡です。注意力(アテンション)の形成は教育の、また文化そのもののまごうかたなきあらわれです。人はつねに成長します。注意力を増大させ高めるものは、人が異質なものごとに対して示す礼節です。新しい刺激を受けとめること、挑戦を受けることに一生懸命になってください。

(中略)

傾注すること。注意を向ける、それがすべての核心です。眼前にあることをできるかぎり自分のなかに取り込むこと。そして、自分に課された何らかの義務のしんどさに負け、みずからの生を狭めてはなりません。 傾注は生命力です。それはあなたと他者とをつなぐものです。それはあなたを生き生きとさせます。いつまでも生き生きとしていてください。」

と述べている。


「傾注すること」は、自らの想像の狭さや限界を認識させ、その先の想像を垣間見せてくれる。私の場合、幸いなことにアートの現場ではこうした機会を常に与えてくれる場であり、それを仲間と共有し、生き生きすることができる。

アートとの対峙は、自分とは異なる考えを持つ他者との対峙のプラクティスにもなると私は考えている。よくわからないものへ、想像力を働かせ、日常生活で使わない語彙を駆使して他者とそれを共有する。こうした連続が、他者の尊重、礼節を育むのだと改めて実感する機会があった。


改めて本当に深い感謝の念が込み上げてきます。

いつもありがとうございます。

引き続きよろしくお願いいたします。

⚫︎写真作家・造形ワークショップデザイナー ・キュレーター・「時間」と「記憶」をテーマに制作。2012年〜ヒロシマの被爆樹木をフォトグラムで作品制作 ●中之条ビエンナーレ2019参加アーティスト ●さいたま国際芸術祭2020 市民プロジェクトコーディネーター