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カナダは差別的なホテルである【24.1.26】

・来週から新しいルームメイトが入居してくるとのこと。11月のウェルネス・キャンプで会ったサシャだ。また新しい生活が始まることになる。少し不安もあるが、楽しみ。

・同居人が寝ていたベッドルームが彼女の部屋になり、彼はキャビンで過ごす予定なのだとか。午前中のうちは部屋を徹底的に掃除しておく。冷蔵庫のコンパートメントを一部、キッチンの棚を一部、新しいシェアメイトのために空ける。

・僕は2018年に実家を出てから、一度として一人暮らしをしたことがない。大学の時は学生寮、留学中も12人でシェアするコリドーに住んでいたし、ゲストハウスに数ヶ月寝泊まりしたこともある。岩手と長野ではシェアハウスに住んでいた。誰かと住むのには慣れっこだ。

・とはいえ、シェアメイトのことを十分に知るのには決して短くない時間がかかる。いい生活環境を共に新しく作れればいいな、と思う。

・リビングとキッチンも掃除し、薪ストーブに火を入れてから走りに出かける。今日はあまり時間がないので、5キロのペース走にする。100メートルを4分20秒ペース、50メートルを5分ペースというリズムを交互に繰り返す。息が上がり過ぎないように、マラソンレースよりも速いペースを維持する。

・川に30秒浸かってクールダウンをし、シャワーを浴びる。ささっとスパゲティを調理して食べ、村に向かう。

・今日は出勤前に、マネージャーのダニエルとの面談がある。二週間に一度、おたがいの仕事の状況や思ったこと、アイデアを共有する時間だ。

・「無力感を感じることがあって」僕は正直にダニエルに感じたことを語る。物静かながら情熱をもって仕事とコミュニティに打ち込んでいる彼には、思ったことを気軽に打ち明けられるような信頼感がある。
「先住民コミュニティの悲惨さ、歴史的なトラウマの爪痕の大きさは勉強して知ってはいた。けれど、その実態をこの目で見ることになったのは大きな衝撃だった」

・先住民コミュニティにおける家庭内の問題や貧困問題、構造的なレイシズムは、外からでは見えないようにうまく隠されている。コミュニティにおけるケアの仕事を始め、より深く人々に関わるようになったことで、その不都合な事実を垣間見ることになった。

・家庭環境、食習慣、人間関係、どれも僕が生まれ育ったものとは大きくかけ離れており、決して健康とは言えないものだ。最初は動揺し、怒りがあり、困惑があった。そんな状況に陥ってしまったのは彼らの過失ではなく、カナダ植民地主義と構造的レイシズムによるもっと闇深いものがあると思うと、無力感に苛まれる。

・「僕らの仕事はつねに感謝されるものでもなければ、効果がすぐ目に見えるものではない。それは確かだ」ダニエルは言う。
「それでも、目の前の一人一人を負の連鎖から救っていくことには必ず意義がある。時間はかかるかもしれないけれど、僕たちの仕事の重要性が理解される日は必ず来る。僕はそう信じてやっているんだ」

・この国の先住民政策は、ホテルを例にして語られることがある、と彼は続ける。

あるところに大金持ちが突然やってきて、元々いた人を退かせて勝手に大きなホテルを建てた。そのオーナーは障がい者に対する強い差別意識をもっており、障がいがある人の必要な設備を全く設けず、彼らの入店さえも拒否した。とあるタイミングでオーナーが代わり、新しくやってきた支配人は偏見などないというスタンスで、これまで拒否してきた障がいを持つ人もウェルカムです、と宣言した。ただ、そのホテルの掲げる声明だけが変化しただけで、アクセシビリティは向上されず、ホテルは構造的な欠陥を抱えたままであった…

・「この話における『ホテル』が、カナダであり、植民地主義だということだ。いかに表向きの政策が先住民に対して融和的になっても、この国はもっと構造的な問題を持っている」ダニエルもドイツから移民し、ハイダグワイの先住民コミュニティで長らく働いている。同じ外国から来たもの同士、一定のニュートラルな立場でカナダの歴史を語ることができるのはありがたい。

・ミーティングが終わった後、ダニエルが一冊の本を手渡してくれる。カナダのインディアン法についての本だ。ありがたい。2月の課題図書ということにする。

・職場に着くと、ふたりのクライアントはご機嫌だ。夜、スタッフのセリーナの娘の誕生日会に行くのだと言う。プレゼントのラッピングを手伝い、18時前にふたりをバンに乗せてコミュニティホールまで行く。

・ホールではたくさんの子どもたちがバスケットボールに興じていた。お母さんたちは食事の準備に忙しそう。リリーおばあちゃんと彫刻見習いのカールソンがいる。それ以外は知らない現地人だ。
「あなたもスタッフなの?」セリーナのお母さんのサマンサが話しかけてくる。
「そうです。8月に日本から越してきて、12月から仕事を始めました」
「あらそうなの!あなたのクライアントの一人は、私の幼い頃からの友人なの。あなたたちの仕事には本当に感謝しているわ」
ときどきこうして受け取る現地の人からの感謝の言葉が一番嬉しい。

・食事はピザ、ミートソーススパゲティ、シーザーサラダ。ハイダの村での食事会あるあるメニューだ。別に文句はないけれど、健康的な食事とは言えないよなあ、といつも思う。そういえば午前中のミーティングでダニエルと話した時、先住民の家庭の食習慣の問題についても触れたんだっけな。

・伝統的食習慣が植民者の食習慣に取って代わられた。それにもかかわらず、遠隔地のハイダグワイには新鮮な食材の流通が行きつかず、現地の家庭の多くは村にあるひとつの売店で買えるものだけを食べていたのだと言う。冷凍ピザ、冷凍チキン、クラフトディナーというインスタントマカロニ&チーズ。野菜は高価で質も悪かった。そんな食習慣から、肥満も問題となっている。こんなに海の幸が豊富なのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

・ケーキの上のキャンドルが吹き消され、子供達は熱心にプレゼントを開封している。よかったね。

・疲れた様子のクライアントたちをバンに乗せて早めに家に戻る。夜食を用意し、薬を投与し、ベットの準備をする。次のスタッフが交代でやってきて、職場を後にする。

・四連勤も明日で終わりだ。明朝はロングランを走りたいので、ストレッチを十分にして早めに寝る。

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