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医療情報とブロックチェーン

~インパクト投資の可能性を広げる~

■ シリーズ: ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から ■

近年注目を集めているブロックチェーン。様々な言説がブロックチェーンを巡って展開される中でPwCが公開しているブロックチェーンの調査では84%もの企業がブロックチェーン技術に対して何らかの関与をしているという  結果が出ています。導入検討段階の企業も含まれてはいますが、今後広く      ブロックチェーンが利活用されることは想像に難くありません。

ブロックチェーンを一言で表現するとすれば、「データ管理」の在り方を変えたといえるのではないでしょうか。有名なビットコインをはじめとする仮想通貨は「トランザクション(取引)データ」の管理を行っており、エストニアでは「国民保険データ」の管理などに活用されています。

ブロックチェーンを活用する上で重要なことは、その性質・特徴を理解し、その上で従来のデータ管理の中でブロックチェーンを活用することで、その活用可能性を拡大もしくは課題を解決することができるものを選択することだと考えています。仮想通貨によるイメージが根強いブロックチェーンは 金融分野での導入検討が著しいですが、ブロックチェーンの導入可能性を考慮する上で肝要なのは「金融取引」という側面からではなく、広く「データ管理」という側面から検討を実施することなのではないでしょうか。

ブロックチェーンの活用場面として最も注目しているのが「医療データ」の管理です。個々の医療機関が独立してそれぞれ独自のフォーマットで医療 データを管理することは医療サービスの質の面でも、またデータ保全上も 合理的ではありません。

ブロックチェーンを活用することで医療情報が一元化され、各医療機関が 互いに情報を共有し、医師は患者の過去の医療情報を基に患者個人に合ったテーラーメイドの医療サービスを提供できるようになります。また薬の重複処方や緊急搬送時の対応速度の向上にも寄与するでしょう。そして昨今話題の「統計問題」にも一石を投じます。つまり、ブロックチェーンを活用した全国的な医療情報ネットワークを構築することで、行政機関は遥かに低コストで国内の保健情報を収集でき、政策立案に役立てることができるようになると考えられます。

一つの機関が自身の事業データを管理する為ではなく、あくまで多数当事者が対等な関係でデータを管理・運用するという側面がこのネットワークの肝であり、ブロックチェーンを利用する最大の理由でもあります。さらに医療情報管理という可用性の高いシステムが望まれる分野でブロックチェーンを基礎にネットワークを構築する選択は非常に合理的であるとも言えます。

インパクト投資

インパクト投資の分野でもこうした最先端の技術導入に対しての注目度は高いです。2018年2月、韓国の中間支援組織Pan-Impact Koreaが世界に先駆けてソーシャル・インパクト・ボンド(以下、SIB)の支払いの一部をブロックチェーン上で行いました。使用したプラットフォームはイーサリアム。 ブロックチェーン上でスマートコントラクトを手軽に実装できる点で、通貨交換的側面の大きいビットコインとは一線を画します。日本においても中間支援組織ケイスリー株式会社がブロックチェーンのプラットフォーム運営会社である英Aliceと提携を結ぶなど、今後も動きが活発化することが予想されています。

インパクト投資の分野においてもブロックチェーンの導入を考える上で重要なのは「金融取引」に活用場面を限定させないことです。「データ」という面からインパクト投資を見た時に目につくのが、SIBにおけるデータ活用のあり方ではないでしょうか。成果連動型報酬の内容を決定するにはデータが不可欠です。例えば介入が実施された集団と介入が実施されていない集団の医療データを比べることで、介入による医療的なインパクトが定量化され、こうした定量化されたインパクトは更にインパクトを拡大させる為にも必要とされます。

特に日本のSIBでは医療分野での実例が多いため、医療データの管理と運用の問題は常に付きまといます。こうした現状に対する解決の一途としてブ ロックチェーンが活用されうるのではないでしょうか。