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世界でいちばん透きとおった物語を読んだ日

ニーディーガールオーバードーズの企画シナリオのにゃるらさんをTwitterでフォローして数日、あれは年始のことだ。

「紙の本でしかできない仕掛けにビビる!?」と気合い入れながら読み終わったら、紙の本でしかできない仕掛けにビビってしまった

にゃるら(@nyalra)/X

この呟きを見た私はこのツイートをリツイートしながら、今年最初に買う文庫は『世界でいちばん透きとおった物語』だなと心に決めた。

育児をしていると、心底紙の本と育児は相性が悪いと感じる。子供を寝かしつけしたあとに本を読もうと思っても、部屋は暗すぎるし親が部屋を出れば気配で子供が起きてしまう。
赤ちゃんを抱っこしながら読もうとすればよだれでべたべたにされるし、本を読むには子供の昼寝は短すぎる。
集中して読みたいのに、何度も中断するうちに興味がなくなることもある。いつか観たい映画のように「今じゃないな」と心の奥に仕舞ってしまう。

そういう理由で、文庫もコミックも最近は電子書籍で揃えている。寝かしつけ後に寝っ転がったまま読めて育児で細切れに中断されても、スマホで読めるので再開しやすい。

それでも本当は紙の本のほうがいいのだ。理由を挙げれば絶対に電子書籍がいいのだけれど、そんなのどうでもよくなるぐらい紙の本が好きだ。
だからなのか、紙ならではの仕掛けと聞いて、自分でもびっくりするぐらい心が踊った。

満を持して今日、かねてより読みたかった「世界でいちばん透きとおった物語」を読もうと思いたった。空は晴れていて、絶好の散歩日和。日光浴がてら本屋に行くことにした。
本屋で平置きされた、何度かTwitterで目にした表紙をすぐに見つけてレジに通し、近くのスタバで本を開いた。
作者の杉井光さんは、神様のメモ帳。の作家さんだ。当時リアルタイムで新刊を追いかけていたこともあって、思ってたよりすんなりと本の世界に入れた。

赤ちゃんが意外とすぐ起きたので、50頁程読んだところでスタバを退店する羽目になったが、帰り道で公園のベンチに座り、続きを読んだ。

以下ネタバレの為、世界でいちばん透きとおった物語を読んでいない方は読まないで欲しい。
ぜひ自分で体験してほしいと思う。

どうも、ミステリがテーマらしい…というのはわかった。そういえば神様のメモ帳。もこういう感じだったっけ。神メモの主人公がヒロインに顎で使われていたシーンを思い出す。
世界でいちばん透きとおった物語では、感じの悪い異母兄が神メモのヒロインと同じ立ち位置だ。

神メモより人の書き方が厚みを増した気がする。異母兄はあまり好かれそうにないキャラクターだが、私は1番好きだ。両親にじゅうぶんに愛されなかった彼が、金を理由に父の遺稿を探したり、母親と対話しようとしたり、異母弟に強く当たりバツが悪そうにしたり…。特に両親を亡くしたと聞いて急に優しくなるところに人間らしさを感じた。立場が近いようで全く違う彼がいることで主人公が更に引き立ったと思う。

ある程度読んで、違和感。
なんだか、紙がいつもより白く見えるような…。いや、違うな。なんだろう。そのまま読み進める。
宮内が殺そうとしたのは、主人公のことだとすぐ気付いた。バラバラに…で堕胎だと確信した。が、紙ならではの仕掛けにはなかなか気付けない。
12章に入って、存在感だけはある霧子が語りだしたシーン。そこまで無意味だった主人公の目の設定が、ついに生かされた。

あんなに関係を持たないようにしてた主人公の母と宮内が、実は連絡をとっていた。主人公のことで。
なんだか申し訳ないような気持ちで生きていた主人公が、父にも母にも愛されていたことに気付いたシーンだと私は思う。
会ったことのない父親、作品も触ったことがない。なんなら父親の作品を避けていた主人公だったが、遺稿を探す中で人となりがわかり、感情をぶつけられるようになった。

不器用な人間しか出てこない、全てが今更だ。
だけど、遺稿を探さなきゃよかったなんて思う人はひとりもいない。なんとか全てが丸く収まる。仕掛けを抜きにしても、読んで良かったと思える話だった。好き嫌いはあるかもしれないが、私は好きだった。神メモを読んでいてよかった。大人になってからはじめて杉井光の作品を読んだ人は、主人公の幼さに感情移入できないかもしれない。

私は200頁を過ぎてやっと仕掛けに気付き、声を上げた。うわあ。
そして違和感に納得する。なんだか紙が白いなと感じたのは…。
句読点が多く、なんだか読みにくいと感じた部分にも納得がいった。私ならここに句読点打たないと何度思ったことか。

ストーリーと本がリンクしすぎて、どこからが創作でどこからが現実なのか、少し混乱してしまった。これもきっと仕掛けのひとつなんだと思う。
最後の仕掛けも、わかっていたのに思わず唸った。何度も同じ頁をめくる。
難しいルールの中でのストーリー作りだったからか、杉井光さんの作品にしてはなんとなく読みにくさはあるものの、ストーリーも仕掛けもすごく好きだった。流行るのも頷ける。

久しぶりの紙の本での読書で感動し、積み本を数冊取り出した。

理由ははっきりとは言えないけれど、やっぱり紙の本が好きだ。
世界でいちばん透きとおった物語のおかげで、また一段と紙の本を愛する気持ちが深まった。
すばらしい読書体験をくれた作者に、この言葉を送りたい。
「     」

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