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歳をとって読んだ源氏物語1  嫉妬された桐壺更衣

人間というのは、自分より下にある者が恵まれると嫉妬したり、いじめをしたりするようだ。軽く見ていた人が優れた成績を残すと、良い気持ちがしない。上の者が恵まれるのは、自分より階級が上なのだから仕方がないと思い、嫉妬心が起きない。

最近、たどたどしく読んだ源氏物語の桐壺更衣の話である。やんごとなき身分ではないが、すぐれて帝の寵愛を受けている桐壺更衣に対する弘徽殿女御の嫉妬心と更衣へのいじめがすさまじく書かれている。

更衣は、それほど高貴な身分でないとはいえ、父親は元大納言だから、庶民からしたら雲の上の人なのだが、右大臣家の姫からすれば、更衣は大納言家出身で自分より下位のものである。皇族や大臣家の女御との差は大きい。しかも元大納言はすでに亡くなっていて、後ろ盾がない。バックがしっかりしていないと貴族社会は生きていくのが大変のようだ。バックを失った途端に落ちぶれていく。

後ろ盾もない、身分も下、そんな者が帝の寵愛を一途に受けているのだから、弘徽殿女御としては、面白くはない。考えて見れば、最高の寵愛を受けられなかった女御も気の毒である。何故自分は女御の身分でありながら、下の者に帝を取られてしまうのか、人間の不条理を感じただろう。嫉妬やいじめに彼女ながらの正当性を抱いたかも知れない。

桐壺更衣からすれば、後ろ盾もない、女御からは嫌われている、ただ頼りは帝の寵愛なのだが、宮廷内の内紛の原因は自分にあると思うと、それはすごいストレスだろう。こういう環境では、人間は心を病み、やがて身体にも影響してくる。病んで宿下がりした桐壺更衣は、間もなく、光源氏が3歳の時に亡くなってしまう。

そのあたりの人間描写が紫式部はすごいと思う。人間は進歩したというのは嘘で、人間そのものの知性や感性は千年前と変わっていないと思える。

もっとも、桐壺更衣が皇族で、女御や中宮となり、帝の寵愛を受けていたら、話は始まらない。生まれてきた光源氏は、源氏(臣籍降下)にはならずに皇太子から天皇になって終わってしまうのだから、桐壺更衣が元大納言家で、嫉妬されないと源氏物語はないということだろう。


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