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読書感想#47 【丹下健三】「現在日本において近代建築をいかに理解するか」

引用元:丹下健三建築論集 岩波文庫 2021年7月15日 初版

私の読み方

建築において「美」というのは、建築家の自己満足であるかのような風潮があります。建築といえば何より機能的で、故にデザインは合理的で、結果的にコスパの良い、それが最良の建築であるかのように考えられがちなのです。少なくとも、そのような「民衆的」な建築が好まれやすいのは間違いありません。ここでは「美」という奇妙なものは蔑まれて然るべきなのです。しかし、そんな現状においてこそ、建築にとって美とは何か、というテーマで考えることは重要であるとも思われます。このような考えの下、私は本書を読み説きました。

私が丹下から汲んだ問題意識

建築は極めて実務的な芸術です。単に空想や発想の面白さだけで完結せられるものではなく、施工技術や経済状況などといった、現実的な建築条件を上手く工面しながら、その範囲内で建築は表現されなければなりません。その意味で、建築はあらゆる芸術の中でも、もっとも現実的な芸術ということが出来るでしょう。だからこそ丹下は、

民衆の生活感情を、ある歴史的位置に固着させて、考え、それを動的な発展としてみないところに、現実からの遊離があると思うのである。

p.34

というように、昨今の建築家たちの思想が現実から離れ行く現状に、危機感を抱いたのです。
特に民衆の生活感情というのは、ある意味では、もっとも現実的な動きともいえます。故に民衆の生活感情を捉え損ねるということは、現実をないがしろにするも同然です。これは現実を反映する、あるいは現実的な事情が反映される建築においては致命的なのです。だからこそ、現実をいかに捉えるか、すなわち民衆をどう捉えるかということは、丹下にとってはもとより、建築においても重要な意味を持つのです。

現実を捉える

現実の生活は、進歩と伝統との抵抗発展として動的である。

p.34

丹下は現実を「動的」なものとして位置付けました。それは何かの形式に当てはめて理解され得るものではなく、常に揺れ動くものであると考えたのです。そして、現実は常に揺れ動くものである以上、ただ過去を模範とするだけではいけません。それは常に現在でなければなりません。それは過去より一方的に規定されるのではなく、むしろ現在が過去・未来に働きかけるものでなければならないのです。その典型を、丹下は民衆感情に見たのでした。

建築空間の表現にその重点がおかれ、それと民衆の生活感情との接触するところを問題の起点とする

p.33

これが「ソシアリスト」「リアリスト」の立場であるという風に丹下は述べていますが、実はこれは丹下自身の問題意識を、ここに代弁させていたのかも知れません。表現の部分と生活の部分、もしくは伝統と革新、主観と客観という風にも言い換えられます。丹下はこのように、相異なる両者が交わるところに、建築の本質を見たのでしょう。すなわち、この矛盾にこそ、現実を見出だしたのです。

そこに民衆は存在するか

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