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母の短歌 一瞬に人ざわめきて席は埋まり

 一瞬に人ざわめきて席は埋まり
 常の如くに電車動きぬ

母は、朝早く出かけることがあったのだろう。柏駅の朝の光景をこう歌った。駅始発の電車に乗り込む乗客たちは皆こんなだったな。都心まで50分程だったが、車内はすし詰め状態で、それを回避するには座るしかない。始発の電車を待って座って行きたい。ドアが開くと脱兎の如く走った自分のことが思い出される。

満員電車と言えば、昔、日比谷線の竹ノ塚に住むAくんの所に泊まって、翌日、一緒に通勤したことがあった。駅のホームで先頭で待っていたら、始発電車が入ってきて、ドアが開いた。のんびり座って行こうと思っていたら、後ろの乗客がサッーと席へと走り、あっと言う間に席は埋まってしまった。「あれぇ、一番前に並んでいたのに―」と驚くと、つぶらな瞳のAくんは、目をますます小さくして笑いながら、「一番前にいたってのんびりしていたら座れないよ」と予想外の展開に驚く私を愉快がっていた。友だちといると満員電車も苦ではない。つり革につかまりながらの時間はあっと言う間に過ぎていった。母の短歌からこんなことが思い出される。


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