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「ミナミ」

ホテルをチェックアウトしたお昼前、駅まで戻ってお昼を食べるか、その辺でお昼を済ませるかの2択に迫られていた私。
とりあえず、喫茶店に行きたい。そう思い、ホテル周辺に喫茶店があるか調べてみた。どうやら歩いて行ける距離に、私好みのいい感じの喫茶店があることがGoogleマップにより判明。私の相棒である赤いキャリーケースを引きずって、10分ほど歩いてその喫茶店へ向かうことに。

お店に入ると、「おひとりさんですか?好きなとこどうぞ」と笑顔のおじいさまマスターのお出迎え。私は2人がけの席に、赤い相棒とともについた。

私が勝手に定めているキマリで、「喫茶店では、(メニューにあれば)必ずナポリタンを食べること」というものがある。そのキマリ通り、ここでも赤いソースの素敵なナポリタンを頼むことに。そしてなんとここは、スパゲティの具に、海鮮が入っているらしい…!エビやカキ、他の野菜もゴロゴロ入ったナポリタンへの期待は膨らむばかりだ。ということで、即決でナポリタンをお願いしますとマスターに告げる。するとマスターは、「スパゲティとホットサンドのセットがオススメですよ」と、やや強めに(強制するほどではないが)私に勧めてくれた。そちらも美味しそうだったので、そのセットを注文することにした。

注文したコーヒー&スパゲティとホットサンドのランチタイムのセットが私のもとへ届いてから食べ終わるまでの小一時間。私はマスターや、後から来たお客さん(素敵なおばあさま)と、いっぱいお話した。箇条書きで話した内容を纏めていく。

・一人旅を楽しんでいる身であることを告げると、マスターに「最近の女性は、強い人が多いねぇ。男子よりも随分強くて、しっかりしてる人が多いよ。」と言われた。一人旅に挑戦している私のことを激励してくれる気持ちは、有難く受け取ることにした。ただそれに対しては、私は旅に出たくて出てるだけで、それは人によると思いますよ、とだけ答えてみることにした。

・私が旅している話をした。するとマスターは、車を何百キロも走らせて、運転する旅が好きと答えた。東京まで行ったり、金沢にも行ったりしたそうだ。私は自分で運転して車に乗ることの無いペーパードライバーなので、走行距離を言われても、今ひとつピンと来なかった。ごめんねマスター。

・(マスターがどのクルマに乗っているかは忘れたが、)旅で車を使うなら軽自動車がオススメらしい。というのも、近年の軽自動車は普通自動車に劣らない性能を持っており、そのうえ高速に乗るなら軽自動車の方が料金が安くなるからだと。ただ、時間を気にするならやはり普通自動車のほうが速さは出るから、一長一短だとも言っていた。

・マスター曰く、青森の北と南には文化の違いがあり、今も対立することもあるという。訛りも違えば、人の性格も異なる。青森は広いし、そうなるのも無理はないかと思ったし、大阪でも同じようなことは言えるとも感じた。(大阪で例えてみれば、大阪の北部より、南部のほうが方言がキツく、荒々しい言葉が出てくることも多い。)

・私が18切符を使ったことを伝えると、お客さんも若かりし頃に使った経験があることを話してくれた。昔は鈍行列車が多く、東京まで行って、乗り継いでから列車に乗って京都まで出たことがあるそう。24時間ずっと列車に乗るのは、かなり体力を使うことだろう。私の北海道の普通列車旅に、想いを馳せた。

・マスターもお客さんも、「旅はできるときにした方がいい、若い時にしておくべき」と何度も私にそう伝えてくれた。相槌をうって優しく頷きながら、私の身の上話をずっと聞いてくれたお2人に、短い時間の中でも私はたくさん元気をもらえた。

・マスターには、小学生の頃から可愛がっている息子同然の方がいるらしい。その方は、別段お勉強が得意とかそういう人では無いらしいが、ただ1つマスターが繰り返し言っていたのは、「小さい頃からずっと、マスターのお店を手伝っていた」ということだった。長年続けていたお手伝いのおかげで得られた継続力は学生時代でもそのままで、その手腕を買われて仕事へと繋がり、その方は現在も多方面で様々な活躍をされているそうだ。マスターは「本当に自慢の子だよ」と笑顔で誇らしげに話していた。根気強く続けたその「お手伝い」によって培われた重要なチカラは、大人になってから役に立つ処世術として発揮されたのだと私は感じた。

・先程の話の延長になるが、「学歴があっても、コミュニケーション能力がなければ世の中やっていけない」この言葉も、マスターは何度も言っていた気がする。「あなた若いけど、その能力十分にあると思うよ」と、これまた嬉しい言葉を私はマスターから貰った。ただ、私自身、人と話すのは大好きだし得意の部類に入る気もするけれど、これをコミュニケーション能力が高いことと繋がるとはあまり思っていない。私は、自分の話をするのが、あるいは人の話を聞くのが好きなだけで、好きなことをしたいからしてるだけで。それも、いつもそれをしたいわけでもなく、「この人と話してみたい!話を聞いてみたい!」「この人になら私の話を話せそう!」と限定的な直感が働いたときにだけに話したくなるのである。つまり、私が人と話したくなるタイミングは、ただただ「気まぐれ」で決まるのである。

他にもたくさん話した。が、ここに載せるのは敢えてこのくらいにしてみる。

そろそろ目的地に向かう頃合だと思い、帰り支度を進める。するとマスターの一言「お客さん、もしかして、大阪から来られたから、うちに来たんじゃないですか?」
ん、なんで?と思った。どういうことだろう。するとマスターが続けて、「うち、ミナミって名前が店名に入ってるでしょう?大阪もミナミって言うじゃないですか。」
なるほど、確かに。私は正真正銘大阪のミナミ生まれである。マスターからの言葉に思わず笑ってしまった私。何たる偶然。いやそんなこと考えずに、ただそこに喫茶店があったからですよ〜と口先ではそう伝えたが、もしかするとこれまた私の直感が「ミナミ」に反応していた可能性も捨てられないなと心の中で思った。

私は、旅の道中で入ったどこの飲食店でも、必ずお店の人に伝えることが2つある。1つは「ごちそうさまでした」、そしてもう1つは「美味しかったです」。これまでの旅では、ほとんどのお店で、この2つを伝えることは実行している。しかし、「実行している」ものの、他の言葉を伝える機会はほとんど無かった。この喫茶店では、この2つの言葉だけでなく、マスターやおばあさまと、短いながらも豊かな時間を過ごせたことへの感謝を伝えることができた。何より、互いの話を話して聞いて、を繰り返しできたその時間が、すごく幸せなものだった。

帰り際に、マスターがあるものを渡してくれた。それは、このお店で作っている、自家製のお菓子だった。これから蕪嶋へ向かうおやつにどうぞ、とのことだった。マスターからのプレゼントは、素敵なお話だけでなくお菓子まで付いてくるなんて思わなくて、ホットコーヒーを飲んだときよりも心が暖かくなるのを感じた。

「ごちそうさまでした!美味しかったです。」
いつも通りの2つの言葉を喫茶店の中に残し、私は「ミナミ」のつく喫茶店を出て、北の方角にある駅を目指した。


あとがき:そういえば、このnoteに貼り付けた写真は、喫茶店に行ったときの習慣である読書の前に、出てきたコーヒーとともに本をパシャリとしたものです。いつもなら、コーヒーをちびちびと飲みながら本の世界に入り浸るのですが、この日は如何せんマスターとのトークが楽しくて、読書は全く進みませんでしたとさ。



今日のところは、こんなもので。

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