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映画感想:君たちはどう生きるか(ネタバレ有り)

 原作の小説も、それを基にした漫画も未読。それに加えて何もかも前情報が公開されないままだったので、本当にまっさらな状態で観に行きました。なんとなく、説教臭い映画になるのかなあと身構えていたんですが、説教映画というよりは、愚痴ボヤキ映画でしたね。なんというか、宮崎駿が生前葬を行うというので参加したら、ボヤキ調子、愚痴まみれのスピーチで最近の世相や身内をディスり始め、その横で鈴木敏夫が真顔で遠い目をしながら佇み、参列しているジブリスタジオ関係者たちが酷くざわついている……みたいな映画だった。そりゃ、大っぴらに宣伝もできないだろう。造りが独りよがりで歪すぎるし、エンタメをほとんど捨てているし、商業主義への批判も盛り込んでいるのだから。

 一番最初に抱いた印象は、宮崎駿版のパンズ・ラビリンスでした。デルトロは大層なジブリ好きで、随所にオマージュを盛り込んでいたので、ある意味、意趣返しのつもりだったのかなと思ったが、それにしては言いたいことが自己に寄り過ぎているというか、振り切っているというか、清々しいほどに個人としての、宮崎駿の映画として成り立っている。
 主人公の少年の生い立ちや周囲の環境、義理の母親とその少女期という二分しながらも同じ属性を持ったヒロイン像、二つの世界の境界線上を行ったり来たりする展開。まあ、それらは言ってみれば趣味というか、宮崎駿作品のお約束なのだろうが、何よりも色濃かったのは、これまで自分が築き上げてきた諸々に対する、あまりにも皮肉めいた諦観だった。
 これまで自分が原案と監督を担当してきた映画の数と一致する13個の積み木といい、それをすべて諦めきったような表情で積んでいる大叔父といい、某森の美術館っぽい造りの建物が崩壊する最後といい……。ここまで好き勝手やっていいの?と心配になるくらい全方位に対して突き放している。
 今作は鳥をモチーフにしたキャラクターが多数出てくるが、それぞれがメタファー的な役割を背負っているのだろう。
 新しい命(わらわら)を貪り、「我々は老いた、必死に飛んできたが、もう飛べない、ここは地獄だ、新たな雛鳥たちは跳ぶことも知らない」と嘆いて死んでいったペリカンは、自分も含めた現代における老人世代(アニメ業界全体のことも指しているのか?)。
 他者を食い物としか見ていないインコたちは、過去作品の栄光に縋っている商業主義なジブリ関係者たち。(もしくは、情緒も何も無く消費することしか考えなくなった大衆蔑視?)
 そのリーダーであり、最後には積み木を組み上げて裏側の世界を崩壊させてしまう王様は、ジブリブランドを再興させようとして失敗を繰り返すスタジオ関係者。(モデルがいそうだが、一体誰なのやら)
 誰もが、幸福な結末を迎えない。大叔父ごと、裏側の世界ごと、巻き込まれて滅んでしまう。まるで、自分の引退と共に崩壊の一途を辿ったジブリスタジオのように。ただ、これに関しては、じゃあなんで自分が納得のいく後継者を育成しなかったんだよとか、それはあんたの主観だろ、なんだかんだジブリは新しいものを産み出そうと頑張ってるだろとか、そういうツッコミもあるのだが……。
 だが、そんな中、唯一胡散臭いアオサギだけが主人公に寄り添ってくれる。皮肉屋で、可愛げも無く(グッズ化して売ろうなんて、そんなことさせるか!みたいなデザイン)、文句ばかり垂れながらも、冒険を助けてくれる。そして最後には、「あっちのものを持ってきやがったのか、くだらない」「あの世界のことなんざ忘れちまえ」「あばよ、友達」と言い残して消えていく。
 あのアオサギだけは、アニメ、ひいてはフィクションのメタファーだったのだろうか?いや、まさか、あれすら宮崎駿自身の投影だったのだろうか?デザインもクソジジイだし。
 だが、となると、あまりにも諦観が過ぎている。これまでやってきた、築き上げてきた、創り上げてきた作品のことを一蹴し、「所詮はアニメなんだ、くだらないものなんだ、忘れろ」と言い切るのは、色んな意味で凄い。まるで執着が無い。しかし、恐らく遺作として覚悟を決めて創ったものがこれなのか、最後に言い残すことはこれなのか、という疑問もあるにはある。でも、これを単なる愚作と評するのはお門違いな気もしてくる……。

 なんだか考えがまとまらなくなってきた……。結論を言うと、面白いのは面白いです。何もかもが、宮崎駿という個人から捻出された、正に宮崎駿の映画だと思う。当てつけのようなセルフオマージュが連発されるので、宮崎駿映画の総括といえる面もある。それにしては、狙っているのかと思うほど薄いけど。わらわらの無印良品みたいな造形とか。
 でも、題名通り、「君たちはどう生きるか」という作品なことは間違いなかった。最後に託されたものは確実に在り、それは商業主義によるグッズなどの物質ではなく、「私はこうだった。こうなってしまった。創ったものもくだらないものに過ぎない。だが、それが君の心に寄り添う時もあるだろう。これから大変な世の中になるだろうが、まあ、生きてくれ」というメッセージのような……。分からないけど、僕はそう受け取りました。
 僕はジブリ作品の中ではもののけ姫が一番好きなので、何十年越しに同じことを言われたような気もするが、そういう風に受け取ろうと思います。

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