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【出版社の場合】出世したい人、拒む人、それぞれの思惑とほんとの気持ち。

出世、について書こうと思います。いったい全体、どの口で! 前回の投稿記事で自らを〝働かないおばさん〟(正確には〝30代のときと同じようには働けないおばさん〟)と自虐した、どの口で!! ――との声が聞こえてきます。いやほんと、その通り。でも! すでに出世階段から遠く離れた窓近くの席で粛々と働いている身の上だからこそ! 階段途中の人や、踊り場で地団駄踏んでいる人には見えない景色が見えている。そんなわたしだからこそ、お話しできることがあると思うのです。

マルチーズ竹下と申します。東京のわりあい大きめの出版社で、書籍の編集をしています。

え、大きめなの? じゃあ出世とかどうでもいいじゃん。老後の安定だけを見据えて残りの社員人生をやり過ごせばいいんでしょ? ――Twitterなら、そんなリプライが飛んできそうです。やばい、すでに心が折れそうです。

出版社はそもそもメディア業界(大新聞とかテレビ局とか)に比べて陰キャ寄りの集団です。学生時代、キラキラ集団に属していた人は2割くらいで、残り8割はこじらせ系。だから作家と深い絆を結べたり、逆にとんでもない事故案件を起こしたりするのです(※個人の見解です)。
よくネット記事で「出版社社員は子どものころから成績がよく優等生と言われ続けプライドばかり高くなってしまったので保守的でつまらない云々」と書かれますが、え? はてさて?? そうでしょうか。地方の中学校ではそこそこ良き成績をとっていたかもしれませんが、だいたいは高校進学後、もしくは上京の際に、高くそびえ立っていた鼻がポキンと折れた経験を持っている人が多いんではないでしょうか。「あれ? 自分、ぜんぜんたいしたことなかったわ! 超ふつうだわ! ちっとも個性的じゃないわ! なんなら誰かと丸かぶりだわ!」と。でもだからこそ、何者かになりたくて、がむしゃらに頑張ったりします。そして普通人の自分ではとうてい成し得ない、才能や技術に裏打ちされた仕事(物語を創る、絵を描く、文章を書く、写真を撮る、デザインする、etc.)を行うプロに対し、心からの敬意を抱けると思うのです。

話を元に戻しますと、だからこそ出世(選抜とか評価とか)に対し、じつは敏感な人が多い(※個人の見解です)。実際に、「管理職になって組織をまとめたりお金の計算に頭を悩ませるのほんと興味ない。生涯いち編集者としてずっと本づくりにかかわっていきたい。じゃなきゃ出版に携わった意味ないでしょ」と口にする編集者をたくさん見てきましたが、いざ昇進のお声がかかると、みなさん、ちょっと嬉しそうでした。「ま、おれもそういう年になったってことかな。でも本はつくるよ。プレイングマネージャーとして」とかな。
ちなみに、私が知っている昇進を拒んだケースは、2例です。ひとつは別冊ムックとして不定期刊行していた雑誌が定期刊行物になるのを機に、編集長を打診されたケース。その人は迷うことなく「無理です。自分の仕事と子育てで精一杯。分刻みで生きてますから」と即決で断ったそうです。
もう一例は、後輩が昇進するのを機に、室長として管理部門に異動を打診されたケース。「まだ編集(者)として頑張りたい。上司となる後輩を応援する気はあるので編集部に残してくれ」と、かなりしぶとく拒んだそうです。ふだんの彼からは仕事への熱をあまり感じなかったので、だれもがその反応を「へぇ?」と意外に思いました。あとでこっそり取材したところ、そのとき担当していた雑誌が離婚して別れて暮らす娘さんの愛読誌だったのだとか。そうか、おそらく発売日よりちょびっと早めに見本誌を見せたりして、パパとしての株を上げていたのかもな・・・・(※勝手な憶測です)。

つまり、「本(雑誌)をつくれれば本望」と言いつつ、ほぼほぼみんな、やっぱり昇進はしたいのですね。いろいろこじらせてきた分、選抜されるのはやっぱり嬉しいし、励みになるのだと思います。

で、お話ししたいのは、Rさんのケース。某webメディア編集部の副編集長という立場ですが、この人が、今どき珍しく、アレなんです。
※個人を特定しないための配慮として脚色してお話しします。

ある日ふたりで会社のそばでランチしていたら、その店に担当役員がフラッと入ってきたんですね。ふつうなら「チッ・・・・めんどくさいな、互いに気づかないふりしてやり過ごそう」とするのがいまどきの会社員しぐさだと思うのですが、Rさんは違っていた。
「◯◯さん!◯◯さん! こちらでご一緒しましょう!!」
ギョッとしました。
その後はまるで、海外ドラマ『ザ・グッド・ファイト』で見たような、自己アピールの嵐。PDCAを回すだのメタバースだのASAPの重要性だの(←使い方間違ってるかも)、適度に横文字も入れ込んで、すっかりエラい人を煙に巻き、トドメのセリフは「そんなわけで、だから私を編集長に。なんなら2段飛ばしで部長にしてください。働きますよ、今だって誰よりも働いてますけど!!」
おいおい2段飛ばしなら部長の前に副部長でしょ、と中学生時代に城山三郎の小説『毎日が日曜日』を機にサラリーマン小説を愛読していた私は心の中でツッコみつつも、すっかりRさんのペースに巻き込まれ、なんなら「3段飛ばし、ありかも・・・・!」と人事部思考になっておりました。
嬉しい気持ちを押し隠しながら「プレイングマネージャーが」とか言ってる人より、「企画の可否を決める権限を持ちたい!」「予算を自分判断で割り振りたい!」「他部署から人材を引っ張れる立場になりたい!」――だから役職者にして欲しい!! と正直に訴えるこの人のほうが、ずっとかっこいいな、と。どうやら役職者になったあとのイメトレは日夜繰り返し行われ、すでに自分がやるべきことはクリアに見えてるっぽい。こういう人のほうが、時間のロスがなく、チームも動いていきそうな・・・・。
さいしょはグイグイ迫るアピール力の強さに引いてしまったわたしが、きづくとRさんのファンになっていたのです。

ちなみに・・・・・あれから3年、彼女は今も副編集長です。あれ? どういうこと?? そして尊敬すべきは、今も「出世したい!!」と吠えていること。

さて、わたしは・・・・・粛々と、やろうと思います。

文/マルチーズ竹下

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