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4.価値と価値観が交差する シゴトと社会と私の連鎖

この連載について
前回「弱さの自覚がコミュニティを生み、異質性がコミュニティを強くする」はこちら

OCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
「HOW -今を、これからを、どう生きるか- 」をグランドテーマにお届けします。
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北村
前回までの3回、「好奇心」「豊かさと幸せ」「個とコミュニティ」とテーマを渡りながら、過去のセッションを振り返ってきました。主に社会をよくするための「自分の内面にあるものとの付き合い方」について言葉を重ねてきたように思いますが、今回は、内面から外へ。内面にさまざまな好奇心や幸福観、弱さや異質性を抱えた個人が、外の世界・社会と関わる接点である「仕事」に軸を置いてみたいと思います。

2018年のセッション「働き方の本質」で、DODA編集長の大浦さんが「働く目的」を定義されていました。

働き方の本質 2018/9/15 14:40-15:30 @EDGE of
「“働くこと”は人生そのものであり、もっとも自分らしくあるための場所。もし自分らしくあることが出来ていないのであればきっと仕事は辞めている。働く目的は、生理的欲求・安心安全・社会との繋がり・評価と尊厳・自己実現があるが、働くというフレーム以外でこの5つ全てを実現できるなら、働くことにこだわらない。」
〈登壇者〉
パーソルキャリア株式会 DODA
編集長 大浦征也氏


一方で、株式会社ビズリーチの中嶋さんは、「働くことのフォーマットを問い直す」ことを提案しました。

働き方の本質 2018/9/15 14:40-15:30 @EDGE of
「人類史上、働くっていうことが人間活動の中で、これほどド真ん中にあることはなかった。“働くこと”はあくまで手段であって、“働くこと”が目的で働く人はいない。金銭のため、幸福感のため、など目的はそれぞれの自由でいいように、働き方ももっと自由でいい。社会の受け皿も広く多様になっている時代、固定観念に縛られず働き方のフォーマットそのものを各自が問い直してみることが大切」
<登壇者>
株式会社ビズリーチ 執行役員 キャリトレ事業部
事業部長 中嶋孝昌氏


長田さんと金山さんにとっては、「働く」ってなんですか?大浦さんが話されたように、条件さえ満たせれば「働く」がなくても生きていけますか?

仕事とは、自己実現が社会や人や企業に貢献できること


長田
わたしは両親が学者で、家にいてずっと本を書いていたり研究を目的に海外に行ったりもしながら楽しむ様子を見ながら育ってきました。だから、仕事って純粋にお金を稼ぐためのものではなく、自分の目的や興味を追求する自己実現の要素がすごい強くて。家の中で仕事と遊びと休みの境目がなかったし、仕事してて楽しそうなんですよ。好きなことをしてお金を稼いでいる感じで。その影響で、わたしも、やらされてるんじゃなく、自己表現が社会や人や企業に貢献できることを実感できることを見つけることが多いです。

金山

僕も同感で、好きなことをしている状態をみんなに仕事として認めてもらっているっていう感覚なんですよね。そこにいきなりいける人って僕の世代でどれくらいいるのかはわからないんだけれども、僕は今、仕事を暇つぶしって捉えているんですよ。ちょっと怒られそうなんですけど、人間って誰しも、生まれてから死ぬまで暇が与えられていて、社会的には補償とか制度が整えられているから実は何もしなくてもなんとなく生きていけてしまう。でも、暇をつぶすのって大抵お金がかかるんですよね。本を読む、映画を見る、旅行に行く、温泉に行く。ただ寝ているだけだとしても、快適に眠るのにベッドやまくらや毛布を買って睡眠環境を整えるのにはお金がかかる。だけど、仕事をするっていう暇つぶしだけはある程度お金が稼ぐことができて、それ以外の暇つぶしを豊かにする。

だったら、「やってみたいこと」「なるべく自分にとって大きな価値がフィードバックされること」「エキサイティングなこと」を仕事にしている方がパフォーマンスは高いだろうな、と。好きなことをやっていて仕事って認められている環境を作ることが最高の暇つぶしだと思っている。

仕事として認められる環境をつくるには、経済的な価値を自ら定義することが必要なんです。そのためには、自分の興味の先にアウトプットされる価値が、どういうコミュニティ、や組織、システムの価値観と交差するのかっていうことを考えなきゃだめだなと思っていて。自分の価値と届けるべきコミュニティの価値観を擦り合わせていく、呼応させていくのが仕事をしていく上での一番のポイントだと感じてます。
だから、あるときは夢を共有して共感を呼び起こすコミュニケーションをするし、あるときは自分のやりたいことの本質的価値を演出して見せていくことを意識的にやっているんですね。

北村
余談ですが、日本の禅文化を世界に知らしめた仏教学者の鈴木大拙は「自由の本質」の中で「竹は竹として、松は松として(中略)自分が主人となって、働くのであるなら、これが自由である」と言っています。一方で、現代のようにスピードの速い時代にはダーウィンやスペンサーの名言「変わらないために変わり続ける」も思い起こします。自分が「主人」となって、その人「らしく」変化していることが一番自由でいいと。みんながそうあれるような、お二人のような捉え方で仕事をしているような世の中がいいなと思います。

表現したいことや好きなことや興味って変わっていくと思うんですが、変化に合わせて仕事も変わっていくんでしょうか。

キングコング西野さんは「人生の本質」で、「仕事の領域を広げる」というお話をされていました。

人生の本質 2018/9/17 11:00-11:50 @EDGE of
「1冊目の絵本が思ったよりも売れなかったので、次は作品だけじゃなくて売り方も作りました。個展会場を売り場にして、思い出を買ってもらうように価値を変えた。次はよりよい作品を生むために作り方を変えて、プロによる分業を図り、その資金はクラウドファンディングで集めました。」
<登壇者>
お笑い芸人、絵本作家
西野亮廣氏

北村
小橋賢児さんは「セカンドID〜本当の自分の出会い方〜」というキーワードで枠を外れるワクワク感を共有してくださいました。

セカンドID〜本当の自分の出会い方〜                          2019/9/15 18:00-18:45 @ヒカリエホール 
俳優活動を27歳で休止し、世界を旅しながら、映像やイベント制作をスタート。「27歳で俳優活動を休止し、世界を旅したとき、『俳優だからこうでなければならない』という暗黙のルールの下に自分を置いてしまい、自分がワクワクするようなことができなかった。30代を迎える手前で急に怖くなりました。それで、日本に戻ってきて自分の30歳の誕生日イベントをプロデュースしたことをきっかけに、イベントの仕事に声がかかるようになりました。それが、音楽フェス『ULTRA JAPAN』や、未来型花火エンターテイメント『STAR ISLAND」の成功につながります。だから大切なのは、一歩踏み出してみること。今の時代は、世の中がすでに出来上がっているように見てしまう。だから新しいことなんて自分にはできないんじゃないかって。でも、子供のころのように、ワクワクするものを見つけて、それに向かって自分の今の環境や枠から外れてみるのもいいのでは?予想外の出来事や多様な人との出会いで、IDはいっぱい作れますし、人は変わっていけます。特に(ひとつの企業に縛られることがスタンダードでなくなりつつある)いまの時代、そういったチャレンジもしやすいと思います」
<登壇者>
クリエイティブディレクター
小橋賢児氏


北村
小橋さんは、「大きな変化のチャンスをどうやってつかんできたのか?」という質問に、「大きな変化は一度にはできなくて場面場面のほんのちょっとした判断なんだよ」と答えていらっしゃいました。

おふたりは、どんなふうに、自分らしい仕事や新しいワクワクをつくり、領域を広げてきましたか?

しごとには、"使事" "仕事" "私事" "志事"の4段階がある


金山
僕は、しごとには、使事、仕事、私事、志事の4段階があると思っています。

一つ目のしごとは使われる事って書いて使事。二つ目は仕えること、俗にいう仕事。三つ目は私(わたくし)事。志(こころざし)の志事。

僕の場合の使事は、システムで動いている電通という会社の中で適応するジョブトレーニングでした。お酒を飲めるか、先輩の朝ごはんをしっかり覚えて毎朝届けられるか、電話がかかってきた時にベルが鳴る前に受話器をあげられるかとか、あらゆるところで使い倒されました。そうすると、興味のないこともやらされるので、自分は何か好きで、何が嫌で、嫌なんだけどうまくできちゃうことは何で、好きなんだけどうまくいかないことは何なのかがわかってくる。その上で、会社が期待することと自分のパフォーマンスのバランスがとれてくるとはじめて"仕"事ができる。"仕"事は、信頼形成の段階だと思います。

西野さんは、「お金の正体は信頼を変換すること。クラウドファンディングは信頼の現金化のATMだ」と言っていましたが、ほんとにそうだと思う。会社のシステムの中で信頼されていると信頼されている分だけ給料という形の定額保証をもらえるというのが会社の構造。でも、会社もそれだけだと縮小均衡していくから、ある程度信頼関係が醸成されてくると、『好きなことやってみなさい』と"私"事のチャンスが必ず巡ってくる。
自分が好きな事を企画して、予算が与えられて、必ず成功と失敗を繰り返す。そこまで培った使われる"使"事と仕える"仕"事の信頼の分だけ失敗するチャンスが与えられる感じでした。

"私"事で成功する領域・ポテンシャル・縁といったものが見えてくると、志で"志"事ができるように、自然と育っていくなと思っています。

長田

私は、「こういうのやってみよう」って飛び込んできました。
就活戦争が嫌になって海外にぷらっと行って戻ってきて仕事を始めたのが、たまたま米国の通信会社だった。そこしか入る場所がなかったから入ってみたらすごい人たちがいっぱいいて、「英語力もまだまだだし、何もできないじゃん」ところからスタートしていった。二社目もヨーロッパの携帯電話会社だったので研究者へのリスペクトが強い風潮の中、「広報部に行きなさい」って辞令が降りた。周囲には「この仕事はやりたいくない」って言った人もいたけれど、私は「こういうのもやってみよう」って思って飛び込んでみました。そこから数年後に、無名だったレッドブルのマーケティングにチャレンジしてみないかって声がかかって。通信業界から飲料業界への越境ってあまりない中での稀有なチャンスでした。戦略とかじゃなく、流れに任せて「どう?」って言われて「面白そうだからいく」。そして、「入ったらちゃんと自分のミッションとか面白さを追求しまくりますよ」という感じです。

金山
仕事ってプロセスであり続けるなって。旅になぞらえると、トリップやトラベルは目的型で、行って帰ってくることがパッケージングされている旅程って感じするんですけど、ジャーニーは行った先でどんな変化をして自分で決めてどうするか。仕事はトリップやトラベルではなく、ジャーニー的に捉えていろんな経験をしたり人と会ったり話したり自分の考えを反芻する中で、自分が成長したり新しい自分に気づいたり、人生の都合をシナリオ化してみるといいんじゃないかと思います。

会社が変わっても、転職はしていない


金山
僕のシナリオでは、電通は10年で退職して会社は変わっているけど転職したことは1回もない。「自分はこういうのやっていきたい、こういう機能が期待されている」とわかったときに、それがプロデューサーっていう仕事だった。得意でやりたくて、パフォーマンスも発揮できて広げていけると思ったときに、小林武史さんという、日本で有数のプロデューサーのもとに飛び込んだ。プロデューサーの道を極めてみたい、定義を高めていきたい、解像度を上げていきたいと思えたからそこに飛び込んだわけであって、職業を変えてはいないんです。

長田さんも、僕から見ると転職はしてなくて、会社は変わってるけど「本質を理解して、価値を魅力的に見せたり、見せることで実態をともなわせる事業家」。

冒頭の「自分の価値と届けるべきコミュニティの価値観を擦り合わせていく、呼応させていく」という話にもつながるのですが、シナリオライティングすることがとても大切だと思います。豊かさと幸せのところでも話したけど、言語化が本当に大事。行きたい会社に行く理由が仮に「報酬が高いから」といった目先のモチベーションだとしても、そこに自分の信念をシナリオライティグするとか。自分の価値は変わってないけど、提供する価値観の先が変わっただけだと言えたほうが人として芯があるように見える。そのほうが、いいポジションで自分の仕事ができる環境を作れるのではないかと思っていたりします。

長田
わたしも、どこの会社のマーケティング部長だとか、肩書きで仕事をするよりも、自分という人間が今まで何をしてきて、だから今ここで何かできるってことが大事かなと思っています。それから、自分の達成したいことだけを仕事で達成するというだけではなくて、自己実現と人に喜んでもらえることの喜びが、私の中では共存しているんですね。

自分以外の人、マーケティングの仕事の場合はそれはお客さんだったり社員だったりします。そういう人たちが喜んでくれたり、一緒に達成したり失敗もするプロセスでワクワクをつくっていっている気がします。プロセスができて、それがルーティン化すると、「自分はここじゃなくていいかも」「役割は終わった」と、次の自分が何かができるところにいってみようかな、というふうになります。

金山
まとめっぽくなってしまうけど、冒頭の長田さんの話が全ての答えになっているように思える。自己実現と人に喜んでもらえることが共存しているのって、研究者の仕事が成立している構造と一緒なのかな、と。
自分がワクワクするというところから始まる研究者の研究が、誰かしらの何かしらの価値観に連鎖する、失敗だろうが成功だろうが連鎖するって思われているから仕事になっているわけじゃないですか。どこにも連鎖しない研究って予算がつかないから。それが僕らもやっていることで、連鎖の仕組みを自分で認識して人に伝えられているかっていうことが大事だと思う。失敗しても価値あるよねっていうエクスキューズのもとにfeeをもらうのか、会社から給料をもらうのか、協賛をもらってやるのか。
アインシュタインは、ほとんど失敗してても「私は一回も失敗したことがない、うまくいかない方法を見つけただけだ」って言った。成功も失敗も、価値と価値観の連鎖のエコシステムの要素になっている環境をどうやって手に入れるかだと思うんですよね。それが仕事の本質だと思います。

北村
自分の好奇心やワクワク、挑戦に経済的価値を認めてもらって仕事にするって、とっても素晴らしいですね。自分の幸せをコミュニティの幸せに重ねる方法にもなりそうです。だけど、「できるものならそうしたい」と思えば誰でもすぐにできるものなのでしょうか。この問いを次回、追いかけてみたいと思います。
(2020/6/26 17:00-18:00 @online)

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to be continued to

vol.4  価値と価値観が交差する シゴトと社会と私の連鎖
vol.5  クリエイティビティを解放せよ
vol.6  ソーシャルイノベーションを呼び起こす
        「意味」を超える「意義」の力
vol.7  経済連鎖を超えて。これからの人間社会は「文化連鎖」でつながる
vol.8  ルールや規制は、感動を生む舞台装置。

構成:浅倉彩

OCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
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