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『DCスーパーヒーローズ(原題:THE WORLD'S GREATEST SUPER-HEROES)』から受け取ったモノ その③

まえがきその③『ヒーローという在り方』

ヒーローとは、常にその在り方を示すことを問われる存在である。
それは正義という在り方だ。
彼らにはパワーがある。目的がある。必ずしもそれは同じではないだろう。だが……同時に目指すべき場所に違いはない。彼らがそう信じている限り、その結果は素晴らしいものとなるだろう。
スーパーヒーローが集まるということは、複数の正義が混ざり合うということではない。スーパーヒーローが集まるということは、目指すべき正義を互いに助け合うということなのだ。

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※以下ネタバレ注意※
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『JLA:リバティ&ジャスティス』

……滅びた星から訪れた者によって、片翼のエンジンから火を噴く飛行機は支えられる。多くの人々の悲鳴と願いが、彼を動かした。
マーシャン・マン・ハンター────ジョン・ジョンズ。滅びた星、火星から来た彼は、その実超人としての能力においてはクリプトン人であるスーパーマンに匹敵、あるいは上回るほどの力を備えている。

そして同時に、彼以上に思慮深く、平和を願う存在であるのも事実なのだ。────だが今回、活躍するのは彼だけではない。

ある者は超速度で人質にされた人々を瞬く間に救出し────。
ある者は選ばれし者にだけ授けられるリングを用いて天候に干渉し────。
ある者は海の王としてルールを侵す者達へ制裁を下す────。

飛行場に不時着した飛行機へと救助隊が駆け寄る中、その姿を消そうとするジョンの傍へと駆け寄る姿がある。────ダイアナ・プリンセスこと、ワンダーウーマンだ。火がスーパーマンのクリプトナイト以上に致命的な要素となるジョンは、危険を侵した自身を慮る彼女へ、テレパシーで感じた人々の恐怖心に比べれば些細なものだと告げて見せる。

しかし問題はそこではない。わざわざ現れたダイアナが、何を報せに来たかであった。……それはともすれば人類を脅かす、恐ろしい事件の幕開けでもあった。

集まったジャスティスリーグは全員ではなかったが、彼らとてペンタゴンというアメリカの中枢部に招かれるのは初めてであった。それと同時に、ジョンは彼らの心をも感じ取る。残念なことに、権力者とそれに追随する者達が抱えるのは犠牲者への悼みではなく、未知の情報に対するパニックへの恐怖だった。

ジャスティスリーグ。彼らはこれまでも、そしてこれからも多くの敵と戦っていく。世界を破壊せんとする存在、あるいは洗脳しようとする者、異次元の怪物から暗黒世界の王に至るまで。

だが今回は、それら侵略者らと違うのではないか。そんな気配を感じつつ、現場へは何が起きても対応できるメンバーとして、マーシャンマンハンター、フラッシュ、グリーンランタンの三人が向かう。

事件の現場では、奇妙な事態が起きていた。犠牲者だと思われた村人らは、全員が呼吸も蟻、意識のある状態で倒れていた。彼らはジャスティスリーグの三者に怯えていることがジョンに伝えられ、グリーンランタンによる探索で今回の事件は宇宙から飛来した隕石によることが判明した。
────しかし、そのウイルスの正体までがわからない。それは銀河を股にかけるグリーンランタンコァのデータベースでもわからないということを意味していた。だがリングの検査結果によると、ウイルスは酸素と結合し10.5秒ごとに細胞分裂して増殖することが判明。もし情報が齎されるのがあと一日遅ければ、最悪地球そのものにウイルスが拡がっていた可能性すらある。しかもこのウイルスはどうやら空気感染するのだから。

そして……ウイルスが拡散した場所はアフリカの某国。政治的に不安定な場所。たったこれだけで、この国の統治者がどうするかは簡単にわかるだろう。すなわち、感染者もろとも焼き尽くすという選択肢だ。

ジョンは、冷静に思考しながらも迷うことなくミサイルへ向かっていく。しかも、それは文字通り周囲を焼き尽くす焼夷弾だった。このまま起爆すれば、ジョンの命は呆気ないほど容易く失われるだろう。────一人であったならば。

「遅れてすまない」

鋼鉄の男スーパーマンが、焼け落ちてきた建物を支える。

さらに危機はそれだけではなかった。防護服を纏っていたフラッシュ────バリー・アレンだが、そこに穴が開いてしまっていたのだ。だがウイルスに感染し、海へと沈む彼の体を、海を支配する王アクアマンが救出する。

仲間による連携。最悪の事態にも、彼らは即座に対応してみせる。

しかしフラッシュを助けたアクアマンだったが、彼もまたウイルスに侵されてしまっていた。

そんな中、ひとまず事態を収束したスーパーマンらは、今回の戦いが人々が抱える恐怖との戦いになるのを理解していた。超人による事態への介入は誰よりも早い解決を導くかもしれない。だがそれは同時に、超人が持つ力への畏怖をも加速しかねない。見えない恐怖というのは、人々が潜在的に向ける恐れを顕在化させてしまうことにもなるのだ。

この戦いが始まる前、ジョンはジャスティスリーグの面々が何故ヒーロー足りえるかを”その揺るぎない正義の魂”にあると独白していた。だが逆に言えば、それは常人が持つにはあまりに大きすぎる使命感でもあるのだ。

未知の病。それに対する恐怖は、ウイルスそのものへの恐怖よりも早く人々へと伝染していく。

未知の惑星からやってきた宇宙人や、超常的な能力を持つ存在。ヴィランのように犯罪をしたわけではなくても、彼らの気が変わり、敵意を剥き出しにしたならば……? スーパーマンらのパワーを見て、そう考えるのは何もレックス・ルーサーだけではないのだ。ある意味では、全ての人類が彼と同じく不安と不穏に囚われることとなる。

さて、事態は進む。ダイアナによって救出されたアクアマンとフラッシュは、彼女が乗る透明な飛行機に乗ってバットケイブへと辿り着いていた。そしてバットマンもまた、こういった事態におけるとっておきの切り札へ協力を依頼していた。

その名もアトム! 原子の名を持つ彼はその姿を小人のように小さくすることや、さらにそれより小さく細胞に跨るほどのサイズにまで小型化することが出来るのだ。彼はバリーの体へと侵入すると、ウイルスサイズの侵略者を解析する。そして彼は対抗するのに必要な薬品は通常のルートでは手に入らないと言うが、ジャスティスリーグに不可能はない。バットケイブにある薬品、そして復活したフラッシュ。ウイルスへの抗体は、瞬く間に作り出された。……だが、事件発生からすでにかなりの時間が経過している。それが例え数時間でも、先ほど述べたウイルスの増加スピードは、グリーンランタンの生み出した巨大なグリーンドームがエネルギー切れを起こした瞬間、世界中に向けて拡散するだろう。

そして、グリーンランタンのリングが持つエネルギーは、24時間しか持たない。

そんな中、未だ感染者が倒れるコンゴには嵐が迫っている。さらには中途半端に漏れたウイルスの情報が、世界中でパニックを招いていた。スーパーペストと名付けられたそれは、名前通りの恐怖と共に人々から理性と希望を奪い、弱者からの略奪が始まる。

だがそんなことを、ジャスティスリーグが許しはしない。

力には力で。他に手段がなかったとはいえ、リーグの面々はその準メンバーをも含めてあちこちで暴徒らを鎮圧していく。それはウイルスの存在と合わせて、彼らへ敵意が向けられることをも意味していた。

今の状況だけを示すのならば、生きる為に奪うことを選択した人間が、超人らによってその行動を制限されたに等しいのだから。真実は違うとしても、彼らにとってはより強い力で生きる権利を奪われているに等しい。

そうしてジャスティスリーグが世界中から非難を浴びせられる中、グリーンランタンのパワーが尽きようとする前に、超人らによる奇跡が起こされようとしていた。
超スピードで巻き起こされた竜巻が、漏斗じょうご状に変形されていくドーム内で荒れ狂い、隔離したウイルス全てを宇宙空間へと吸い上げていく。酸素で増えるウイルスならば、酸素のない3ケルビンの真空中ではどうなるか。中に閉じこもることの出来る隕石を失ったウイルスは、僅かな時間の抵抗も許さず滅びを迎えた。

────翌朝。どことなく優し気な太陽の光が降り注ぐ中、リーグの面々はあるいは復興を手伝い、あるいは家族の元へと帰っていた。
しかし同時に、なぜ彼らが大衆を抑圧するような行動を取ったのか。その理由を説明せねばならなかった。

スーパーマンを中心に居並ぶジャスティスリーグ。理路整然とウイルスに関する報告をまとめ、提出したレポートの存在に触れていく。だが唐突に、その姿は変じた。スーパーマンの姿をしたのは、彼に変身したジョン・ジョンズ────マーシャンマンハンターだった。火星人である彼の姿は、スーパーマンと違い緑色の肌に赤い目。人間と似た造形をしているといえど、その姿は人々に恐怖をもたらすだろう。だからこそ、彼の誠実さは人々へと伝えられた。

────皆さんの信頼があるからこそ、我々は自由を守り、正義のために力を振るうことが出来るのです。
────私のチームメイト達は、我が故郷が持ちえなかった救いのシンボルなのです。
────我々を世界の一部だと受け入れてください。あなた方の一人だと。
『JLA:リバティ&ジャスティス コミック366Pより』

宇宙にて、残ったウイルスを保持した隕石がヒートヴィジョンで破壊される。これにて脅威は去った。だが、上記のメッセージを人類が受け入れるには時間がかかるだろう。

それはすなわち、〝自由〟と〝正義〟という概念が人々に浸透することと同じだけの苦労を伴うということだ。どちらもが、手に入れる為に苦痛を伴いかねない要素を孕んでいる。自由とは漫然と手に入るものではなく、あるいは積極的な自由を欲しようとしない人間もいるだろう。
正義においても、それが善悪とは別の観念である以上、ひたすらに抱え突き進むことは、さながら無限に続く茨の中を突っ切るのに正しい。それも鋼鉄の皮膚を用いずに、だ。
だからこそ人々には希望が必要なのだ。少なくともその可能性が。
そしてそれを担う存在。ジャスティスリーグ。彼らはこの世界で人々を見守り続けるだろう。何が起きようとも。

あとがきその③

今回、紹介しなかったエピソードというか、過去をリスペクトしたシナリオがある。それが、今回のコミックスに挟まれた『2ページオリジン』というものだ。ここには、今回のエピソードで紹介してきたヒーローらのオリジンが簡潔に描かれている。なぜ彼らがヒーローになったのか。それはその理由であり、きっかけだ。
アメリカンコミックスというのは特殊な媒体だ。キャラクターを生み出した人物は存在していても、基本的なルールやリスペクトがあれば、彼らにどんな艱難辛苦が訪れることも否定していない。それは彼らが希望の象徴だからだ。普通の人間では耐えられないこと。そんな出来事に、ヒーローはどう立ち向かうか。単純なキャラクターへの好悪の感情は別として、それは興味をそそるものだろう。

近年はヒーローが悪に堕ちる展開。或いはグロテスクな殺戮を主体とした作品が注目を集めている。ましてや世界までもが、かつて英雄視されたものが地に落ちた様を描いている。ヒーローが永遠にヒーロー足りえるか。それは一種のテーマなのかもしれない。
だが彼らは人々が描いた理想である。その代表格であるスーパーマンは、かつて父親を強盗によって失った少年が描いた理想のIFである。世界が暗雲立ち込めるのならばこそ、人は理想を追い求める必要に迫られる。

以前も述べたが、フィクションで描かれた理想。それに憧れ、夢想することは、決して否定される行為ではないのだから。

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