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ロマンポルノ無能助監督日記・第37回[『濡れて打つ』監督日記で完結出来るか? ]

金子修介28歳の映画監督デビュー作『宇能鴻一郎の濡れて打つ』の演出部は、チーフは一期下の池田賢一(27歳)、セカンドは三期下の明石知幸(25歳)、サードのカチンコには新人の川越修(多分25歳)という布陣になった。
山本奈津子は撮影時18歳。

池田とは、小原組でのチーフとセカンドの関係で、良くファンキーさん(小原宏裕監督)に調布のカラオケ店に連れて行かれ、一緒に歌ったりしていたから気心が知れている。
明治大学出身で、百恵ちゃんファンで山口百恵の歌を良く歌っていたが、人の歌の「褒め上手」だったなぁ。体育会系ではないが、先輩を立てる奴。
入社した年の冬撮影だった藤田敏八監督『天使を誘惑』(79 )にカチンコで就いて、常に百恵さんの「セット履き」を胸の内に入れて温めていた、と本人から聞いた。冬のセットは冷える。

雨野夕紀主演『芦屋令嬢いけにえ』(86)で監督デビューし、手堅い感じで、その後何本か撮っているが、88年にロマンポルノが終わると、葬式や日活の集まりでも会えず、近年の消息は分からない。

セカンド明石は早稲田大学出身、『家族ゲーム』など森田組でのチーフとセカンドの関係で、森田さん主宰で監督昇進を祝ってくれた新宿三丁目でのミニパーティにも来てくれた。
彼の期以降は監督になる前にロマンポルノが終わったので撮れてはいないが、それでもしぶとく外部で長編のヒット作『免許が無い!』(94)の前に『バカヤロー!4YOUお前のことだよ』(91)のうちの1本で監督デビュー果たした時に、僕も赤坂プリンスのレストランでミニお祝いしてあげた。
赤プリとは我ながらバブルぽい。時代じゃのぉ。
その後、日活でなんと制作部長になり、SABU監督のデビュー『弾丸ランナー』(94)を手掛けてフリーとなり、最近では中田秀夫監督『終わった人』(18)のプロデューサーであり、『波乗りオフィスへようこそ』(19)の監督。

二人ともダンドリを理解する優秀助監督であった。
(僕は要するに、ダンドリってものが良く理解出来ない奴だったのだ)

しかし、サード川越は、仕事のプレッシャーで無断欠勤してしまう問題児で、『濡れて打つ』撮影中も「今日は川越が来てない」ということが二三回あった。
結構、早くに助監督をやめ、『ガメラ2』(96)ロケハンの時だったと思うが、札幌のバーでバーテンとして働いている彼と再会して思い出話が弾んだ。現場の時よりも生き生きして元気そうであった。

「監督日記」になると、途端に客観性が無くなり自画自賛になりそうだということが自分で分かるので、明石に山本奈津子の現場での様子はどうだったのか聞くと「なんで〜、なんで〜」と言いながらやっていたそうである。口調が思い出されるなぁ、奈津子の。
宇能鴻一郎の「無理矢理エッチ」の理屈が分からないのは、仕方無いことだったろう。

僕が強烈に覚えているのは、
「あんまり下からパンツばっかり撮ってると、なっちゃんだって分からないじゃない!」
という奈津子の言葉と顔・・・
その時、僕は彼女に画コンテを見せ、こうしてこうしてカットを繋げてゆくと、なっちゃんだって良くわかるだろう、と説明していくと、目を潤ませた彼女は、
「わたしは、この映画に賭けてるのよ!」
と拳を握って言った。
僕も、その時、
「僕も、この映画に賭けてるんだよ!」
と言って、お互いの気持ちが通じ合った気がした・・・

これは、まるで『濡れて打つ』の世界そのもの、のようでもある。

エレベーターの中で、ひろみを肉棒注射と言ってバックから犯した男は、コーチとしてテニス部へやって来る。
エレベーター内でも、やって来たグランドでも、彼の登場の時には足下のアップを撮り、右足で左足のスネの内側をコスる、という“変な癖”をつけて撮った。
これは『サブウエイ・パニック』で犯人のロバート・ショーか誰かがやっていたディテールを頂いたものだ。
この男が、「エースをねらえ!」の展開通りにテニス部員たちの前で、お蝶サマとひろみを関東大会シングルス代表候補にし、
「二人は1週間後に試合をする。勝った方が正選手、負けた方が補欠だ」
と宣言。お蝶からひろみへ整列を移動撮影して、そこにジェット機の轟音で、衝撃音を入れた。
ひろみはコーチを追いかけて「無理です。お蝶サマとの試合なんてご無礼です。私を忘れたの?あなたみたいな人がコーチだなんて、理事会に訴えちゃうから」
と、校舎前で詰め寄る。
コーチ「構わん! 俺はあの時、お前の天性の腰のバネを発見したのだ。腰のバネはセックスを通じてでないと分からない。何千人とセックスしたが、お前の腰は最高だった。天才テニスプレイヤーの素質がある。お前を発見したからこそ、この学校に来たのだ。目指すは世界だ!」
とひろみの顔の前に指を差す。右に指、左にひろみがびっくりしている顔というカットを撮った。ロケ場所は初台の産業試験場跡地、現在のオペラシティ。
次のカットはパンティも顔も入る地面からのアオリショットにしている。
そこにナレーション「あたし、思い出しちゃったんです、コーチの注射」と入れて、ヘナヘナと腰砕けになったところにお蝶がやって来て、
「来たばかりであなたの素質を見抜くとは、なかなか鋭い目を持ったコーチね。思い切りぶつかってらっしゃいひろみ、あたくしも手加減しなくってよ」
というところで青春ドラマの定番ソング「太陽がくれた季節」を入れた。
「青い三角定規」のオリジナルは使えないので、当時売り出し中だった三宅裕司のスーパーエキセントリックシアターが作ったパロディレコード「暗い三角定規」から使用して、クレジットも出している。
ひろみとお蝶が見つめ合っているところに“チャチャチャチャッチャチャッチャーン×2”の前奏を入れようと、それを頭の中で演奏してからカットをかけたので、終わったあと、二人は「ながいー」と言って吹き出した。
編集したら、ちょっと足りないので次のシーンにこぼれ、それが逆にテンポを上げた。

ひろみのコーチによる特訓をビデオで撮っている玉本(高山成夫)と、コーチの激しさに惹かれて「なにやってんの、コーチを撮って」と命令する蘭子(石井理花)は、生徒会室でビデオを見て興奮してセックスになるが、玉本が巨根なので蘭子は「掘り出しものだわ」と喜ぶ。
高山君は、必死に汗まみれで演じてくれたし、石井理花も役を面白がってくれていた。
生徒会室は、撮影所の13ステージ内倉庫。
この時、玉本が撮っていた朝の温室前のビデオで、ひろみと坂西のキスシーンを蘭子がたまたま見てしまう、という、“たまたま”を、“巨根を再度勃起させようとしてひろみのビデオをデッキに入れ替えて見たら”、というダンドリをちゃんと踏んでいる・・・というところが、自分はストーリーテリングが結構上手いのではないか、と思いながら撮っていたって、やはり自画自賛になるわ。

この蘭子がお蝶に「お蝶サマの子猫チャンが、坂西さんとキスしてるんです」と御注進に行って、お蝶が「まあ!信じられないわ」と首を振るシーンを、シーンごとスチール構成にした。
これは、撮影時間を短縮するためでもあったが、『仁義なき戦い』で説明的な映像をスチールの連写で表現するのを真似したかった、というのもある。
映画のテンポ感も、上がる。
石原裕次郎の時代からスチールマンをして来たベテランの井本俊康さんが組み付きスチールマンで就いており、お願いしてスチールを撮ってもらった。
この場面を、編集の冨田功さんが、とても面白がって、ストップマンガコンテ的に編集した。
「ネコちゃん、これ最高だよ!面白い」
と。冨田さんは、“面白がり屋”というか、本当に映画の編集が好きな人だった。

ロマンポルノのスチールマンは、宣伝用のスチールのため、“絡み”のシーンでは撮影がひと段落して照明換えになる前に「スチールください」と言ってカメラ前に出て、映画進行とは少しだけ違う“カメラに見せる”ポーズを俳優に取らせて撮るので、絡みの時にはカメラのすぐ近くにいて見ているが、井本さんは、その絡みのシーンで、僕に親指を立てて“今のは、なかなかエロチックに撮れてるよ、監督”という仕草をしてくれる。
何回か、井本さんの親指を確認してうなづき、OKを出した。
今見ても、意外に“ポルノ度”が高いのは、井本さんのおかげかも知れない。
新人監督が女優に気を使ってポルノ度を弱めてしまうというのは、ありがちなので、“監督、自信を持て”というベテランスタッフの気持ちだ。

スタッフや俳優から、「いい感じ」という空気や言葉があると、監督は自信が湧いて来る。

冨田さんの面白がり方も、僕に自信をくれた。
『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』を繋いでくれた後に肺がんで亡くなるまで、僕の映画を面白がって繋いでくれたのだった・・・

井本さんも、『どっちにするの。』や『就職戦線異状なし』など、その後の一般映画にも何本か就いて、終わった後、必ず現場スチールをアルバムにしてプレゼントしてくれた。今も大切に持っている。
引退の後も、石原裕次郎の写真展を開いて連絡を貰って行ったり、記事を送ってくれたりして、「伝説のスチールマン」などと呼ばれたが、昨年(20)89歳で亡くなった。

お蝶は、夜の井の頭公園音楽堂で壁打ちテニスしながらひろみを待っている坂西を誘う。
坂西をひろみから引き離すためだ。
「お話があるの。つきあってくださる?」と吉祥寺ホテルに連れて行くと坂西は「ここって、お話するところでしたっけ?」「(上品に)おいや?」「とんでもない。よろこんでお相手しますよ」
と二人して入って行く。ホテル内の撮影も、この吉祥寺ホテルで敢行した。
玉本はビデオを担ぎながら追いかけるが、入れない。
ひろみは音楽堂に遅れて来て、テニスボールを拾う。
大きく引いて音楽堂全体の中にポツンと立っているひろみを捉えて、木枯しで枯れ葉を扇風機で飛ばし、ひろみの寂寥感を表現した。
結構、こだわりのカット。いい画になっていると思う。撮ってる時は、黒澤『素晴らしき日曜日』を思い出していた。
ホテルの部屋ではビールを飲んでいる坂西に、お蝶が、
「ひろみには手を出さないって約束して頂戴、それが条件よ。あの子にとって、今が一番大切な時なのよ」
「美しき子弟愛だね。約束する。お蝶サマと出来るなら、ひろみなんて」
と脱がそうとするが、薄笑いしながら自分で脱ぐお蝶。
この時のポルノシーンが、井本さんに親指立てられたのだった。
自分の股間を舐めさせているお蝶が、リボンを外して髪を振り乱す演出が上手いよ監督は、と褒められた。
シックスナインになったりして、かなり濃厚なセックスシーン。
玉本君は、ホテルの屋上から命綱を着け、ビデオを担いで二人の行為を撮ろうとする。それを屋上から下向けで撮った。
これ、相当危険な撮影だが、普通にやった。ライトが足りないので、良く見えないけれど。
窓も閉まっているし、“絡み”を盗み撮り出来るような位置関係では無いが、このホテル屋上からの俯瞰カットがあることで、なんとかギリギリ説得力を持たせられるだろう、という計算があった。こんな態勢で撮れる訳ないだろ、と言う人もいるかも知れないが。
上になったお蝶は腰を激しく使って坂西を射精せてしまい、自ら外れて、
「こんなことじゃ、プレイボーイの名が泣くわよ」
と、息を荒げながらも、自分の尊厳を保って言う。林亜里沙、上手いなと思った。
このシーンをアフレコしたのは、翌年の1/6,7のどちらかであるが、休憩時間に食堂で林亜里沙にお茶に誘われ、おッ、俺ちょっとモテてんのかな?と思ったところが、「(セックスが濃厚すぎて)お蝶夫人のイメージが崩れる」
と、不満を言われ、だからどうこうして下さいとまでは言われた訳では無いが、あ、やっぱ嫌われたかな、と思ったものである。
ここまで助監督生活を通じて、女優さんから“好かれている実感”というものは無かったからなー。

玉本は、ひろみに生徒会室で「僕には報道する義務がある」と言って、お蝶と坂西のラブホテルでの行為を撮ったビデオを見せる。ひろみは仰天。
だが、行為の後、お蝶サマが「いいこと、あたくしの可愛いひろみに2度と手を出さないで頂戴」と言うので拍手し、玉本が「君の彼氏、盗っちまったんだよ」と言っても「スッキリした、お蝶サマってかっこいい。じゃ、どうもサンキューでした〜」と言って表に出るが、表ではドアにもたれてベソをかく。
この「サンキューでした〜」は、現場で奈津子に言い方を任せて、リアルな感じにしてもらったつもり。

人気の無い校内廊下(初台)で坂西が、「一度きりと約束したはずよ」と言うお蝶を抱き寄せ、「その冷たさがたまらない魅力なんだよな〜」と言っていると窓から飛び込んで来たひろみが「いい加減にしなさいよ、バカ、お蝶サマが嫌がってるじゃないよ」とどつくと、坂西「なんだよ、お前らレズなのかよ」ひろみ「そうよ、お蝶サマの方がずっと上手なんだから」お蝶「ひろみ!何故それを早く言ってくれなかったの」とひろみにキスするのを、イドーでここぞとばかりにガーっと寄ってゆく。これが撮りたかった!、とばかりに。

ふたりは夕陽の屋上に上がる(調布サレジオ学園)。この時、落ちかける太陽があって、それを撮れたのが嬉しかった。
お蝶「ひろみ、あの夕陽に向かって約束しましょう、あたくしたちは2度と男を受け入れたりしないって」ひろみ「はい!男なんかより、お蝶サマの方がずうっと素晴らしい。いつまでもいつまでも私はあなたのひろみです!」
ダビングで賛美歌を流した。

グランドに遅れてやって来たひろみ。
コーチ「遅い!」ひろみ「すいません、今日は思いっきり特訓して下さい、お願いします」コーチ「良く言った!」

で、撮影所内の浴室でコーチがひろみにシャワーを浴びせる。
12/29の最終日に撮ったシーン。
「何するんですかコーチ」「わからんのか、雨天練習だ!」
と言って、素振りをさせるが、「動きが鈍い!」「ユニフォームが重いんです」
「だったら脱げ!」
と裸にして腰を触って動きを指導し「しかし、いい腰だ」と勃起「腰のバネを鍛える」と言うコーチからハッとなって逃げるひろみは「お蝶サマに誓ったんです、もう男は受け入れないって」「バカモン、これはトレーニングだ、お前何考えてる」
完全に宇能鴻一郎的ナンセンスエロが、スポ根世界で展開されている。
でも、映画の本筋とも繋がっているから、ここだけが変な訳では無い。
コーチがひろみのお尻から挿入するとナレーション「お尻が勝手に動いちゃいます。好きです、肉棒注射!」
そこへ、トレーニング終えたらしいお蝶が更衣室に入って来て、裸になり、鏡で自分の胸に見惚れ、ドアを開けるとコーチが射精して、顔にひっかかる。この時の亜里沙の怒りの表情は綺麗だった。
夜のサレジオ学園ロケで、その続きは、それ以前に撮っている。
追いすがって「腰のバネを強くするための訓練なんです」と言うひろみにお蝶は「テニスは、テニスは腰だけでするものではありません!。汚らわしい。あなたには、テニスをする資格なんてないわ」と言って立ち去る。

次の日、お蝶から見捨てられたと絶望し屋上から飛び降り自殺しようとするひろみを玉本は「やめろよ、もったいないよ、僕は君が好きなんだ!君とやりたいんだ!」と言って止めて一緒に倒れ、自分も股間を打って「ああ!折れたあ」となり、眼鏡は割れる。
この時、ひろみの持っていたテニスラケットが屋上から落ちる、というカットをスローモーションで撮った。
蓮見重彦の「映画と落ちること」を読んで、“落ちるカットは俯瞰で撮るべきだ”、と信じて、画コンテでは横からだったが、俯瞰にしたのだった。
10年後の『ガメラ』吊橋のシーンで、中山忍の靴が吊り橋から川に落ちてゆくカットの時に、このラケット落下のカットを思い出して撮っていた。
玉本は「折れた」とのたうちまわり「死ぬ!」と言うが、ひろみは「ダメよ死んじゃ、生きるのよ、今見てあげるわ」とパンツを下ろす。
この時、玉本の巨根は後光が差しているのを、ひろみのアップはセットの最終日に白バックでハイスピードで撮り、現場ではバイブレーターを立てて、ピント外してシルエットを逆光で撮ったが、これは画としては失敗に近いが、“ご愛敬”の部類であろうか・・・特撮カットか、これ。
ナレーション「すごいんです、玉本君のアレ」セリフ「平気よ、立派に立ってるわ」玉本「感覚が無い、さわってくれ」で、恥ずかしそうに触ると「握りきれないくらい太いんです。あたし、腰がうずいて、何だか元気が出て来ました」
と微笑む奈津子は眼鏡が外れた玉本を見て「玉本君て、結構ハンサム」と、更に可愛らしい笑顔になる。
評論家の採録も、ここまで詳しく書かないよね。
ここで、ひろみの玉本への笑顔が無いと、最後のセックスは感情が入らないであろう。

次のカットはグランドでテニスラケットを両手で握りしめているアップから引いてひろみとなり、お蝶と対峙して試合開始になるという手持ちショットで、イチモツを握っている感覚とモンタージュしているつもりだ。
「玉本君のために試合やらなくちゃならないんです」とひろみが言うので「まあ、また違う男を作ったのね。容赦しなくってよ」と怒り呆れるお蝶も「じゃあ、試合をしてくれるんですね」のひろみに「覚悟はよくって」と微笑を与え、両サイドに切れてゆく。
これ、ワンカットでここまで両者の関係性の変化を芝居させてるのって、評価してあげよう金子君、とDVD再見して思った。
まあ、そのお蝶の微笑が無いと撮りたくてたまらなかった次の、
「あなたにはワンゲームも渡さない。それがわたくしの、あなたへの
は、イキナリ感があって浮くだろう。

そして、試合の全行程を見せても面白くない(素人だしロマンポルノだ)から、画コンテでは20カットになっている(そんなに撮れない)、ひろみからサーブしてお蝶が打ち返すラリー9回を、現場で判断して9カットに減らして(よく判断出来たね)、9回目を黒バックのセットで撮ってハイスピード、ひろみの渾身の一撃とすると、これがバウンドしてお蝶の股間に入り込み、回転してめり込み、お蝶はガクっと膝を折って立てなくなる、という試合展開とした。
狙い通りに行ってるが、再見すると、奈津子のスポーティな動きが溌剌として見え、彼女の魅力とは全身のスタイルだったんだな、と思う。

ここで実は一番苦労したというか、テイク数が多かったのは、テニスボールがバウンドしてカメラに向かって来るというカットで、画コンテでは、それを横から撮ろうとしたが、カメラ杉やんが「正面で受けなきゃダメだろ」と言って、手持ちで構えたが、これが何度やってもカメラレンズに向かわないで外れる。
50テイクは撮ったと思う。
僕は、このカットに1時間もかけてらんないぞと焦って、ある程度でOKを出そうとしたが、杉やんは自分で言い出したことだから、ボールがカメラレンズに当たらないと意味が無いので、50回でもやり遂げた。
おかげで、次のお蝶のスコートの中のパンティにボールが入ってゆくカットと、動きが自然に繋がって見える。

立ち上がることが出来ないお蝶を金網越しに見て、割れたままの眼鏡をかけている玉本が「やった!、エースを取った!」と言って、テニスコートに入ってゆくところで、また““チャチャチャチャッチャチャッチャーン”の「太陽がくれた季節」をかけ、玉本はひろみに抱きつき、二人を円の中心にしてカメラは回転してゆくというワンカットは、『男と女』のように、グルグル回る。
『男と女』というより、想いはブライアン・デ・パルマだったかな。
杉やんは興奮して撮っていた。
そして、回転したまま、ひろみの部屋のベッドへ倒れ込む、という繋ぎ。
勢い溢れる一発目、続いて二回戦目のセックスしながらベッドから床に倒れ込むと、カメラはカーテンの掛かった窓へパンアップし、パッとカーテンが開いてコーチが「俺にもやらせろ」と言って入って来る。
・・・これは、現場で思いついたんだっけ、台本には無かったと思うが、確認しないと分からないが台本は押入れの奥底に・・・

次に星空バックにひろみ、玉本、コーチを立たせ、コーチが天空を指差し「あれがお前の星だ。お前は世界に羽ばたいて、天をかける星になれ」と、その気になった芝居すると、玉本が「ひろみ、エースをねらえ!」で、ひろみのキラキラ笑顔のアップで「終」。
ダビングで、ここにまた賛美歌をかけた。
穴の開いた黒幕の後ろからライトを当てて作った星空は、『時をかける少女』のファーストシーンみたいに、バレバレの合成的な画にしたかった。

前回書いたように、6日間と指定された撮影期間は、結局8日間まで延びた。
12/28のセットひろみの部屋では「奈津子、倒れ、撮影中止」と書いてある。
この時は、池田と明石とで、奈津子をケアしてくれた。感謝。

22年後の2005年、TV『ウルトラマンマックス』第1話に、美しいお母さん女優となった奈津子を呼んで、特別出演的に出てもらいマックスと怪獣の戦いを目撃、翌2006年には、那須博之さんが遺した企画『神の左手悪魔の右手』のファーストシーンで、強烈な叫び声を上げてもらった。

2005年4/20オンエアの衛星劇場で対談して「わたしはこの映画にかけてるのよ!」の話を一緒にして笑い合った。

クランクアップの翌日12/30に今関あきよし監督デビュー作『アイコ16歳』と、その現場ドキュメント『グッドバイ夏のうさぎ』を新宿名画座ミラノに見に行って、同じ新人監督でも、ずいぶん環境が違うよな、と思ったが、嫉妬した訳ではない。
ちょっと、まぶしかったが・・・映画の中の青空が。

年越して84/1/1の朝10時に成田発、台北→香港→クアラルンプールというルートで、那須夫妻が待っているペナンへ向かった。制作調整デスクの新津岳人もいるはずだ。
1/5までの滞在で戻って、1/6,7はアフレコである。
ペナンのホテルに着くと、真知子さんがパラソルの下で原稿を書いており「那須たち、ビーチに行ってるわよ」と言うので、砂浜に行って、那須さんと新津君を見つけて、いっきに『濡れて打つ』現場の話を大声でした。とにかく那須さんに話したかったのだ。那須さんは、嬉しそうに聞いてくれた。
「ペナンで日活の話してるって、おっかしいよな」と・・・
話しきった後、夕方近くになっているのに、3人でボートに乗って沖に出た。
円形のボートだった気がする。那須さんと新津君の両方の顔が見えていたから。
何か、トラブルが発生して、危険な状態になったと思う。モーターが止まったのか・・・その時、那須さんが、ゲラゲラ笑いだして、僕も笑った。
このまま幸せな気分と危険な気分とで死ぬかも知れない、と思った。
那須さんは、恐怖があると笑うのか。
僕も、思い切り笑った。

・・・というところで無能助監督日記は終わりにするか・・・カッコいいかな、それも・・・

でも、ダイアリーをめくると1/10の第一回編集ラッシュの日に書いているのは・・・
「初めて繋がった作品を見て、こんなことなら5年半も助監督やる必要があったのかいな、と痛切に感じた。8ミリを撮っていた話法の延長線上にあるわけで、この程度の作品なら23才のオレにも作れたと思う。こんなもののために何年も出番を待っていたのか。もっと噴出するような何かはなかったのか、ボーゼンとした気分だ」
と書いている。
1/11の第二回編集ラッシュでは、
「まあまあ、面白いんではないか、と思った」
1/12のオールラッシュでは、
「3回目ともなると、アラばっかり目についた。役者が動いてないのがいけない。しかし総ラッシュは(会社に)まあまあ好評。三浦朗が突然現れて『合格点だと思う。しかし、もっと人間観察を』とか説教たれるのには頭にきた」
すみません、39年前の若造のセリフですからぁ

1/15成人の日にも撮影所に行き「音楽作り。朝から晩まで聴いて、頭が痛くなる」というのは、日活所蔵の著作権フリーのフランス・イタリアのインストロメンタルを劇伴音楽とするわけだが、ファーストシーンの映像を思い出して秒数を出し、オープンリールテープを聴きながら、頭の中で編集しているということだ。

ダビングが1/18,19だが、1/20「森田組スタッフ打ち合わせ」となっている。
完成前に『メインテーマ』の打ち合わせが、もう入っていたのか・・・
1/23は千葉ロケハン(前田米造カメラマン)
1/24が東映化工現像所での0号で、狛江から歩くと迷ってしまい、デニーズの前で池田の乗ったタクシーが止まってくれて、これに乗って間に合った、と書いてあるのを読んで思い出した。
この日、新宿スカラ座で『里見八犬伝』を見て、明石としゃぶしゃぶ、と書いてある・・・明石も『メインテーマ』のセカンドで、もう働いている。

なんか、しまらないな・・・助監督日記としての終わりが見えない・・・
『濡れて打つ』は84/2/17、中原俊監督『縄姉妹・奇妙な果実』と同時上映で、結構ヒットした、と聞いた。
『メインテーマ』が2/24にクランクインしているから、上映には行ってないはずだが、新宿にっかつで山本奈津子の舞台挨拶を後部席で立って見て、
「なんと、監督が来てます」と奈津子が手を振って、舞台に上げられた、という記憶は、あれはいつのことであろう・・・

しかし、『メインテーマ』のことまで書きだしたら収集つかない。
今宵はここまでにしとうございますとして、どうするか後で考えよう。
1万字越えてしまったよ。

(チャリンの方には、テニスシーンのコンテ一部のみ(2枚)公開。前回、18歳以上閲覧となったのは、ポルノシーンの画コンテが理由ではないか?)

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