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ねこでも分かる量子コンピューター入門


著者紹介
本記事は2名の量子コンピューター研究者で執筆しています

・Simaneco:
東大物理(理物)の大学院生。フリーランスとして量子コンピューターベンチャーとAIベンチャー2社で働く。 大企業複数社が主催する量子コンピュータプロジェクトの研究開発案件にも参画中。
・Tomotomo: 
量子コンピューターの学会にて、Google社員と肩を並べて登壇する新進気鋭の研究者。世界的に有名な教授のもと日本初の量子コンピューターを開発中。

このノートについて

最近日経新聞などでもグーグルが量子超越を達成したとの記事が出ましたが、ネットの記事を見ると量子力学の本質を理解せずに解説したものばかりで、皆さんもやもやとしているのではないでしょうか。

そこでこの記事では初心者でも分かるように説明をすることに心がけました。分量を増やすにしたがってちょっとずつお値段も上がる予定なので、お早めにお買いいただくと幸いです。

量子コンピュータとは

それでは始めていきましょう。一言で言ってしまうと量子コンピュータとはその名の通り、量子力学で動くコンピュータのことです。量子力学とはとっても小さい原子レベルのミクロの世界の法則のことです。詳細はあとで説明しますね。

量子コンピュータがすごい理由、それはその計算スピードにあります。10/24の日経新聞の記事ではスパコン1万年分の計算が3分20秒で解けたというほどの凄さ。計算スピードが上がるというのは今みなさんがお持ちのパソコンの賢さが何万倍、何億倍と賢くなると考えてもらえればイメージしやすいかもしれません。とてつもないインパクトですよね。

これだけ賢いのですからその応用分野もすごいです。例えば空飛ぶ車の開発や人智を超えた圧倒的な人工知能など、この技術で実現が現実味を帯びてきています。

それではここから先はまず量子コンピュータの基本原理である「量子力学」について解説して行きましょう。

量子力学ってなに?

そもそも量子力学ってなんだよって方も多いでしょう。その説明を簡単にしましょう。

私たちの世界には力学法則が溢れています。高いところから物が落ちるのも、もちろん力学法則のうちの1つです。ですがこの力学法則は所詮私たちの目に見えるレベルの世界の法則なのです。ではめっちゃくちゃ小さい原子レベルのミクロの世界の法則、逆にとてつもなく大きい銀河系レベルのマクロな世界の法則はどうなのでしょう?

1900年代にアインシュタインをはじめとした沢山の偉人たちが、この課題に挑みました。それによって生まれた学問体系が3つあります。それはミクロな世界を記述する「量子力学」、マクロな世界を記述する「相対性理論」、そしてこれらミクロ世界、私たちの世界、マクロ世界を結ぶ「統計力学」です。

基本的に大学の物理学科で学ぶことはこの3つです。これが現代物理を形作っているわけですね。ここからはこのミクロ世界の法則「量子力学」の説明をしていきます。

量子力学にはとっても大事な「量子状態」の概念があります。シュレーディンガーの猫とか聞いたことがある人もいるかもしれません。猫を毒ガスが1/2の確率ででる部屋に猫を入れて、実際に実行すると扉を開けるまで死んだ猫と生きた猫が同時に存在する。という意味わからんあれです。なんか例えがひどいと思うんですよ。私は猫大好きなので倫理的にもやめて欲しいです。

じゃあもっとわかりやすい例えを、ですよね。ここではコインに例えて説明したいと思います。コインは表と裏の2つの状態がありますよね。そして「量子状態」と言うのはコインを指で弾いて空中をくるくる回っているあの状態です。つまり表が出るか裏が出るかわからない、不安とワクワクが入り混じるあの状態です。そしてコインがコンっと言う音を立てて床にあたり、表か裏かわかる。あれが表か裏かが確定した「確定状態」と言われるものです。そこで初めてどちらかわかるのですね。

当たり前のことをいちいち解説するなよとお思いかもしれないですが、量子力学のコンセプトは本当にこれだけなのです。あなたが買った宝くじが当たるかどうか確定していないあの状態、あれも言ってみれば「量子状態」です。そして当選番号が公開されて「確定状態」になります。あくまで例えなので厳密にはもちろん違いますが、細かいところは時間がある時に説明しましょう。

こう考えれば、量子コンピュータで出てくる0と1の「重ね合わせ状態」もすぐにわかります。「重ね合わせ状態」=「量子状態」です。コインの裏に0、表に1と数字を書いておきましょう。そうするとコインが空中を待っているときは0と1どっちが出るかわかんないよと言う状態になります。これを0と1の状態の重ね合わせになっていると言います。サイコロであれば0〜6までの数字が「重ね合わせ状態」になっています。

コンピュータでは0と1を表すビットと言うもので計算がなされるのですが、この「重ね合わせ状態」ができれば0と1どちらでもない状態を導入できます。

つまり今までのコンピュータは計算中にコインが必ず机の上にあって、オセロみたいに裏か表どっちかしかありえなかったのですが、量子コンピュータはたまにコインを弾いてくるくる回してる状態にできるコンピュータだよと言うことです。難しくないですよね。

もちろんここでは量子力学における原理原則を馴染み深い古典現象で簡単に説明したもので、本質的には数学を使わないと説明できません。興味ある方はぜひ勉強してみてください。

量子コンピュータの応用事例

さて、ここまで理論的なお話をしましたが、やっぱり量子コンピュータに何に使えるの?って気になりますよね。実はどの会社もすんごいビジネスチャンスであることを知っているので、本当に面白い案件は新聞とかでも出てこないんですよ。

でも1つだけ、お教えしましょう。

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