見出し画像

料理は苦手だけど。

子どもの頃、夏休みになると少し遠出をして家族全員でよくドライブ旅行をしたものだ。

宿泊先は、とても豪華なホテルや優雅な旅館ではなく小さなペンション。

ペンションで食べる朝食は、私にとって世界で一番贅沢なごはんだった。

ふわふわのパンにジュワッと肉汁が溢れるウィンナー、縁をカリカリに焼いた目玉焼きに真っ赤なプチトマト。果物は食後のデザートではなく、食べたいタイミングで食べられる。

ふわふわのオムレツにはケチャップやマヨネーズなんていらなかった。ただそのまま塩胡椒された卵の美味しさったら!

シンプルなメニューだったけれど、味に匂いに鮮やかさに夢中に食べている9歳の私がいた。

平日も週末も家族全員でゆっくり朝食をとる習慣がなかったからか、みんなでゆっくり食べられたことも美味しさに拍車をかけていたと思う。テレビがないのも居心地がよかった。もちろん、スマホの着信音がなることもなく。

大人になり、母に家庭の味を習わなかったことをとても後悔した。

一人暮らしを始めた頃は、お米を台所用洗剤で洗ったり、初めて炊いた
筑前煮はびっくりするほど醤油辛かったり。

そんな私もいつしか親になり子どもにごはんを作っているいま。

毎日毎日、できるだけ色々なものを食べさせたいがまだまだ道半ばだ。

東京でフルタイムワークをしていた頃は、料理が自分の息抜きでもあり
趣味の一つでさえもあったのに。仕事を辞めてからはとにかく料理をする
ことが嫌になってしまった。

一年中変わらない気候。代わり映えのしない市場の青果。値段が高すぎて
手を出しにくい日本の食材。

以前とは違い、料理をする時間だけは十分にあるのに作る意欲が湧かなく
なってしまったのはなぜだろう。

そこでしばらく料理することを家族に了承をとった上で〔放棄〕することにした。お惣菜を買ってみたり、ホーカーと呼ばれる食堂で食べてみたり。日本ではあまり行かなかったチェーン系レストランへ行ったりもした。

すると家へ帰っても、食欲が止まらないことに気がついた。

さっき食べてきたはずなのに、なぜかものすごくお腹が空いている。炊飯器に残っていた雑穀ごはんを塩にぎりにして海苔を巻いて食べた。一息もつかず食べたと思う。だって、ものすごく美味しいと感じたから。

結局、私が食べたかったのはしっかり味付けされた外食ではなく
薄味だけど、地味だけど、しっかりお腹にたまる家のごはんだったのだ。

料理は苦手だけど、食べることは本当に好き。

だから日々食べたい時に食べたいものを食べようと思う。

最近、子どもを送り出した後の楽しみは
一人でじっくりふわふわのオムレツを食べることだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?