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【子育て雑誌編集時代】炎上した産休・育休中のリスキリング問題で思い出した、あるママさんとの会話

ざっくり見積もって30年、出版の世界に住まう私。今日は「リスキリング」の正確な意味が分からず、打ち合わせ中にこっそりスマホでググってしまいました。若者コトバもIT用語も、ひとつ覚えてはひとつ忘れていく哀しい50代。何かを積み重ねているつもりが、下のほうから順繰りに溶かしてしまっているような、そんな感覚にとらわれて震えることも。でもだいじょうぶ! 1時間後には忘れて、ほかのことでアタフタしているのですから。忘却力はどんどん強まっている、それも〝50代あるある〟です。

マルチーズ竹下と申します。東京のわりあい大きめの出版社で、書籍の編集をしています。
そう、リスキリング(=ReSkilling)。経済産業省の定義では、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」。すでに2020年2月開催のダボス会議(世界経済会議)では「2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」という宣言がなされたそうです。
マルチーズ的なちっちゃい視点で具体例を挙げてみれば、たとえばコロナ禍で在宅勤務が増え会議もオンラインで開かれるのが常態化するなか、テレワークのスキルを習得するのもリスキリングでしょうか。

と考えると、リスキリング、大切な取り組みだと思います。人生のたそがれ時に入りつつあり、これまでと同じようにはほぼ働かない/働けないおばさんである私にとっても、必要な学び(直し)です。10億人とか聞くと脊髄反射で遠い目になってしまいますが、多様な人生観、多様な働き方、多様なコミュニティのあり方を自分にも他者にも認め(合い)、実現させていくうえで有効な取り組みであることはなんとなく分かります。

ググった理由は、そう、例の炎上した参院本会議における自民党大家議員と岸田総理の発言の真意を知りたいからでした。

この一連の流れを見て、責められるべきは、総理というより、大家議員の質問のほうだったんじゃないかなあと思うのです。本意はどうあれ、議員の発言からは、「せっかく働かなくていい自由な時間をもてるのだから、その間にリスキリングして、復帰したときは逆にキャリアアップして、周りを驚かせてやりましょう。そうすれば会社も上司も後輩たちも良い刺激を受けて、産休・育休を積極的に取得する(するように整備する)ようになりますよねっ」という思惑を感じてしまったんです。

一見、正論のようにとらえてしまいそうですが・・・・いやいや。そもそも、産休・育休期間中に何をしようが、それは取得者の自由のはず。産み・育てる、という行為が、心身ともに苛酷きわまりないであろうことは、産み・育てた経験のない私にも想像できます。実際に家族や友人のその姿を見ていますし、見ていなくてもふつうに暮らしてふつうに報道に触れSNSに触れ読書をしていればわかることです。そして「逆にキャリアアップ」と議員は言いますが、では育休・産休はキャリアダウンなのかというとそんなことはなく、その経験がもたらす豊かさたるや、大いに仕事にもよい影響を与えるはずです(・・・と、産み・育てた経験のない私は信じてる)。

でもなあ・・・・ちょっと矛盾するようですが、そもそもキャリアアップのための学びって、人生でマストなコンテンツなのか・・・・? 睡眠時間もまともに食事するヒマもなく、とても学びの時間を望みようがない人や、大前提として学ぶモチベをもたない人もいるわけで、政策予算をつけるには時期尚早というか、もっとほかに優先すべき使いみちがあるのでは・・・・・・とモヤる私の根っこには、25年ほど前に言われた〝ある言葉〟がありました。

まだ「ママ友」なる言葉が使われ始めて間もない頃、私は子育て雑誌の編集をしていました。未婚子ナシおまけに20代、そんなコムスメが取材現場に行くと、「あなたに私たちの気持ちがわかるの?」と怪訝な顔をされることも多く、ならば足りない分は取材で補おう、雑誌編集者は取材してなんぼじゃ!!と、機会があるごとにママさんたちの集まりに顔を出していました。

そこで印象深かったのが、Yママさん。いわゆるスーパーワーママ、今風に言えばキラキラママさんで、育休・産休中に数個の資格を取ったツワモノです。家族のサポートも万全で、20代前半で出産してからはご実家と同じ敷地内に住み、パートナーは子育てに協力的・・・・どころか、当時としては珍しく、自分が中心になって子育てしたい派で、仕事も在宅でできるものに転職したと聞きました。
そのYママと同じグループにいたのがPママさん。週刊誌から映画雑誌まで、さまざまな媒体で取材執筆を手がける売れっ子ライターさんです。お子さんの学校や塾関係の社交にも積極的に励まれ、いつ寝てるのかと不思議になるくらい、精力的に活動されていました。

あるとき、Pママと私、そしてPママの知人男性と3人で会っていたとき、その男性がやたらとYママを持ち上げたんですね。
「常に学びをあきらめない姿勢がすばらしい。ママであるだけで十分すばらしいのに、社会の一員として自分の足で立つ努力を怠らない。これからの女性はそうあるべきだし、僕ら男性もその協力を惜しんではならない」的なことをね、言い続けました。
はいはいそうですねーとPママさんと私は適当に相づちを打ち、駅で解散のタイミングでその話は終わるかと思いきや、続きが。ホームで電車を待っていると、反対方向の電車に乗るはずのPママが私を追ってきたのです。これだけは言ってから別れたい、でないと今晩平和に眠れん、と。
「Yママの頑張りはたしかにすばらしいし、自分もいい刺激を受けている。でもYママを基準に私たちを見極めないでほしい。学びたいと欲し、学べる環境にいる人を否定しないし邪魔もしない。でも学びたいと思える精神的余裕がなく、学べる環境にはほど遠いママたちがいることを忘れないでほしい。むしろそっちが前提だと思うほうが正解。あなただって、そんなママのために雑誌をつくってるんでしょう? 企画を考えるときは、そこ忘れないでね??」

編集者を続けていると、たまにこんな金言が、駅のホームで聞けたりするから面白い・・・・・・。

それにしてもあれから25年たつのに、いまだPママさんの言葉は政治家には届いていない。何かを積み重ねているつもりが、下のほうから順繰りに溶かしてしまっているのは、政治・社会も同じなのかも。
さて、2023年もはや2月。今月は日数が少ない分、いつもより緊張感をもちながら、粛々とやってまいります。

文/マルチーズ竹下

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