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3.弱さの自覚がコミュニティを生み、異質性がコミュニティを強くする

この連載について
前回「幸せや豊かさは、自分の言葉で紡ぐもの」はこちら​

SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
「HOW -今を、これからを、どう生きるか- 」をグランドテーマにお届けします。
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北村
前回、幸せや豊かさの定義についてお話をする中で、個人の幸せとみんなの幸せを重ねることはできるのか?という問いが生まれました。金山さんが「とても難しい、まだできていない」と話されたこの問いを探るため、漠然とした「みんな」を「コミュニティ」に置き換えて、「個とコミュニティ」を掘り下げたいと思います。

まずは「個」について考えていきたいのですが、2018年のセッション「心の本質」で、下西風澄さんが人間の心の誕生についてお話されました。

心の本質 2018/9/16 15:50-16:40 @EDGEof
西洋の歴史では、「心」というものは単なる情緒的なものではなく、人間が理性によって世界を理解する主体性の機能として考られてきました。約2500年前に登場したソクラテスやプラトンといった哲学者は現在の「心」に相当するものを「魂=Psyche」と呼び、その意味を考えることから哲学をはじめます。これまで神様の思いのままであるとされてきた人間の心を、ソクラテスは「汝自身を知れ」つまり「自分で自分を知れ」と言って神の手から人間の手に取り戻そうとします。人間が心を所有すること、それは魅力的なことであると同時に危険なことであり、ここから人間の苦悩と不安の歴史がはじまりました。
<登壇者>
哲学者
下西風澄氏


北村
西洋では、哲学者によって確立された個を前提として、科学や民主主義といった様々な考え方が広がりました。一方の日本では、こころや個の概念が認められたのはごく最近のこと。明治維新前後、西洋の考え方や文化が否応なしに導入される過程で伝わってきたとされています。

長田さんと金山さんにとって「個」とは何ですか?
また日本人にとっての「こころ」のありようってどのようなものでしょう?

長田

バーチャル空間を通じて渋谷らしいコンテンツを配信する「バーチャル渋谷」という渋谷区公認プラットフォームを5月19日に始めたんですけど、バーチャル世界で自分を自由に表現できるとしたら、みんなどんな自分を出すんだろうと想像してみたんですね。リアルに存在しているそのままの自分なのか、全く違う人格にしたいと思うのか。今の自分に満足していればリアルと同じものを作るかもしれないし、不満を持っていたら全く違う自分を作り出すかもしれない。

今ある「自分自身」とは?自分の中にある「こころ」とは?そして「個」という存在は一体どんなものだろう?と自問自答しているうちに思い出したのが就職活動でした。今もそうですけど、みんな同じような服装で一斉に就職活動をするじゃないですか。私はそこにすごい疑問を持ったから、結局途中で辞めちゃって海外に行くことにしたんです。そうすると友人と一緒にいることが少なくなって「異質」な存在になりました。そのとき、日本人が「自分自身」を発揮することって難しいなって感じたんです。でも海外へ行くと今まで知らなかった文化や習慣が当たり前に存在してるんですよね。自分を縛っていたものから解放されると自由になれる、初めてそう感じられた経験だったなと。

金山

長田さんの話を聞いても思うのは、日本人は自分を抑えることが美徳とされてきたような気がするんですよね。会社でも無個性な状態で仕事をこなすことが求められて、自分の「欲」みたいなのを抑えさせられる。でも実は、みんな何かしらの欲を抱いていると思うんですよ。出世欲とか自己実現欲とか。

欲と素直に向き合っていいんだって気づいたとき、初めて「個」というものが顕在化してくる。欲望なのか、欲求なのか、自分の「欲」と向き合うと、「自分らしさ」みたいなものが導き出せるんじゃないかな。
だから僕にとって「個」は、人間の「欲」に近しい。そんな感覚があります。

長田
みんな欲を抱いているとして、自分の欲ってどうしたら周りに受け入れてもらえますかね。表現の仕方によって受け取られ方が変わるかも。

金山
「僕にはこんな欲があるんですよ」とストレートにいうとヤバい人に見えるかもしれないけど、「こういう夢があるんですよね」と言い換えると、ちょっとさわやかに聞こえて肯定されそうな気がしませんか。そのまま口にしてもうまく伝わらない可能性があるから、どういう言葉に置き換えられるんだっけ?って考える。僕は何かを人に伝えるとき、自分の考えに一番近い、シズル感ある言葉を真ん中に置いた上で、外とコミュニケーションをとるための類語を探すようにしています。

自分らしさは「欲」である。
これが僕にとって一番シズル感がある言葉なんですけど、それを人に理解してもらうために「夢」という言葉を使ったり、もうちょっと野心的なコミュニティでは「野望」と言ったりするかもしれない。日本社会で個を主張するには、自分の欲の伝え方を工夫することが必要なのかなと思います。

弱さから欲が生まれ、コミュニティをつくる


北村
「個」と対になる「コミュニティ」はどうでしょうか。
2018年「コミュニティの本質」というセッションで、サイクリングブランドRapha Japanの矢野大介さんは、コミュニティ作りにおいて大切なことが3つあると仰っていました。

コミュニティの本質 2018/9/15 13:30-14:20 @EDGEof
「ひとつはBHAG -Big Hairy Audacious Goals-。大きく困難で大胆な目標を意味するビジネス用語で、時代を超える企業は、とてつもなく大きな目標を持つということです。そして、コンセプトとして“クラブハウス”。直営店は商品を売る場所ではありますが、サイクリストの居場所であり、情報交換の場です。最後に“仲間”。例えば女性だけで100kmを走破するプロジェクトを全国で行っています。他のスポーツと異なるのは、長い距離を移動すること。“旅”の要素があるため、非常に繋がりも強い」
<登壇者>
ラファジャパン代表
矢野大介氏

北村
お二人が考えるコミュニティはどのようなものですか。

金山
語弊が生じるかもしれませんが、コミュニティは「弱さ」の象徴と言えるのではないかと考えています。一人では果たせない何かがあるから仲間を集める。自分の弱さや儚さ、力の及ばなさを自覚するからこそ、強くなりたいという個人の「欲」が出てコミュニティが生まれる。集まった仲間がいるから矢野大介さんが言うような大きなビジョンを描くことができ、仲間と一緒にビジョンを描くことがポジティブな力となってまたコミュニティを動かしていくんだと思います。

特に今は膨大な情報が入ってくるから、手の届かないと思っていた人が意外と近くにいることを知って、自分は小さな存在であると認識させられる社会でもあるなって思うんですよね。自分の学べる量や使える時間に対して情報が多すぎる。そうすると1人じゃなんともならないから2人、3人、4人と仲間を増やしていく。集まることによって相対的な弱さは緩和していくんじゃないかな。

北村

弱さというと、2018年「ソーシャルデザインの本質」のセッションで、弱さから生まれるイノベーションについてのお話がありました。世界ゆるスポーツ協会の代表理事である澤田さんは、「500歩しか歩けないサッカー」など、誰もが楽しめる新スポーツを提案されました。

ソーシャルデザインの本質 2018/9/17 13:20-14:40 @表参道ヒルズ
「一人500歩しかあるけないサッカー」では、競技者は万歩計のような装置をつけ、1歩走ったら数字が減り、3秒止まっていたら1歩分回復するというルールのもとサッカーを行います。実は、この新スポーツはペースメーカーをつけた男の子のアイデアから生まれたもの。ほかに、車椅子ユーザーなど障がい者の方と一緒に開発したものも多い。僕は運動音痴というのもあり、弱さを起点にしたイノベーションを考えています。その弱みにどういう光をあてると強くなるか。そこで生まれる新しい価値を提案しています。
<登壇者>
NTTサービスエボリューション研究所/主任研究員
デザインイノベーションコンソーシアム/フェロー 
木村 篤信氏

世界ゆるスポーツ協会
代表 澤田 智洋氏

グリー株式会社、グリービジネスオペレーションズ株式会社
代表取締役社長 福田 智史氏


北村
弱みにフォーカスすることの価値や意義について、長田さんと金山さんの考えをお聞かせください。

長田
自分の弱みは強みになるときがあるなと思っています。例えば専門外のミーティングに参加したとき「全然知識もないしわからないことも多いけど、自分はこう思います」と言えることが凝り固まったアイディアから脱出する突破口になるんじゃないかなと。ただ参加するんじゃなくて自ら踏み込んでみる。そうすると、今まで弱みだと思っていたところが強みへと逆転するんじゃないかなって思いますね。

金山
僕が最近新しく取り組みたいことの一つに、子どもたちの教育があります。小学生で中学受験組と非受験組に別れるとき、受験組と非受験組のコミュニティの分断が生じるってよく聞くんですね。受験する子たちは基本的には勉強して頭がよくなっていくというレールに乗っかっていて、お金もかかるからある程度裕福な家庭の子であると分類されることが多い。一方で受験しない子は勉強が苦手か嫌いで、家庭にそこまで経済的な余裕がないみたいな、なんとなくネガティブなイメージがあるわけですよね。

でも受験をしない子たちは、受験しない分時間に余裕がある。勉強だけではない、想像力、感性、好奇心などを育める学びの機会が提供されていれば、受験という王道レールに乗らなくてもユニークに育っていけるんじゃないかなと思うんです。非受験組の子どもたちが、渋谷区を代表する「違いを力に変える子どもたちクラスター」みたいになれるような学びのデザインができたら面白いなと考えています。新子さんの例のように、踏み込むことで意図的に弱みを強みに変えることができる子たちを育てるんです。

異質性がコミュニティを強くおもしろくする


北村

「個」のありようから「異質」や「欲」という言葉が出てきたり、「コミュニティ」という概念から「弱さ」というキーワードが出てきました。続いて、弱さから始まったコミュニティで、異質性や欲を認め、互いの個や個を尊重しながらみんなの幸せをつくるためのヒントを探っていきたいと思います。
ここでセッションを二つ紹介します。

異なる価値との出会い〜ソーシャルマドラーのススメ〜
               2019/9/16 15:45-16:30 @渋谷ヒカリエ
市役所のサービス、あるいは市役所に対する市民のニーズなどを調査しながら、新しい街づくりのあり方を研究してきました。住みよい街を実現するためのキーワードとして挙げたいのが「ソーシャルマドラー」という言葉です。シャイな市民をはじめ、街に住む人たちの全体的なニーズ、多様な価値をすくい上げるために、飲み物を攪拌するマドラーのような存在が社会に必要です。東京大学のなかで試験的に実施している「リビングラボ」では、文理の枠を超えた大学の研究者、関係する地自治体が集まって、一つも問題について“かき混ぜ”ながら、議論、実験を重ねています。そうすることで、それぞれにとって本当の課題が見え、またその解決方法も具体的に見えてきます。
<登壇>
東京大学先端科学技術研究センター 地域協創リビングラボ
特任助教 近藤早映氏


北村
メディア美学者の武邑光裕さんは、ベルリンの最新事例について紹介してくださいました。

社会彫刻:ベルリンからの未来
             2019/9/15 13:00~13:45 @渋谷ヒカリエ

いまベルリンにはさまざまな変化が巻き起こり、ミレニアル世代からもっとも高い支持を獲得しています。数多くのスタートアップが拠点を持ち、大企業や自治体主導のイノベーションハブも次々と生まれ、大企業や政府との共創のチャンスに溢れる街になっています。コワーキングスペースはもちろん、カフェや商店街など、コミュニティが生まれ得る施設も増えています。ベルリンの壁崩壊から30年経ちます。壁崩壊後は荒廃地だったため、スコッター(不法占拠者)がベルリンにやってきた。ホワイトハッカー、アーティスト、テクノDJ、デジタルボヘミアン、コピーキャット、ネオヒッピー……同質社会ではなく“異質性”社会が誕生していったのです。
<登壇>
メディア美学者/武邑塾塾長
武邑光裕

北村
長田さんと金山さんはコミュニティに異質性が必要だとお考えですか?

金山
弱さで集まったコミュニティが強くなっていくためには、定期的か、意図的か、偶発的か、一切のものを受け入れる姿勢が必要だと思います。異質だと思えることも受け入れ、変化・対応し続けることでコミュニティは縮小均衡せず、次のステージにいける可能性が見えてくるんじゃないかと思います。

長田
異質な存在が生きていける社会になれたら面白いなと思います。以前勤めていた会社にDJという職種があったんです。まさにイベントカーに乗ってDJをするのが仕事なんですよ。そういう職種があることにまずびっくりしたんですけど、自分にとっての異質な存在や状況を面白がって受け入れるようになると、ハプニングにも強くなれる。異質どうしがいかに共存できるか、いっそ楽しんだほうがいいだろうなって思います。

信頼関係をつくるキーワードは「人脈」じゃない「縁」


北村
これまで様々なプロジェクトを手がけてきたお二人ですが、コミュニティを作るときに、人々とどのような信頼関係を築いていきますか。信頼関係を築くための軸があればお伺いしたいです。

長田
私の信頼の軸は、長田新子という一人の人間として付き合ってくれる人かどうかだと思います。レッドブルに勤めていたとき、はじめは無名の会社だったから全然話を聞いてくれない人とかいたんですけど、有名になってからは“レッドブルの長田さん”に会いにくる人がいました。大企業に勤めているとか、誰かとの人脈を持っているからとか、目先の利益や肩書きに影響されて動く人とは会社を辞めた途端にパッと繋がりが切れちゃう。だから自分がどんな状態にいても一緒にビジョンや夢を描ける人と仕事をしたいなと思っていますね。

金山
僕は最近、人との出会いを人脈と言わず「縁」と言うようにしています。
「いい人脈ができた」ではなく「いいご縁にめぐりあえた」。そう思えるかどうかが信頼関係を築く上で大事です。人脈か縁かは、相手が心で動いているかどうかで違いが出てくるんじゃないかなと思っています。

なぜ「縁」という言葉を使っているかというと、人脈ってほぼ金脈と同義だと思っていて、金脈が切れたら困るから媚びたり同調したりすると思うんです。でも音楽業界で働いていたときに、ミュージシャンやプロデューサーが本気で喧嘩している様子を見て、これは信頼関係があるからこそできることだな、この人たちは相手とお金だけの繋がりではなく、心で向き合っているご縁で繋がっているんだと思いました。縁があると人との関係性は簡単に壊れないし、次の縁へと繋げてくれます。

北村
縁起という言葉は、英語でDependent co-arisingと言います。co-arisingは互いに起き上がるという意味で、お二人が仰っているのはまさにそういう感じがありますね。
欲を見つめることで弱さに気づき、弱さや異質性を認め合うことで生まれた打算や上下関係のないコミュニティでは、ひとりひとりが個として存在しながら信頼関係を築き、互いに起き上がれるんだ。お二人の話を聞いてそう思いました。

最後の質問になりますが、SOCIAL INNOVATION WEEKを企画する渋谷未来デザインというコミュニティが果たす役割についてどう考えていますか。

長田

私ほんとうは哲学的なことあまり得意じゃないんです。考えすぎちゃう上に、考えても答えが導き出せないことが多いから。しかもインターネットで簡単に情報が得られる今の時代は、考えなくても過ごせていけることがおおいにある。でもSOCIAL INNOVATION WEEKでは、ひたすら考えさせられるんですよね。考えることを続けていくと、瞬間的に思いつかなかった新しいアイディアが導き出されることがあるんです。参加する方々には、SOCIAL INNOVATION WEEKを真剣に考えるきっかけにしてもらえるといいなと思っています。

金山

SOCIAL INNOVATION WEEKは、まさに今日話した「弱さ」から学べるコンテンツに溢れていると思います。異質なものを取り入れてみたり、今まで学んだことを一度否定してみたりを繰り返す。こうした弱さの認知によって、SOCIAL INNOVATION WEEKというコミュニティ自体が強くなっていくのではないかと思います。

北村
ありがとうございます。次回は、コミュニティと並んで、自分の幸せとみんなの幸せを重ねる方法になり得るかもしれない「しごと」をテーマに話していきたいと思います。
(2020/7/10 17:00-18:00 @online)


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to be continued to

vol.4  価値と価値観が交差する シゴトと社会と私の連鎖
vol.5  クリエイティビティを解放せよ
vol.6  ソーシャルイノベーションを呼び起こす
        「意味」を超える「意義」の力
vol.7  経済連鎖を超えて。これからの人間社会は「文化連鎖」でつながる
vol.8  ルールや規制は、感動を生む舞台装置。

構成・浅倉彩

SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA2020 は2020.11.7-15に開催。
経営者・社会事業家・クリエーターなど各界のキーマンがセッション。
会場観覧とオンライン視聴が30カンファレンスすべて無料。
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