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新人ライターや編集者に教えている「文章は書き出しが5割」

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

本当は8割とか9割とか言えたほうがキャッチーなのでしょうが、重要さの割合で言えばリアルに配分を考えてこの(5割)くらいかなと……(笑)。

というわけで今回は、文章を書くうえでの「書き出しの重要性」について考えてみたいと思います。

文章の構造は「ファンタジー」と同じ!

文章の基本形といえば、「起承転結」です。今さらながらこの基本形を一般的な解釈で説明すると……

  • 「起」話の背景、事前情報の提示

  • 「承」本題の導入

  • 「転」起承を受けての展開、本題の提示

  • 「結」結論

……なのだそうです。

まあ、構造的にはたしかに基本形であることは間違いないですが、このまま鵜呑みにして、果たして面白い文章が書けるか不安です。

つまらなければ読まれない世界ですから、「事前情報の提示」とか悠長なことは言っていられません。

そこでこの解釈に私が後輩の指導のときに使うテクニック、少しライター的な肉付けを加えてみたいと思います。

  • 「起」出発地点、つかみ、問題提起、スタイルの提示、ロケットスタート。

  • 「承」起を具体的に展開、前段反論からの提案ちょい出し、煽り持続。

  • 「転」具体例からガツンとメッセージ、新しさ、驚き、発見、山場。

  • 「結」ゴール地点、ちょっと違う視点を得て帰ってくる、起と直結。

すごくザックリで申し訳ないのですが、構成の流れの基本としてはこんな感じに考えています。起と結がつながりを持ち、「違う視点を得て帰ってくる」ことがポイント。

それは、「現実から非現実の世界へ飛び出し、再び現実に帰ってくる」というファンタジーの構造に似ているかもしれません。主人公が現実に戻ってきたとき、冒険を通し成長することで、同じ現実でも状況に変化が生じます。

そして、一般記事のライティングにも同じことが言えます。この場合の主人公は読者。例えば健康情報の記事の場合、悩んでいる現状→新しい健康情報→新しい知見を得て悩みが解決した現在、という構造が成り立ちます。

私個人の見解ですが、「本や記事を読む体験そのものが、ファンタジーの構造と同様」と捉え、それに則した文章構成を心がけています。

文章は書き出しでほぼ決まる!

この基本構造に則して文章を書くとき、一番悩むのが「書き出し」です。ここのスタートさえ決まってしまえば、「書き出したら速い」「もう書き終わったと同然」と考えるライターも少なくありません(そのはずw)。

ここで「起」を詳しく紐解いてみましょう。

「起」その1=出発地点。

これは現在地の確認です。問題提起と同じ意味合いでもありますが、今読者はどこにいて(どう考え)、どこに問題があるのか? という現在地を定めます。
これが決まると、「起」に対応する「結」の内容も自動的に決まり、起結を結ぶ間のストーリーも大まかに定まります。

「起」その2=つかみ。

いわゆるインパクトや親近感による興味喚起です。ロケットスタートも同じ意味合い。記事や文章は読まれなければ意味がありません。そのため、瞬時に「読みたい」と思わせるフレーズワークで演出します。

「起」その3=スタイルの提示。

これは媒体によって異なるものですが、文章全体の雰囲気やキャラクターの設定、読者との距離感(どの位置から発信するのか)など、さまざまなスタイルを書き出しで提示します。媒体におけるメッセージの打ち出し方にも影響する重要な要素のひとつです。

書き出しに持たせるべき機能は、大まかにこの3つ。しかし、スタートによってゴールも定まるという意味で、重要度は全体の5割を占めると言っても過言ではありません。

例えばこういうことです。

仮に肩こりの記事を書きましょう、となった場合。すでに取材をし、「肩こりには肩そのものでなく、脇の下のストレッチが効く」という情報を得たとします。

まず「出発地点」を設定します。

この場合の論旨は「肩こりは、肩そのものでなく、脇の下のストレッチが効く」なので、それに合わせて読者の現在地を想定します。

「肩こりに悩んでいる」「肩を揉みがち」「揉んでも症状が解消されない」

これが読者の現在地。ここに「脇の下のストレッチが効く」という新たな情報を投入することで、悩みを解消できるというゴールが決まってきます。

次に「スタイルの提示」です。

媒体のターゲットは誰なのかを考え、読者との距離感や立ち位置を決めます。

例えば60代の女性がコア、専門情報には疎い初心者層といった設定があるなら、悩みに親切に寄り添う感じのトーンや、親近感、共感といった雰囲気を強めに設定します。

ひとつの例としてはこんな書き出しが……
「肩をいくら揉んでも症状が治らないという方も多いのではないでしょうか? 実は、肩そのものでなく、脇の下をほぐすことで肩こりの解消に効果が!?」

肩を揉んでもコリが取れないというのが共感・親近感を表し、「実は〜」以降でそんな皆さんにお役立ち情報があるんです的な寄り添いを表現しています。

これが、40代ビジネスパーソンなどがターゲットになると……

「巣ごもり生活が続く現在、肩を揉んでも肩こりが解消されないという人が増えています。肩こりを専門とする○○大の○○教授は、実は脇の下へのアプローチにこそ効果があるといいます」

専門家の信頼性や、時事性、新事実的なあおり、学術的なスタンスというトーンを強めに表現。

このように、ターゲットごとの関心事や距離感を切り替えると、まったく違った書き出しになってきます。

最後に「つかみ」を考慮する

これらの考えた書き出しを見直し、インパクトや興味喚起を強める演出を考えてみます。

60代初心女性向けの文章のつかみを強めてみます。
「肩をいくら揉んでも症状が治らないという方も多いのではないでしょうか? 実は、肩こりの解消には肩そのものでなく、 “脇の下”へのアプローチが効果を発揮します。しかも1日10秒間ほぐすだけ!」

ここでは「1日10秒間」という具体的な時間や手軽さを入れ込むことで、「どういうこと? どうやって?」というより強い興味が喚起されます。

40代ビジネスパーソン向けの書き出しもつかみを強調してみます。
「ある調査では肩を揉んでも肩こりが解消されない人は全体の約7割。とある研究グループによると、実は脇の下へのアプローチが肩を直接揉むよりも2倍効果があると報告されました」

ここではエビデンスによる信頼性を強調、研究報告や数値の入れ込みによってさらに関心事が強調されます。

つかみの手法はこのほかにも沢山あります。
例えば……

  • 問いかけ(あおり系、親しみ系)

  • 意外な事実の提示

  • 知っているようで知らない現在の状況

  • テーマに関わる印象的な光景

  • 衝撃の結論 etc.

これらを必要に応じて使い分け、読者の関心を引きつける演出をかけます。

こうしたことを考慮し、より読まれる文章、ターゲットに寄り添った文章にするため、その機能の大半を占める「書き出し」の重要度は高くなるわけです。

残りの5割は?

書き出しが5割なら、あとの5割はなにが大事なのでしょう?
あくまで個人的にですが、「承転」で4割、「結」が1割といった感じです。

書き出しがきちんとハマれば、結末は自動的にセットされるのであまり悩むことはありません。なので1割。

面白い文章にしようとすると、その演出は「承転」の出来栄えにかかってきます。それも書き出しがきちんと設定されれば、ある程度の流れは出来上がるので、重要度は書き出しより低めの4割になります。

「承転」に関しては今回の主題と離れるのでここでは詳しく書きませんが、ポイントは具体的なエピソードの表現力にあります。全体のメッセージは抽象的であっても、「承転」の文章は具体的に示すこと。これが文章の面白さにつながります。

書き出しは難しい

私もいまだ書き出しに一番悩みます。
個人差があると思いますが、書き出しの構想ができたらあとは結末まで一気に進んでいくイメージです。

スタートの設定で書き進めるべき方向が定まり、演出やトーンも決まってくる。ですので、書き出しは文章の最重要課題だと思っています。

編プロ編集者の個人的見解ですが、執筆の参考になれば幸いです。


文/編プロのケーハク

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