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0.5cmに泣く人生

0.5cm、すなわち5mm、1cmの半分である。9mmよりも4mm小さい。手元の定規で眺めてみても、その幅は僅かだ。しかし私ははその僅かな幅に苦しめられてきた。0.5cm少なければ、きっとおだやかな人生を過ごせていたはずだ。

いきなり深刻ぶってしまったが、これは靴のサイズの話だ。大多数の人々は、靴のサイズで人生云々とは大げさなと思われるかもしれないが当事者にとっては人生を左右する大問題なのだ。なんで私が、と途方に暮れることも、世間を呪うことも数知れず、もうやだ。

私の靴のサイズは、25cmである。通常日本国内で流通している女性の靴のサイズの上限は24.5cm。その差0.5cmである。

中学生まではよかった。履く靴が学校指定の運動靴と上履きだけだったから。男女同デザインで、街の靴屋でいつでも気軽に新品を購入することが出来た。

高校に進学する時に問題が起こった。通学用の靴の指定は無かったが、周囲ではみな革のローファーを履いていた。セーラー服に革ローファーで颯爽と歩く女子高生、憧れだ。しかし、小さな田舎町に25cmの皮のローファー(女性用)は売っていなかった。試しに24.5cm履いてみると、足を収める事は可能だが、キツすぎて歩行出来る状態では無かった。たかが0.5cm、されど0.5cm。結局、男性用の革靴を購入した。セーラー服に不恰好な男性用の革靴をはく女子高生として三年間過ごしたのである。

おしゃれを気にするお年頃、行動範囲も広くなり大きな街の靴専門店に行くことがあった。気に入ったデザインの靴をみつけたがサイズが無い。店の壁の「サイズが無い場合はお気軽に店員に声をかけてください」という張り紙に勇気を貰い在庫を確認すると、「申し訳ございませんが、25cmはありません」というつれない回答。

デパートの靴売り場では角の目立たないところに、ひっそりと「大きいサイズ」コーナーがあった。確かに、25cmの靴はあった。しかしそこにあった靴は試着され尽くしてくたびれていた。しかも、値段が高く、セール対象外なのだ。

この状況に嫌気が差して、デザイン優先で24.5cmの靴を履いたこともある。結果、即日小指と踵にブヨブヨの靴擦れが出来た。時として、皮が破けてジクジクしていることもあった。もちろん、痛いことこの上ない。泣く泣く絆創膏を貼るのは言うまでもない。

私は靴を探す事に疲れてしまった。もう、一年中スニーカーでいいじゃん。履き潰したら新しいの買えばいいじゃん。通勤もスニーカーだ。職場はネット通販で見つけた安い合成皮革の黒パンプスでいいじゃん。ハイヒールもローファーもパンプスもブーツも私には不要だ。足元のおしゃれなんて遥かかなただ。

それにしても、靴のサイズって誰が決めているんだろう。日本国内の女性の靴のサイズの分布ってどうなっているんだろう。誰か計測しているのだろうか。過去のデータを使い回しているとしたら心外だ。日本国内に住んでいる女性の体格は昔と比較して向上していると思われる。それに伴い靴のサイズも大型化していないか?

近年では、ネット通販で25cmの靴を見つけることが出来るようになった。でも、実際に履いてみるまでは安心できない。私の望みは気軽に、自分が住んでいる街で、通常の値段で、新品の靴を買いたいだけなのだ。

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