挫けた時にはいつも「募金後の男の子の誇らしげな背中」がパワーをくれる
『子供たちの人生の軌跡は、大人にとってはたいして重要でもないように見える些細な物事から変わりはじめる』
これは昔読んだ教育に関する本に書いてあった、僕の大好きな言葉だ。
でもこの言葉はきっと小さな子どもだけでなく、僕たち大人にも当てはまるものなんじゃないかと思う。
周りにとってはたいして重要でもないように見える些細な出来事が、長く自分の心を元気づけてくれるエンジンになることだってある。
そんな経験が僕にもあった。
挫けそうな時に思い出すのは「小さな出来事」
僕は教育に関わる仕事をしている。子どもだけでなく、様々分野の方と接する機会が多い仕事だ。日本の教育を少しでも良くしようと頑張っているが、上手く行かないことが多くて挫けそうになることも多い。
そんな時、自分を奮い立たせるためによく思い出すエピソードがある。
それは大きなプロジェクトに参加して、大勢の人に影響を与えるような仕事を成し遂げた時のことではない。
教育現場の視察のために、海外まで足を運ぶような貴重な体験をさせてもらった時のことでもない。
それは学生の頃に体験した、周りから見たらなんてこともない、子どもとのほんの些細な出来事。
でもこの時に感じた、
「あーそうか。僕はこういう仕事をしていたいんだな」
という感覚は、ずっと忘れられない。何度思い出しても僕に力をくれる。
男の子の募金が周りの大人を動かした
大学3年生の冬。場所は「味の素スタジアム」。
当時やっていたアルバイトの関係で、サッカーの試合のキックオフ前に、東日本大震災で被災した方々への募金をお願いする活動の手伝いをしていた。
12月の冷え込みの中、スタジアムのコンコースでコートを着て震えながら
「被災地復興のための募金に、是非ご協力をお願いします」
と前を通る人たちに何度も声をかけていたが、中々募金をしてもらうことはできなかった。
するとそこへ小学校低学年くらいの男の子が1人、急に僕の目の前に現れた。
自分が応援するチームのユニフォームを少し大きめに着こなしているその子は、募金をしている場所の隣にある売店の長い行列に並ぶのに飽きたのか、一緒にいた母親からこっそり離れて暇をつぶしにきたみたいだ。
その子は僕の目をじっと見つめると、ぶっきらぼうにこう尋ねてきた。
「ねえ、これ何やってるの?」
まさか子どもから急にこんな質問をされるとは思っていなかったので、なんて答えようか迷ったけれど、サッカー観戦に来ているということは、この子もきっとサッカーをしているだろうと思ったのでこう答えた。
「これはね、被災地の子どもたちがキミと同じようにサッカーができるようにって、みんなで応援してるんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
その子は興味なさげな反応をして後ろを向くと、お母さんの所に戻っていってしまった。
「上手く伝えられなかったかな」
自分の不甲斐なさに少しがっかりしながらも、その子をしばらく目で追っていたら、列に並ぶお母さんに何かを一生懸命伝えているのが見えた。
「ママ、お金ちょうだい。ボク募金したいんだ」
そう言ってお母さんにいきさつを説明し小銭を受け取ると、小さな手でそれを握りしめて僕の前に戻ってきた。
そして、ちょっと恥ずかしげに募金箱にお金を入れると、その箱に貼られた被災地の子どもたちの写真を指さしてこう言った。
「みんなにさ、一緒にサッカー頑張ろうねって伝えてね」
そう言い残してお母さんのところへ小走りで帰っていく男の子の背中は、なんだかとても誇らしげで、カッコよく見えた。
すると、その様子を見ていた周りの大人たちが、「俺も」「私も」と、どんどん集まってきて募金に協力をしてくれた。
どうやらその男の子の背中がカッコよく見えていたのは、僕だけではなかったらしい。
僕の言葉を聞いた男の子の小さな変化が、周りにいる大人たちにも大きな影響の輪を広げたこの瞬間、なんだか心がじわっとして、目の前がパァーッと開けるような、言葉ではなんとも表現できない感覚が身体をかけめぐった。
「あーそうか。僕はこういう仕事をしていたいんだな」
子どもの小さな行動が、周りの人にもポジティブな変化を与える。どんな形であれ、そんな影響の輪を広げるのを助けるような仕事をしていたいなと、その時心の底から思ったのを覚えている。
些細な出来事からパワーをもらってもいいじゃない
このエピソードを頭で思い出すたびに、この時の感覚が瞬時によみがえる。
そしてこの感覚は、何度思い出しても、僕に明日また頑張るための元気と活力を与えてくれる。
周りから見たらきっと、僕に影響を与えるような大きな出来事は他にもたくさんあったと思う。
でも何故か、僕の頭に深く刻まれてるのはこの男の子との、ほんの小さなエピソードだ。
あなたに影響を与えた出来事はなんですか?
そう聞かれると、何だかすごく大きな話じゃないといけないような気もしたりする。
でも自分にとって忘れられない瞬間や、元気を与えてくれるエピソードって、こんなふうに意外と「小さな出来事」だったりするんじゃないだろうか。
だから僕はこれからも堂々と、この男の子とのエピソードから、何度でもパワーをもらい続けようと思う。
だって、些細な出来事から人生の軌跡が変わることがあるのは、決して小さな子どもだけじゃないんだから。
読んでくださりありがとうございました😊 ほんの1ミリでも良いので、あなたの行動や考えに影響があれば嬉しいです。