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CHIMERA ~嵌合体~ 第一章/第二話 『花』


聴取音声データ 5


「まもなくして、エヴァさんが出産しました」

「え?!・・・まさか・・・・・・」

「あ、いえ、普通の人間の子ですよ。生まれてすぐの頃に一度だけ会わせていただいて、詳細も聞きましたから間違いなさそうです」

「あ・・・そう、よかったぁ」

「その子の父親は、精子バンクから優秀な遺伝子をかけ合わせた『超ヒューマン』っていう名目みたいです」

「超・・・ヒューマンねぇ」

「試験的なもののようでした。それでいいのかとエヴァさんに一度聞いてみましたが、なんだか満足しているようでした。結婚とかは元々する気もないし興味もないと言っていましたし。あ、だから出産っていうか、”試験管ベイビー"なんですけど・・・異種キメラ化は一切していないと断言はしていました」

「あの子らしいわね。でも、そのエヴァの子の情報もこっちには来ていないのだけど・・・はぁ、どうせ、上の男どもは重要視していないのね、多分。普通の人の子には興味すらないってわけね」

「こんな商売しているぐらいですからね」

「そうね。私たちも含めて・・・大野教授のことだけを責められないわね」

「・・・・・・」

「その、エヴァの子はいまどうしてるのかしら」

「事件のあと、他の方から聞きましたが無事に保護されてたそうです」

「そう、よかったわね。あ、その他生存者1名ってのはこの子のことね」

「・・・みたいですね」

「エヴァ・・・あの子も変な子だったわね」

「・・・まさかエヴァさん、わが子も実験のなにかに使用するつもりだったんじゃあ・・・・・・」

「・・・・・・」



研究報告書No.01514 (未提出)


全職員へ通達。
実験体のエコー、精密検査の結果

雌 雄 同 体

実験体の監視員、教育班、関係者、全スタッフは十分に注意せよ。
イカやタコのような軟体動物にみられる”交接腕”が別にあり。尻尾の先端が陰茎として、精包を異性の子宮内部、卵巣へと受精させる模様。その方法ならびに体への受精方法はまだ不明。

詳細などはまだ調査中。

念のため全職員、特に女性職員は実験体への、覚醒下での接触を禁ずる。
同時に過剰な麻酔等の投与も配慮されたし。検査頻度も見直す。


研究員 2 研究報告書No.00787 (未提出)


大野 研究長 宛て
死亡済みの実験体、解剖結果報告

・消化器系統の変異
・繁殖機能の変異
・経 口 摂 取 繁 殖

トリッパ tripe 反芻はんすうする偶蹄類ぐうているい、牛のように第一胃ルーメン摂食用の消化器とは別に、子宮内腔へとつながる第二胃器官があり。
消化する袋状ではなく、腸のような栄養や水分を吸収するように精子を吸収したあとに反芻し第一胃へと送り返される。もしくは吐き出される。

ターゲットの捕食、ならびにオス個体の”精巣を捕食”し生命活動としてのエネルギー補給と繁殖の両方を兼ねていた可能性高。

E-1の生体も懸念。精密検査も急がれたし。



聴取音声データ 6


「・・・あなた、このことは知っていたの?」

研究報告書No.01514は全職員への通達で知らされていましたので。イレギュラーと、そしてE-1チュパカブラの詳細までは聞いていませんでした」

「エヴァは知っていたのかしら・・・・・・」

「どうでしょう、分かりません。出産後はわが子とカブラの世話と、偽装報告書の作成、大野さんの助手で忙しかったと思いますので。各々がイヴ、アルビー、カブラの担当をしてからは会話はおろか、なかなかお目に見かけたことすらありませんでしたから」

「あなたもアルバート・・・アルビーの世話をしながらで多忙だったでしょうしね」

「いえ、この最終的な実験体はどの子も会話の発声はさすがに声帯の関係上、発音はできませんが、イレギュラー達Bモスマン以外はこちらの声、意図はなんとなく理解している感じでした。なのでいままでの、過去の実験体にくらべればまだすこし意思疎通ができて楽な部分が多かったですよ」

「へぇ、そうなの。どの程度か教えてほしいわね」

「えーっと・・・人間でいうところの”しゃべれない5歳児”のその前後、という感覚です。個体差はありますが。意思表示もジェスチャー、仕草でうったえてきたり、人の感情、敵意や好意といった範囲は理解していました。カブラがどうだったかは・・・わたしには全くわかりませんが」

「一応、研究のほうは順調だったわけね。皮肉だわ」

「はい・・・・・・」



研究員 3 研究報告書No.00795


C実験体、C-1 報告
共同実験は良好。母子ともに異常なし。
観測を継続。
C-1が成熟期をむかえ次第、次の工程へ実行予定。



聴取音声データ 6-1


「トラビス親子は、実際の報告書どおりなの?」

「そう、ですね。DアルマスとCブルーノ、トラビス親子は正式な報告分としていまして、わたしたちとはまた別チームが主に見ていましたので私も報告書とチームリーダーからの話しか聞いていませんが・・・聞いた話やこの報告書、定期チェックのときに見た状況とも、これといった違いはないと見ていいと思います。ちなみにブルーノとモスマンの2体は暴走事件からは、おもに警備、監視隊がみていました」

「・・・さて、ではこの時点でまた整理させてね。BモスマンC-1ブルーノC-2トラビスとその子供Dアルマス、エヴァのEカブラ、大野教授のイヴ、あなたのアルビー、合計8体ね」

「はい」

「トラビスの子に名前はないの?」

「ありますよ、オリバーです」

「オリバー・・・ねぇ・・・・・・」



研究員 3 経緯確認メール

試作品【スティモシーバー】検討要

CD研究チームグループ
<ーーーーCDteam@yerkes.centre.co.jp>
to 〇〇 〇〇開発チーム
ーーーーdevelopmentteam@yerkes.centre.co.jp▾

D、D-1実験結果を確認。
この失敗をふまえ、C-2C’母子の懸念点を考慮、確認求む。

必要であればチップの移植を許可いたします。

開発段階なため※未完成スティモシーバーではありますが、前回の脱走事件も考慮し調教用追跡用としてのチップを優先という開発命令を実行し、完成しております。

全実験体への移植を検討しご回答お願いします。

※スティモシーバー(Stimoceiver)とは脳埋込チップとも呼ばれ、脳に電極を埋め込み微弱な電流を流すことで脳の活動を制御することを目的とした脳に埋め込む装置である。

※以下、転送



▾宛先
大野 明<akira_ohno@yerkes.centre.co.jp>

---------- Forwarded message ---------
From: <ーーーーdevelopmentteam@yerkes.centre.co.jp>
Date:○○○○年〇月〇日 11:46
Subject: 試作品【スティモシーバー】検討要
To:CD研究チームグループ<ーーーーCDteam@yerkes.centre.co.jp>

お疲れ様です、〇〇です。

開発チームから脳埋込マイクロチップの件、転送いたしますので確認お願いします。

遠隔操作やマインドコントロールなどの機能はまだ搭載できていないそうです。
GPSでの追跡、神経系への微粒な電気ショックが可能になり緊急時の制御などにも活用できます。

GPSは衛星の感知と同等。
電気ショックはコントロール制御室からでは衛星を経由し、電波の感度次第で遠隔可能。大幅にGPSのズレが生じている場合は無反応。

専用のリモコンなら半径15mの範囲に対象がいた場合に反応。ただし個別指定は不可能。半径15mの範囲内の対象全てにショックを起こします。

C群とDへの移植の有無、回答お願いします。



聴取音声データ 7


「 試作品ではあるけど、このスティモシーバーは全部の実験体に移植したのよね?」

「・・・あ・・・いえ、アルビー、イヴ、カブラの3体は移植をしていません」

「なぜ?」

「・・・大野さんいわく、まだ成体していないのと”調教”ではなく”教育”の成果も見たい、という理由でした」

「ふぅ・・・まるで”模範的”な回答ね」

「え?」

「あ、いえ。これも、全実験体へ移植していれば事態はまた変わっていたでしょうね」

「・・・・・・」

「・・・まぁ、結果的にはモスマンがあんなことになるなんて誰もが予測不可能だったわけだし、いまに語るのはすべて結果論ね」

「多様な遺伝子を組み合わせすぎたんです。オリバーやカブラのように、もはや通常の繁殖ではどの遺伝子、染色体が選ばれて生まれてくるか誰にも予測できなくなってきています」

「・・・嫌な予感がするわね・・・・・・」

「え?」

「・・・・・・」



監視カメラデータ 1 


「おい、あれはなんだ?」
※研究員①が他スタッフ二名へカメラ画面を指差し確認を促す

「なんだ?ただの排便じゃないのか?」

「いや、なんか白いだろ。”卵”みたいじゃないか?」

「え?!」
「ちょっと、行くぞ!」
※三名が実験体の元へ走り出す

「ほ、本当だ!産卵?!している!!」

「なぜだ!だれも接触していなかったぞ!」

「は、は、早く、大野教授を!」
※一人の研究員が大野教授を呼びに走る。二人は茫然と実験体の産卵を眺めている


※大野教授が入室



「・・・おぉ、本当だ!」
※大野教授が嬉しそうに反応する
「な、なぜだ、おい、誰かモスマンに近づいたか?!」

「い、いえ、決して誰も・・・私たちも、普段はこの部屋にすら入りません」

「では、な、なぜ”産卵”しているんだ!」
※全員混乱している様子

「・・・おい、麻酔銃の準備と分析班を呼ぶんだ!」

「は、はい!」
※三名とも退出する。大野教授はふりかえり実験体を見つめながら言った

「お、おい、モスマン・・・お前、まさか・・・・・・」


大野教授 録画日記データ 5

◉REC

モスマンのやつ・・・まさか※”単為生殖”するとは・・・・・・
生命力、繁殖力が凄まじい!

※単為生殖
働きアリや兵士蜂のように、繁殖目的とは別に生成する子を産むこと

”卵”を調べた
卵のような、”繭”のような
幼体から成体へと変態する過程を省略してやがる・・・・・・

母体内で幼体期を迎えさせて出産と同時に蚕化
発見が産卵直後なのかどうかがわからないな・・・・・・

何個かすでに”孵化”していた

いまは警備員と捜索隊にて研究所内を探索させているが
回収できた卵の中身はすでに成体状態だった。アポトーシス(細胞の自然死)しないのか・・・・・・

監視カメラの解析が必要だな



聴取音声データ 7-1


「モスマンは合計、何体『単為生殖』したのかわかる?」

「えっと、たしか、けっきょく、2回”産卵”していたそうで、1回目はおそらくこの数日前に3個、発見時に3個の計6個の卵を産みました」

「1回目の3体が孵化していて、今回の騒動の”きっかけ”を作ったのね」

「はい」

「このモスマンは最悪ね・・・勝手に精包、種を植え付けにくるし、性交できなければ自分で天然クローンを産みおとす。まるで”分裂”だわ」

「もう、ここまでくるとどんな遺伝子をキメラしたのか、なんでもあり得てきてしまいますね・・・・・・」

「イレギュラーの”捕食生殖”もおどろいたけど・・・今度は”単為生殖”とはね」

「そのあと、モスマンは接触も孤立も危険だということで、会議にて焼却処分が決定していました」

「そりゃそうよね。でも・・・それも一足遅かったけどね」

「そうですね。孵化していた個体の捜索と回収分の分析に注力しすぎだったと思います・・・・・・」


監視カメラデータ 2


※探索2日目から記載。警備員だけでは装備が不十分なため、軍に探索隊の編成を依頼

◉REC

「捜索対象の外見は|obj《オブジェクト》(実験体)Bと同じで、そのミニチュア版だ。大きさは猫~中型犬相当と予想される。人間の捜索とはわけがちがうぞ!」

「許可はおりている。発見次第、焼却処分とする」

「チームredレッドは5名体制、うち2名は研究所外部をドローンにて調べろ。3名は換気ダクト外部から中へのaルート。チームblueブルーは内部からダクト外部へbルート。チームyellowイエローは俺と研究所内部を上層階へと、すみなく捜索する。チームgreenグリーンは地下から下水にかけて調べよ!」

「3人1組、4チームで捜索する」

「GO!」


※警備員および軍の捜索隊、合計16名が隊長の指示、号令にて散らばる。警備員の配備は研究所内部の構造とシステムの案内のため配備されている



監視カメラデータ 3 チームblue

◉REC

「おい、ダクト細部まで調べないとだめだぞ」

「どの程度の隙間で通れるんだよ。本当に猫並みだと空調ダクトや廃棄物処理経由で、もう研究所外部もありえるぜ」

「とにかく探すんだ。3体見つけりゃ俺らは帰れる」

「ヒートシーカー(赤外線熱探知機)はだれが持ってるんだ?」

「そのゴーグルで切り替えるんだよ」

「マジで・・・こりゃ最新だなぁ。これNVG(暗視ゴーグル)だけじゃなくなったのかよ」

「objの糞を見つけたら教えろ。そこから追うぞ」



監視カメラデータ 4 チームgreen


「・・・気をつけろよ、objイレギュラー体に襲われた奴はみんな”またぐら”ごと玉を食われてたんだってよ」

「じゃあ、おまえは安心だな」

「ハハハ」「へへへ」

「子宮に”種”も植え付けるらしいぞ」

「おいおい、”両刀”かよ、最高な生物だな。うらやましいぜ」

「ああ、じゃあ全員アウトだな」

「おなえなら”両方とも”welcomeだろ」

「ざけんな」

「まぁ・・・どっちも勘弁だぜ」

「ああ、さっさと見つけて安眠してぇ」

「寝てる間に、ガブッてのは、エヴァに食われたいねぇ」

「俺は、日本人がいいな」

「浅倉主任のことか?」

「まぁ、イケなくはないな」

「ハッ!教授に解剖されてお前もobjの仲間入りだぜ」

「エヴァも同じことだろ?」

「フン、どうせ教授は専用objと"お楽しみ"の毎日だろうぜ」

「そういえば、警備中、夜中も教授の部屋の前を巡回するとき、やけに騒がしいことがあるな・・・・・・」

「おいおい、マジかよ」

「性処理用生物か、グロいぜ」

「人口パーツの培養もしているらしいからな」

「ハッ!天然TENGAの開発研究所かよ、ここは」

「エド・ゲイン"博士"の完成だな」

「誰だ?それ」

「知らねえの?有名なネクロフィリアさ。墓地から死体を掘りおこしてパーツや皮を剝ぎ、乳房や女性器を自身に装着して遊んでいたサイコ野郎さ」

「げぇ」

「実在した人物さ。昔にな」

「おいおいやめろ、最初のがまだかわいく思えてきた」

「・・・ん?おい見ろよ」
※隊員①が銃口で先を指す

「やべぇぞ、ハッチとマンホールも開いているな・・・・・・」

「・・・これ、なにか動物の糞だ」

「でけぇネズミのかもな」

「隊長に無線で知らせろ。俺たちは急いで下に降りるぞ」



監視カメラデータ 5 チームred

◉REC

「ドローン、充電大丈夫だろうな」

「もちろんさ」

「過充電していることもあり得るんだからな」

「チェック済みだって・・・・・・」

「それぞれ1㎞の範囲を調べよう。お前は研究所の前部から右へ、お前は背部から左へ」
※ドローンの準備をしている

「充電がもつならそれぞれ研究所を1周し、肉眼でも周囲を調べながら巡回してくれ。お互いの見逃しをカバーするようにな」

「ラジャー」

「・・・よし、飛ばせ」
※ドローンが左右へと旋回する

「ソーラーパネル搭載のドローンはどうした?」

「そいつはデカいし重くてスピードが乗らないっすよ。急ぎのミッションでは向かないのでは?」

「・・・いや、前後左右の捜索が完了したら、1名は再度、銃火器を装備して研究所周囲を巡回し、もう1名は屋上からそのソーラードローンで、巡回するやつのバックアップをする体制で続行しておいてくれ」

「ほぉ、了解」

「・・・よし、では俺らはダクトから内部へ行く。デカい外部ダクト出口は3か所。屋上に2か所、1階に1か所。それぞれ、幸運を祈るGood luck.



隊員ヘッドセットカメラデータ 1 チームgreen

※下水の監視カメラ(固定)はコーナーのみ設置のため、ヘッドセットに搭載されたカメラをONにしていた隊員のみのデータ映像

◉REC

「NVGを付けろ」
NVG(暗視装置)

「・・・ネズミの死骸が・・・左側通路に点々としているな。こっちか」
※水路の両サイドにいくつものネズミなどの死骸が点在している

「ネズミを食っているのか?」

「んー・・・食われている形跡のやつと、そうじゃないのといるな」

「・・・・・・おい、この先は行き止まりだ」
※先には鉄格子と金網で閉鎖されていて先には進めない

「いたか?」

「・・・いや、見なかった」

「あいつら泳げたりするのか?水路の中だと絶望的だぜ」

「この金網の隙間は通れんはずだ」

「反対側か?」
※鉄格子の先、反対側、水中と分担してそれぞれ警戒している

「・・・うわっ!」
※画面は真っ暗でなにも見えなくなる



監視カメラデータ 6 チームyellow

◉REC

「1階フロア、クリア。2階へ行くぞ」
※階段を継続躍進で駆け上がる

「きゃあ!」
※中階段で女性研究員とおもわれる人物と遭遇

「おい!何してんだ!いまは緊急警報発令中だぞ!各自室で待機だ!」

「ご、ごめんなさい、大事な研究資料が・・・・・・」
「関係ない!戻れ!」

「おい!こいつを部屋まで連れていけ!」

「了解・・・こい」
※隊員が1名、研究員の腕をつかみ強引に引っ張りながら立ち去る

「まったく・・・あのブロンド女め、objに種でも植え付けられちまえ」

「一職員には詳細まで下ろしてないんだろ。ただの待機命令だけだろうしな」

「・・・各職員の室内に”やつ”がいた場合は、その命で確保しようってこったな」

「・・・・・・」


※2階 機械室へ


【・・・隊長、Objective発見しました。2時の方向です】
※ハンドサインで会話

【・・・obj確認。左右へ分かれろ】
※隊長は前方、2名が左右へ静かに分かれ実験体へと近づく

ガガッ・・・《QTC・・・隊長・・・下水へと逃げたオブジェクトがいそうです・・・over》
※無線から音が漏れると同時に実験体が室内換気口へ
「!!」
「!!」
「!!」
「!!」
「クソッ!逃げやがった!」

「こっちは追うだけだ!お前ら2名はあとを追え!おまえは俺とこい!」
※隊長と、研究員を送りとどけ戻ってきた隊員1名は地下のチームgreenのもとへ行く


※残った2名の映像をそのまま続ける

◉REC

「おい、換気口からとなりの部屋へ行ったぞ」

「コンピューター室だ」


※隣室のコンピューター制御室へ


「・・・・・・」
「・・・・・・」


「いないな・・・どこだ?」

「気をつけろ、いきなり飛ぶ出すかもしれんぞ」

「上も警戒しろよ、モモンガのように滑空できそうな””があるからな」
※室内を入口から左右に分かれ順に捜索する


「・・・ぐわっ!」
※実験体が警備員の背中に飛びついている
「くそっ!こいつ!」

「おい、じっとしてろ!」
※なんとか背中から実験体をひっぺ剥がす

「くそ!あの野郎!どこだ!?」
「モニターの裏だ!」

「・・・いた!この野郎!」
ガオンッ!ガオンッ!
「バカ!撃つな!!」
ガオンッ!
・・・コンッコンコン・・・(薬きょうの音)
※Combat Shot Gun (コンバット・ショットガン)3発放つ
 Mossberg 590 Persuader/Cruiser 6-Shot



バチバチッ・・・ボウッ・・・バンッ!
※コントロール制御するコンピューターが破壊されショートし炎上する
「おい!そこの消化器よこせ!」

ボシュウゥゥゥゥゥゥ・・・・・・
※鎮火する。その後すべてが停電し非常灯が点灯

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「・・・おい、ヤベぇぞ」

ザザ・・・ガッ・・・《TTT・・おい、どうした、何があった・・・over》
※無線が鳴り響く
ガッ・・・《XXX・・・停電だ・・・ヤバいぞ自動ロックも解除されるぞ》
※二人は茫然とだまったまま無線を聴いている

《Mayday、Mayday、何があった?》
ガッ・・・《XXX・・・おい、何があった!全員、現状の報告をしろ!over》
※隊長の声で一人の警備員が怯えながら無線に応答する

「May・・・day、えぇっと・・・実験体obj1体、倒しました。が、その戦闘においてコンピューターが破損。コントロール制御と・・・思われます・・・over」
ガッ!《・・・なにぃ⁈本当か⁈》

「・・・は、はい、コントロール制御していたシステムが破損。電圧を調整していた回路が制御不能となりショートを起こし停電した!と思われます!SOS」
※徐々に事態の深刻さを実感するように声が大きくなる

《非常用電源が作動するはずだ!》

「だめだ!制御回路がやられたんだぞ!直ぐにまた落ちる!」

ガッ!《OSO・・・コンピューターの破壊状況をしらべとけ!チームred!機械に詳しいやつは至急2階へいき修理と復旧!残りのred、blueは俺と1階にいるほかobjの部屋を見に行く。greenは地下の主電源ブレーカへ!急げ・・・・・・》


※ここで監視カメラの電源も落ちる。以下、一部隊員のヘッドセット搭載カメラの起動をONにしていた映像から抜粋


警備員ヘッドセットカメラデータ 2 チームred 警備隊長

◉REC

「おい、聞いたか」

ガッ・・・《おお、急ごう》

ガッ・・ザッ・・・《おい、外の俺たちドローン隊が修理に行ったほうが早い。途中で基地の修理キットを拾って行けるしな・・・over》

「ああ・・・そうしてくれ・・・いや、1名でいい。外周を周回している方はそのまま待機しててくれ。万が一だが、外部へ逃げようとするobjがいたらぶっ放せ。ドローンは中止、キットを拾って機械室でランデブーしよう。俺もこのダクト経由でなら誰よりも早く修理に行ける。それにこの中で配線や電子基板に詳しいのは俺だろう」

ガッ・・・《OK》

「ほかは近くの脱出ポイントでダクトから抜けだし、急いで隊長と合流してくれ・・・out」



隊員ヘッドセットカメラデータ 3 チームblue

◉REC

「俺たちはこのまま内部ダクトから各実験体の檻がある部屋へ進もう。俺は・・・Cのブルーノが近い」

ガッ・・・《俺はDアルマスだな》

ガッ・・・《私は・・・じゃあ、Bモスマンね》

「無茶はするなよ。チームredと隊長をできるだけ待つんだ。時間稼ぎの足止めと確保に専念しよう」



隊員ヘッドセットカメラデータ 4 隊長+チームyellow

◉REC

※下水へ降りるハシゴの上部

「・・・おいgreen隊!応答しろ!いるか!」

「・・・・・・」
「どうしますか。隊長」

「・・・よし、そのままお前はgreenの状況を確認、そして”判断”してくれ。最悪の場合はこのハッチを閉めてチームgreenの代わりに主電源ブレーカーへ向かい指示を待て。私はobj"親玉たち"を確認しにいく」

「分かりました!」

「・・・あと、軍事本部に援軍要請と研究所包囲の指示も出しててくれ。最悪の事態が考えられる・・・・・・」

「わ・・・わかりました」

「いけ!」
※同伴していたyellow隊員は下水へ、隊長は地下から1階へ戻る



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
※隊長の息づかいと画面が大きく上下に揺れる場面が続く



「隊長!」
※階段を上がってすぐ、1階の左側通路から女性の声で呼ばれ振り向きひきかえす

「・・・ミシェル!どうだった?!」

「はい、私がいた内部ダクトから近いモスマンの隔離室へ出たのですが、すでにobj実験体はいませんでした」

「・・・すでに脱出したのか?!」

「いえ、デスクに置かれていた資料によれば、モスマンは今回の件で2階研究室へ移送されています」

「なんだと?!」

「檻の錠は施錠されたままの状態で、中は空でした。なのですぐに別実験体の方へと行くところです」

「よし・・・とりあえず俺が行く。お前は無線でredと2階で残ったyellowの部隊に伝えてくれ。『2階でモスマンが解放されている』可能性がある。気をつけろと」

「分かりました!」


※また息づかいと、場面は上下に揺れる


グ・グ・グ・グ・・・・・・
※隊長が重そうな電子ロックパネルのついた扉を開けると、すぐに銃声が鳴り響く
・・・ダダダダダダダダッ!
※コンパクトM4の機銃音のあとに爆音と爆風が隊長を襲う
ボフンッ!!
※グレネード弾の爆発音

「おい!」

「このやろーっ!」
ダダダダダダッ!
カチッカチッカチッ・・・ガシャン!
※弾切れで機銃を投げ捨てる

「うおーーー!」
ボシュ!ボシュ!ボシュ!
※発煙弾を3発放ち、コンバットナイフを持った隊員が煙の中へ消える

「おおい!待て!」
※隊長は呼びかけながら煙の中へ、隊員と実験体の確認に入る

「うおっ!」「ぐわっ!」
「ガァァァァァァァ!」
※隊長は声と音のする方へとアサルトライフルを構えながら進む

「うあぁぁぁぁあ!」
※苦痛の悲鳴が聞こえる

「!!やめろぉぉぉぉぉ!」
ドゥンッ!
※二体の影を発見する。大きな影がもう一体の片腕を持ち上げて頭部を引きちぎろうとしていた。隊長は直ぐに大きな影の方を打ち抜くがすぐに影は煙の中へ消え、もう一体は床へ倒れこんだ


「おい!大丈夫か?!」

「うう・・・隊長、殺りましたかね・・・・・・」
※一命は取りとめたが、左腕は肘からいまにも千切れそうになっている

「いや、手ごたえはあったが・・逃げやがった。致命傷ではない。すぐに追うぞ!立てるか?!」

「は・・・い、大丈夫です・・・・・・」

「俺の肩を持て!」
※そして扉の方へとゆっくりと進む


「隊長!」
※ミシェル隊員が扉左側から現れる

「シェリー!こいつをたのむ!」
※負傷した隊員をミシェルが受け止め、隊長はD実験体の後を追おうとする

「待ってください!隊長!先ほど、ブルーノが逃げ出しました!」

「なにぃ!」

「直ぐにスチュが追っていますが・・・聞いて下さい。私はブルーノと相対したのですが、なぜだか襲われなかったのです」

「!!なぜだ?!」

「わかりません、止めようと銃を構えたのですが、発砲前に銃を奪われ、そのまますぐ横の階段を上っていきました。その後、あとを追ってきたスチュも現れ、そのままブルーノを追いかけていきました。私は、2階への無線連絡も終わりこちらで爆発音が聞こえたのでこちらにきました。その際にはオブジェクト・・・ここはアルマスの部屋ですね。アルマスとはすれ違っていません!」

「・・・わかった。了解だ。そいつを頼む!」

「気をつけて!!」
※隊長はへ、自分達とミシェルがきた反対方向へと走り出す



隊員ヘッドセットカメラデータ 3-1 チームblue

◉REC

ガン!ガン!ガ!・・・ガシャン!
※ダクトの鉄格子を蹴りやぶり、落ちる

「はぁ、はぁ、ど、どこだ?」
※ダクトから顔、ゴーグルを出し周囲を検察する

「・・・ほっ!」
※ダクトから出る

※檻の内部が映る。錠は開けられていて扉は解放状態のまま
「・・・くそっ」

※中にはいないことを確認し、振りかえり周囲を警戒している

「・・・・・・あ!」
※机の下の隠れているC-1実験体を発見

「・・・よ、よぉ、ブルーノ、いい子だな。おいで、危ないから檻へ戻ろう。アルマスが来ちゃうよ・・・・・・」
※C-1がゆっくりと机下から這い出てくる。その目と表情は警戒の眼差しを隠せていない

「よし、いい子だ」
※しかし実験体は部屋の出口、扉へ向かう

「待て!・・・待て、外は危ない。お前とおなじで、みんな出てしまってるんだ。アルマスも、モスマンもだ。お前たちを助けにきたんだ、おいで・・・・・・」
※実験体に手を差し出す

ガチャ・・・バン!
「おい!!」
※実験体は隊員を一瞥いちべつしてから勢いよく外へ飛び出した。隊員は後を追う



警備員ヘッドセットカメラデータ 2-1 チームred 警備隊長


◉REC

「はぁ、はぁ、みんな、出たか!」

ガッ・・・ザザッ・・・《俺は、いま出口に着いたとこだ》

ガッ・・・《私は・・・出ました、ここは・・・地下の焼却室です》

「俺は3階の食堂だ。2階のコントロール室へ直行する、2人は1階、隊長の元へ加勢に行ってくれ!」

ガッ・・・《ラジャ》《ラジャー》
※食堂から廊下へ出て、階段のある方向へ走り出す

ガァン!ガランガランガラ・・・・・・
※前方の廊下上部から鉄格子が勢いよく落ちる。チームred警備隊長が上部を向くとダクトから顔を出し見下ろす隊員が見え、右手は親指を立てサムズアップのサインを送ってくる

「後で落ち合おう!」
※サムズアップのサインを返しながら廊下を走り抜け階段を駆け下りる


※2階


「スチュワートさん!」
※1階から駆け上がってくるC-1実験体を追う隊員と遭遇し声をかける

「おお!俺はブルーノを追っている!」

「気を付けて!」

「ああ!・・・・・・」
※2階にて隊員は手を挙げながら真っすぐ廊下を進む。見送ったあとコントロール室へ


バァン!
「どこだ!」
※扉を開け放つと同時に言い放つ

「ああ!斎藤さん!こっちです!」
※声の方へと急ぐ

「配線は把握したか!」

「はい!」

「見せてみろ。お前はあっちの機器の役割の把握と、パネルを開けてパーツを外しておいてくれ。マザボやコンパネがダメな場合、そっちのを併用した方が早い」

「了解しました!」

※ライトを口に咥え、体を反転させながら基板を確認しに機械内部コンジットへ入る


隊員ヘッドセットカメラデータ 4-1 隊長

◉REC

※画面がヒートシーカー(赤外線熱探知機)に切りかわり周囲を見わたす。反応オブジェクトなし。通常画面へ戻り廊下を進む

「ここは・・・トラビスとオリバーか」
※D実験体室の向かいにあるC-2実験体の部屋の扉を少し開け、室内へ入らずに再度ヒートシーカーに切りかえて確認。二体の反応が部屋の片隅でうずくまっている

「前回のときと同じ反応だな・・・・・・」
※熱源=生命反応が二体しかいないのを確認すると扉をそっと閉める

「・・・誰か、トラビスの部屋にきて錠をかけてくれ。俺は引き続きアルマスを追う・・・out」
※隊長が無線連絡のあと、ポケットからスティモシーバーのリモコンスイッチを取り出す手元が映る

「倉庫か・・・・・・」
※リモコンを確認したあと、奥の倉庫へと移動する



警備員ヘッドセットカメラデータ 2-2 チームred 警備隊長
コントロール室

◉REC

・・・ガガッ・・・《・・・誰か、トラビスの部屋にきて錠をかけてくれ。俺は引き続きアルマスを追う・・out》


「・・・・・・俺、トラビスの錠、閉めに行くわ」
※画面はコンジットから這い出て、発言をした隊員の方を向く
「ここにいても、機械に詳しいわけでもねぇし、役に立んしな」
※機械を見ていない方の隊員が佇みながら言う

「・・・そうか・・・わかった。気をつけろよ」

「・・・ああ」

「予備の錠はこの2階の奥、警備員控室の鍵付き引き出しの中にいくつかある。それを使ってくれ」
※警備隊長である自分の鍵束を託す

「了解」

「あと2階の研究室にはモスマンが麻酔で寝かされているはずだ。だが、拘束されているし起こしさえしなければ大丈夫だろう。でも、一応は”もう”発砲は控えろよ」
※皮肉を交えて放つ言葉に隊員は苦笑いでかえす

「あ・・・ああ、復旧のほう、よろしく頼むぜ」

「わかった。これからはあんまり警備員をバカにすんなよ。脳筋軍人さんよ」

「フンッ・・・objをせん滅すりゃいいんだろ」

「1体あたり、億単位かかってんだ。あんたが払えよ」

「ここにいる全員で折半だ」
※お互いに腕を組みあい幸運をいのる

「フン・・・一応、迂回していけ。警備室は研究所の奥だが、グルっと階段の横から周って行ける」

「わかった」
※隊員が部屋からかけ出ていく



隊員ヘッドセットカメラデータ 3-2 チームblue

◉REC

「はぁ、はぁ、はぁ、っくっっそ!」
※激しい息遣い

「早い・・・どこ行きやがった!」
※2階、廊下を走り回るがC-1が見当たらない。各部屋を順番に探していく



ガァン!・・・・・バァン!
※各部屋を順番に調べていると奥の方で激しい音が鳴る。急いでその方向へ向かう

「キィィィィィィィィィ!」
※B実験体が研究室から廊下へと踊り出る姿が映る

「・・・ああ・・・あああ・・」
※B実験体の後ろで別の実験体らしい影も部屋から飛び出ては、奥へと消える

「XXXた!隊長!2階へ!モスマンが!」
※無線で状況を知らせる

「くそーーーー!」
ガガガガガガ!
※銃器が鳴り響く

ダッ・ダッ・ダッ・・ガスッ!!
「ぐはぁ!!」

※B実験体が銃器の銃弾を数発食らいながらも猛スピードでこちらへ向かってくる姿のあと、地面が真っ赤な血に染まり、そのまま倒れ画面は血で溢れそうな地面を映し続ける・・・・・・


隊員ヘッドセットカメラデータ 4-2 隊長

◉REC

ガッ・・・《XXX・・・た!隊長!2階へ!モスマンが!》
※無線が鳴る。しかし隊長は応答せず、倉庫内にて多くの資材が積み上げられているその先、ヒートシーカーに薄っすら映っている熱源へライフルを構えながらゆっくりと近づいていく

「!!」
※実験体と思われる熱源が右へ勢いよく移動する

「野郎!!」
※スティモシーバーのリモコンを取り出しスイッチを激しく押す

ゴチュッ!!!
※画面が一瞬ノイズになる

ゴンッ!・・・ゴン、ゴロゴロゴロ・・・・・・

※画面がぐるぐると回転しながら宙を舞い、何かが転がる音と共にゆっくりと止まる。その先にはD実験体が倉庫からゆっくりと立ち去る後ろ姿が見える



警備員ヘッドセットカメラデータ 2-3 チームred
コントロール室

◉REC

・・・ガガガガガガッ!!
バンッ!・・・バンッ!バンッ!
※コントロール室の外であらゆる銃声が聞こえる

「・・・おい、外が騒がしいな」

「ああ、ヤバいぜ。格闘中だな」

「早くセキュリティ復旧させないと・・・・・・」

「・・・よし!こっちのパーツはたいがい外し終えたぞ」

「第一基板とCPU、冷却装置が破損している。配線も消火剤で多分だめだ」

「ケーブル、コネクタ類ね。OKこっちのを外す」

「そっちはコントロール、制御系とは関係なさそうか?」

「ああ、モニター類と外部にだいたいの配線が集まっている。だから多分、監視カメラの制御だと思う」

「そうか・・・ならきっと容量重視だな。だと、メモリ不足のほうが心配だな・・・・・・」

ガガッ・・・ザ・・・《うしろだ!・・・ア、アルマスだぁ!!》
ドォン!・・・ドォン!ガン!ガン!


「・・・・・・」
「・・・・・・」


「・・・俺が見張っておく。早く交換を、復旧を急いでくれ」

「わ、わかった。頼む」
※急いで破損した基板、配線を外していく。そのあいだにも地面から伝わる振動と銃撃音、定期的に無線から聞こえる主な悲鳴に警備員の手元が震えている。焦りと不安が場面から伝わる

「・・・・・・おい、どうだ外の様子は」

「・・・・・・」

「・・・おい?」
※隊員からの返事がない。外部の騒音も、まるで今までの戦いが無かったかの様に鎮まり返っている。不安と恐怖にコンジットから身を抜き出す

「!!」
※見張っていた隊員が倒れている。その顔には死んだと思っていたB-1実験体が張り付き、微かな痙攣だけをお互いが反応し合っているように共鳴している

・・・ガチャ・・・・・・


※部屋の扉がゆっくりと開きだす。そこにはB実験体の姿が現れ、その刹那、画面は持ち主の命と共に消えていった・・・・・・



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