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文章練習 エッセイ「好きの力は世界を広げる」

『7日間で英語がペラペラになる カタカナ英会話』(甲斐 ナオミ著、 ‎Gakken)に寄せて

「カタカナ表記されたネイティブ発音で、カッコいい英語を身に付けよう!そうすればモチベーションも下がらず、どんどん英語を学んでいける」というカタカナ英語の本を読んで、最近観たインド映画『RRR』を思い出した。

『RRR』は日本で2022年10月に公開され、1年間で約24億円の興行収入を達成したヒット作だ。舞台となるインドの1920年は、イギリス植民地時代の中でも特に弾圧が激しかった頃で、独立運動の高まりを背景に、友情と使命に葛藤する男たちのドラマが描かれる。

登場人物の感情とアクションが一体化した巧みな語りや、印象に残るシーンの連続で、上映約3時間があっという間に過ぎてしまった。作中のダンス曲『Naatu Naatu(ナートゥ・ナートゥ)』は第95回アカデミー賞の歌曲賞に輝き、踊りを真似して動画投稿する人が続出している。

好きな作品はもっと知りたくなるものらしい。SNSでは、映画が作られた言語であるテルグ語を勉強し始めた、映画内に登場するインドの古典を読んだ、という声も聞くようになった。そこまでいかないが、私もスタッフ・俳優のインタビューやインドの歴史を調べるうち、『RRR』の別の顔も見えてきた。

『RRR』を知るまで、私にとってインド独立運動といえば、ガンディーと「非暴力不服従運動」のイメージが強かった。しかし実際には、地域ごとに異なる抵抗運動が展開され、そのリーダーの多くは現在でも地元の英雄として語り継がれている。

インドには方言を除いても100以上の異なる言語がある。地域ごとの言葉や文化の壁が厚いため、地元以外にはあまり知られていない指導者もいるそうだ。『RRR』は史実をベースにしたIFストーリーで、主人公二人はそんな実在した人たちをモデルにしている。エンディングでは、各地域の指導者が、同じようにインドのために闘った英雄として紹介された。

また、監督が活動しているテルグ語映画界では、2014年にアンドラ・プラデシュ州から、テランガーナ州という新しい州が独立する事件が起きた。監督によれば、そのとき二つの州の人々はかなり険悪な関係になり、今もなお傷跡を残しているという。

主人公のモデル二人は、それぞれの州出身でもある。もっと言えば、一方はヒンドゥー教徒で恐らく上位のカースト(インド古来の身分制度)であり、他方は、変装とはいえイスラム教徒として暮らすダリット(カーストのさらに下に位置する不可触民)なのだ。二人の固い友情物語には、現在のインドで起きている社会的・宗教的分断に対する、融和への願いが感じられる。

『RRR』の後、私は他のインド映画にも手を出すようになり、作品背景などから日本とまるで違うインド文化の多様さとディープさに驚くことになった。もしインド映画に出会わなかったら、全て知らないままだったろう。「好き」の力、恐るべし。


画像引用元:https://www.pexels.com/ja-jp/
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