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雑種が起こすミラクル

今回は、ハイブリッド(雑種)の話。

異なる種や属の生物が、交配することによって生まれる子孫、ハイブリッドのすごさを見ていく。

近年、ある研究チームが、砂漠に生息する3種のキツネのゲノムを解析。

砂漠という過酷な環境に、動物がどう適応したのか。ゲノムの変化からそれを知ろうとした。


先に、サハラ砂漠の話をする。

サハラ砂漠は、アフリカ大陸の北東部に広がる砂漠。

昔は今と全く違う光景で、緑に覆われていたという。初期の人類も住んでいた。「アフリカ湿潤期」という時期で、9000年前~6000年前が、ピークだったと考えられている。およそ2万5800年の周期で発生する地球の歳差運動が、地球の自転軸が変化させた。雨の降る地域が、サハラより南にズレた。→砂漠化

最新のサハラはどうかと言うと。地球規模の気温上昇が影響して、実は、降雨量が増加している。緑化傾向にあるのだ。今後、砂漠は減少していくという予想もある。

現在のサハラ砂漠。けっこうみどりみどりしている。

最新の研究結果は、よくよく、これまでの「常識」を覆す。


キツネに話を戻す。

ある種のキツネが、かつて、ユーラシアから北アフリカへと移動した。その頃は、緑もある期間だったため。そこに古くから生息していた他種のキツネと、繁殖したことが確認された。

ゲノムを調べてわかったこと
乾燥環境への適応に関する遺伝子が、異なるキツネ種間で、途中から共有されていた。たとえば、ホルモンが影響して、尿が濃縮→尿の量が減る。このような能力を発揮する遺伝子。

途中からというのがポイントで、こんな感じ↓
米国人Aさん と 米国人Bさん よりも
米国人Bさん と 日本人Cさん の方が似ていた
元はAさんとBさんが似ていたのに
Bさんが日本にきた後からそうなっていた

新たに砂漠に生息しようとした種は、在来種(現地の種)と交配することにより変化し、砂漠で生き残る術を獲得したのだ。

スナギツネがこの地に今もいるのは、緑がある時も砂漠の時も生き残ったから。親が違う国で恋をして生まれた子は、その国で生きやすい子に育った。適応。

異なる種の動物は交配できないというのは、真実ではない。

オスのロバとメスのウマの子どもである「ラバ」は、不妊で、さらなる繁殖はできない。このことは有名だ。しかし、ラバ・ケースは、2つの種が交配した結果の一例にすぎない。

ウマの染色体は64本、ロバの染色体は62本。生まれるラバの染色体は、63本。奇数なので、ラバは、染色体を半分ずつもつ精子細胞と卵細胞を作れない。ここで終了である。

ラバ。かわいい。

 一方、オスのウマとメスのロバの子どもは、「ケッテイ」だ。こちらも繁殖能力はない。

ケッテイ。どっちもかわいい。
 ちょっとグルーミングしたい感じ……

見た目は、概ねラバと似ている。ラバよりやや小型。たてがみや尾がウマに似る。ラバとケッテイの差に関しては、多くの考察がなされている。一説として:ラバとケッテイが受け継ぐ遺伝子は同じだが、父由来か母由来かで、発現に影響を与える遺伝子が存在するからと。母がウマのラバよりも、母がロバのケッテイが小さいのは、母の大きさ=子宮や子宮口の大きさが違うからでは?と思いはするが……。


オスのトラとメスのライオンの子どもである、ライガー。いかにも、人間によって「作られた」感があるが、そうではないらしい。ライガーは、トラとライオンの生息域がアジアで重なっていた時、野生下で誕生したという。

ライガー。かわいすぎる。

他には、ヤギとヒツジ、ホッキョクグマとグリズリーも、交配する。毛の色なんて関係ない恋。


ヒトの話をする。

2008年、アルタイ山脈のデニソワ洞窟から出土した、人骨らしき骨。研究を経て、2010年に「デニソワ人」として特定された。核DNAに、ネアンデルタール人との近親性が見られた。

現生人類(ホモ・サピエンス)と比較。
「徹底比較!これがデニソワ人だ」笑。文言の雰囲気があやしいが、研究者らによるきちんとした出典。

Jason Treat, NG STAFF. SOURCE:
Liran Carmel and others, Cell. 2019.

2018年に、ロシアの洞窟から発見された骨は、また前例のないヒト科動物のものだった。女性の骨であり、デニーと名付けられた。

デニーは、ハイブリッドの第一世代だとわかった。父親がデニソワ人、母親がネアンデルタール人のハイブリッドだ。彼女は、異なる2種族間の子どもだった。

ネアンデルタール人が現在のヨーロッパと中東に定着したのに対し、デニソワ人は東へ進んでアジアまで来た。ネアンデルタール人と近くにいた頃は、ネアンデルタール人と交配した。現生人類の祖先とは、アジアまで来る途中で交配した。このように考えられている。

デニソワ人の痕跡は、アジア系の中にも残っている可能性。しかし、まだまだわからない要素が多い。かつては、多様な種類のヒト族がいたが、残ったのはホモ・サピエンスだけ。その理由もわからないのだから。

ハイブリッド(の特に第一世代)には、健康上の問題があったかもしれない。それでも、子孫を残せた。私たちも、その生き証人かもしれない。


生物の運命は、地理的特徴からも決まる。

ヨーロッパアルプスの湖が汚染され、深海の酸素濃度が低下した時。そこに生息していた種は、水面近くへと移動した。水面近くに生息する種と交配。数百万年前に離れた種と種でも、繁殖不可能なほどは離れていなかった。

実際、全魚種の88%は、1つ以上の別魚種と交雑する可能性をもつという。

Hybridization(ハイブリダイゼーション)をつきつめて考えると、絶滅してしまった種さえ「生き続けている」。※絶滅危惧種は保護すべきだが。


過去のNoteで何度も書いてきたが、ダーウィンは、やはりマスターだ。

「実に単純なものから極めて美しく、極めて素晴らしい生物種が際限なく発展し、尚も発展しつつある」チャールズ・ダーウィン

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。 変化できる者だ」チャールズ・ダーウィン

ダーウィンにもわからないことはあった。
以前、彼が「クジャクにイラついていた話」を書いた。1億年前に突如現れた「開花植物」も謎の存在だった。
美しい花畑も複雑な想いで見ていたか?

ハイブリッドには、たしかに、不妊が多い。染色体の構造的違いから、生存可能な卵子や精子を生産できず。命の “無駄づかい” にならぬよう、多くの種は、それを避けるためのメカニズムをもっている。当然だ。

種別間違いを減らすためにもある、ユニークな歌や求愛ダンス。昆虫は、それぞれに、独特の形状の生殖器をもっていたりする。


もしも、氷がもっと溶けていたなら、ホッキョクグマは移動していたかもしれない。他のクマと大々的に交雑していたら、シロクマはもういなかったかもしれない。グレーやベージュっぽいクマになっていたかも?

世界は常に「何が起こるかわからない」。

「種」という概念は、人間が作り出したもの。便利な概念ではあるが、それで、自然界を完璧にマッピングすることなどできない。常に変化しているからだ。

定義には苦労し、直感的には理解する。
そんなものでいいのだ。
「命」「魂」「人生」「愛」「幸福」……

“A hole new world. That's where we'll be.”

生きる世界の違う人達との関わりや、多国籍な繋がりには、たしかにリスクがあるだろう。
それでも。
思わぬ力が新しく生まれるかもしれない。
一歩踏み出してみなければわからない。