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インパクト投資は儲かる?儲からない?

■ シリーズ: ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から ■

社会的ニーズがあるところには成長の可能性がある

「インパクト投資は儲からない」というイメージがあるとしたら、それはなぜでしょうか。一つの要因はその成り立ちにあるかもしれません。もともとインパクト投資はフィランソロピーの流れから生まれ、社会貢献活動を目的として培われてきた歴史があります。財団や富裕層がリターンを強く意識せずに投資しているというイメージです。確かにインパクト投資にもそうした一面がありますが、ここ数年で状況は大きく変わっています。

一口にインパクト投資といっても、その収益率に多様性があります。つまり、儲かるものもあれば、それほど儲からないものもある。実際に社会的インパクト投資に取り組む299組織に聞いたGIIN(Global Impact Investing Network)※1の調査によると、投資家の中でも利益の期待度に差がありました。マーケットレベルのリターンを求めている層が64%、マーケットレートよりもやや低いレベルでも良いと答えた層が20%、元本が返ってくればいいという層が16%。そして、結果としてインパクト投資のパフォーマンスに満足しているかと聞いたところ76%が「期待通り」と回答しています。

出典:2018 GIIN Annual Impact investor Survey

GIINの調査では、過半数の投資家が従来の投資と同じようなリターンを求め、結果においてもある程度の満足を得ているということが分かります。

ESG投資よりハイリターンを求める傾向も

ここ数年、欧米では世界最大級の資産運用会社ブラックロックをはじめ、  アメリカの大手ファンド、TPGキャピタルやKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)といった大手ファンドがインパクト投資に参入しています。大手のファンドがこぞって“儲かる”インパクト投資商品を提供し始めたのです。

こうした流れをキャッチして日本でも野村アセットマネジメントや第一生命などメインストリームの金融機関がインパクト投資に参入しています。近年、ESG投資の取組みを進めてきましたが、その先にあるインパクト投資への取組みをいち早く開始したといった位置付けです。ESG投資と比べて差別化しやすく、投資がどう社会に還元されるのかが分かりやすい。社会貢献だけでなく資産運用にもなるのでESG投資よりハイリターンを求めている印象です。

たとえば野村アセットが扱うインパクト投資信託は、上場しているヘルスケア企業に特化したものです。個人投資家に販売している投資信託ですが、想定以上に売れ行きがよいと聞いています。社会的インパクトがあるということは、そこに社会ニーズがあるということです。だから成長産業になり得るというわけです。

2007年、ロックフェラー財団が提唱したインパクト投資はその後、リーマンショックをきっかけに世界中に広がりました。そして、第2の波が来たのは2015年以降。G8社会的インパクト投資タスクフォースなどが設置され、投資環境が整ったことから海外大手ファンドが相次いで参入し、グローバル  マーケット規模は23兆円(2017年)に達しています。

私が前職でインパクト投資を紹介した2013年当時、金融機関担当者の反応は“半信半疑”でした。面白いけど実現可能性が低いという評価でした。社会貢献なのか、利益を求めるのか、どちらなのかよくわからないという二項対立でしか受け止められませんでした。それが最近は「インパクト投資を扱いたい」という問い合わせが圧倒的に増えています。「海外にはインパクト投資の対象となる企業があるが、日本ではどうなのか」「インパクト投資をやる上でインパクト評価はどうすればいいのか」といった具体的な質問に変わり、インパクト投資の考え方が受け入れられたことを日々、実感しています。先進的なヘルスケアベンチャーや環境によい住宅を扱う不動産事業、再生可能エネルギーなどのインフラ事業などは投資案件の規模も大きく、社会問題を解決しつつ、効率よく回収できる“儲かるインパクト投資”だと見込まれているようです。

地方コミュニティを再生するという利益

一方で、インパクト投資には短期的リターンが少ないものもあります。たとえば、地域社会への投資。持続的な地域社会を作るため、投資家と投資先が共助の関係を構築してコミュニティを再生していくような案件です。こうした中には結果的にそれほど儲からないものもありますが、代わりに地域のコミュニティ再生につながるといった面があり、それを求める地域の投資家にはメリットを享受できるものだと考えています。

インパクト投資には、こうした収益のグラデーションがあり、どちらも違う文脈で伸びています。ソーシャル・ベンチャーがビジネスとして成り立つのは、そこに社会的ニーズがあるからです。だからこそインパクトが生まれるます。今後も起業家がどういう社会的インパクトを創出したいかというビジョンを可視化し、収益とミッションがともに維持拡大できるような経営支援を行っていくのが我々の目指すところです。

※1 GIIN
社会的投資の活性化を目的にロックフェラー財団を中心とした投資家達が創設。社会的投資家のグローバルなネットワーク構築や、ファンドの情報を格納するデータベースなどを運営。インパクト投資に関する情報をリリースしている。