ファッションから降りた人
自分はファッション業界にいて10年以上経つ。
高校の同級生だった素敵なあの人は15年以上、販売を続けていた。
転職すると言っていた。
服は好きだし今までやってきた事は財産だと言っていた。
『服は好きだし今までやってきた事は財産だ』なんて自分は言えない事だった。
メーカーにいてブランドにいて自分が培ってきた事。
それは表づらは体裁よく良く身だしなみは虚勢を張って身だしなみだけじゃなく思いっきり見栄を張りながら心の内では人を疑って胡麻をすったり算盤を弾いたりドロドロとした何か。
純粋に良い物を作るだけが全てじゃない。
メーカーにいた頃、お客さんには接待をする。お酒でもてなし、キャバクラに行き、おっぱいパブに行きホテルでデリヘルを呼ぶ。それでブランドから発注をもらえればOK。
お客さんにだって体のいい形をして分からないように素材をかえてコストダウンして間を抜く。それでも値段は叩かれるけど。それが自分の評価につながる。
グラフィックだけ作ってても評価されなかった。服の企画をできるようになっても評価されなかった。プレゼンして営業して発注をもらう。もらった発注が納期遅れしないために工場をコントロールする。メーカーは工場より立場が上だから罵詈雑言言いたい放題で納期を詰める。
最初は怒号なんて飛ばせなかった。グラフィックなのに自分の仕事なのか疑問だった。
でもやっていくと慣れてくる。時には優しく、時には厳しく。お客さんには良い顔で。
そんな事が財産なのか。
たぶん表向きはキラキラしてるけど裏はドロドロな中で 『服は好きだし今までやってきた事は財産だ』と言っていた彼女はあまりにも純粋に孤高に見えた。
そんな姿勢に思わず泣いていた。
自分は弱い。
弱いけど見栄は張る。
だって張らないとやっていけない。
カッコ良くいようとしないとやっていけない。
体裁よく繕っていないとやっていけない。
弱い自分を気付かされた。
ファッションは魅せる為に裏ではしんどい。 たぶんみんなどこかで自分なりに何か大事なものに気付いたり、別な場所を見つけたり、諦めたりしてファッションから降りていく。作る側、ブランドを売る、そんなところから降りていく。
自分は孤独だ。弱い自分だけど孤独なのは別に気にならない。
10年以上いて途中で鬱で潰れて躁鬱になって今でもまだここにいる。
モラルとか人としての何かを欠落してしまった自分かもしれない。
自分はそれで良い。
でもたまに泣きそうになる。彼女とのやりとりで泣きそうになるようになった。
弱い自分に気付かされた。
じゃあどうしたら良いんだろう。
分からない。ただ自分はファッションからは降りる事はない。
服が好きかと言われたらよく分からない。
今まで培ってきた事が財産かと自分に問いかけたら疑問だ。
ただやっぱりドロドロとえげつなくやっていく。
使えるものはなんでも使う。
言うのはタダだから臆せず言っていく。
自分の欲しい物は素直に求めていく。
表向きはキレイごとを取り繕って言う。
だから自分みたいにキレイごとを言っているヤツほど腹の内を探る。
でもそれは色んな事を上手くいかせるため。
自分の為、自分の欲を満たすため。
ファッションに夢をみたり希望をみたりしない。
ただ自分が今、生きていくため。
降りない。
そんな自分に自分で酔いしれながらやっていけば良い。
そして多分、回りに置かれた環境に慣れてしまうと良くない。
足元をすくわれないようにニコニコしながら穿ってみている。
偉い人には愛想良く。困ってる人にも優しく。
その場で反射的に気付いて動けるのが最善だ。
他人がやっている盗めるものはとことん盗んで吸収していく。
自分のものにする。
それで良い。
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