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【詩】ふたりは音楽

鶺鴒セキレイの高らかな歌声は 銀色
咲きそめし花水木の梢より さし出される光の指
居ずまいをただして 四番目の指へとおさまる
その啼き声のカンタータは 銀色のまばゆい指輪

風にめくれるページの音は 草色
初夏の午前ひるまえ 書に耽るきみの栗色の目が
夢のつづきを追うように 空の果てへと移ろえば
ページの鍵盤が奏でるのは 草色のグリッサンド

煉瓦路の落葉を駆けゆく音は 深紅色
出会うより以前の日々を 記した二冊のノートブック
ひと日会う度ひと日を破り 彩雲の空へとふり撒くぼくら
夕陽の炎の口中へ逸る足どりは 深紅色のスタッカート

深夜の電話のささやきは 濃紫
冬の星雲より降るその声に 鼓動ははずみ血潮は熱く
夢に華火のようにひらくのは その皮膚のまだ知らない悪戯
雪の野に吐息のドルチェをおとす 濃紫の早咲き菫

その声に崩落する氷のざわめきは 無色透明
凍てついた曠野あらのを地下深く むかう先はひと本の菫草
まだ冷たいけどこの指で 闇にて息づく髪を包もう
ぼくより他を見ないよう かける呪文は無色透明のラスゲアード



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今回の詩の主題は「音に色彩を感じるなら」です。

グリッサンド
ピアノの鍵盤を右から左へ、左から右へ、
指をはなさずにギュルルルルーンと弾く演奏法

ドルチェ
音楽用語で「やわらかく」「柔和に」

ラスゲアード
フラメンコギターをジャンジャカジャンと鳴らす弾き方


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