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フレイル予防にはたんぱく質だけじゃなかった!(執筆論文紹介)

私が栄養疫学の研究者として活動をしていた期間に執筆した9報の論文の内容を紹介する「執筆論文紹介」のシリーズ。前回はこちらのnoteで紹介しました。

「日本人高齢女性でたんぱく質摂取量が多い人はフレイル有病率が低い」という結果が得られた論文です(文献1)。この論文、けっこう反響があって、その後「高齢者はたんぱく質を積極的に摂取したほうがよい」といったことを主張するエビデンスとして、様々な場面で使われたんですよ。

ですが、フレイルを予防するためには、たんぱく質だけに注目するのではなく、もっと効果的な食事法があるかもしれないんです。実は研究にはこの続きがあります(文献2)。その続きの研究ではどんな食事をおススメしているのか、研究結果の論文を見ていきましょう。論文のタイトルは「高たんぱく質で抗酸化力の高い食事が日本人高齢女性のフレイル罹患率の低さと強く関わっている」です。

なお、この論文はこちらのページで公開されており、すべての人が無料で読むことができます。



●得られた知見

この論文で得られた結論は以下のとおりです

  • 日本人高齢女性では、たんぱく質摂取量と食事の抗酸化の指標(食事TAC)がそれぞれ高い群でフレイルの割合が低く、この結果は互いに独立していました。

  • 高たんぱく質かつ高食事TACの群では、たんぱく質または食事TAC単独が高い群よりも、フレイルの人の割合がさらに低くなっていました。

  • たんぱく質だけに注目するのではなく、お菓子や清涼飲料水を少なめにし、果物、野菜、豆、魚介、緑茶、コーヒーを多めに摂取することは、フレイルの予防に効果的である可能性が示唆されました。


●背景:なぜたんぱく質だけでなく食事の抗酸化に注目したの?

フレイルが高齢者に見られる、介護予防のために防ぎたい病態であることは、前回の論文紹介の記事で解説しました。これにはたんぱく質の摂取不足が関与していると推測されていて、実際に私の過去の研究でもたんぱく質摂取量が多い人ほどフレイルの人が少ないことが示されました(文献1)。

一方で、私の別の研究では、食事に含まれる抗酸化栄養素全体の抗酸化力の指標である「食事由来全抗酸化能(食事TAC)」が高い人で、フレイルの人の割合が少ないという結果が示されていました(文献3)。欧米の研究ではビタミンEやビタミンCといった抗酸化栄養素の摂取が多い人でフレイルの人が少ないといったことが言われていて(文献4, 5)、これらの研究結果と類似の結果が出ていたんですよね。けれども、たんぱく質や食事TACがそれぞれ単独で影響を与えているのか、それとも他方の影響の代理指標になっているのか、といったことが十分には検討されていなかったんです。それに、食事中のたんぱく質含量と食事TACの両方が高い食事がフレイルとさらに強く関連するのかどうかも検討されていませんでした。そこで、たんぱく質や食事TACとフレイルとの関連を、他方の食事変数の影響を取り除くという統計学的な手法を使って、それぞれ独立に検討しました。さらに、たんぱく質摂取量と食事TACの組合せとフレイルとの関連を検討し、それぞれ単独の場合に比べて、関連が強まるかどうかを検討したんです。

●研究方法:どんな人にどうやって質問に回答してもらったの?

この研究の対象者となったのは(この研究で調査に回答した人たちは)、前回のnoteで説明した人たちと同じです。日本国内85校の栄養関連学科に通う学生とその母親および祖母が参加して行われた研究の、祖母世代の参加者です。このうちデータに欠損のあった人、歩けない人、たんぱく質摂取制限を受けている可能性のある人などを除外し、解析対象者は65~94歳の女性2108人となりました。対象者の食事摂取量は、過去1か月に食べたものを尋ねた質問票から推定しました。食事TACの指標も、この質問票の回答から計算しました。フレイルの判定は、主に生活習慣質問票から、身体機能の低下、疲れやすさ、低身体活動量、意図しない体重減少などを評価して5点満点のスコアを算出し、3点以上になった人を「フレイルあり」としています。対象者をたんぱく質摂取量に従って、低い群から高い群の3群に分け、各群でフレイルなしの人に対するフレイルありの人の割合を、たんぱく質摂取量の最も低い群を基準にして算出しました(オッズ比)。同じことを食事TACでも行いました。また、たんぱく質摂取量および食事TACの3群ずつの組合せ(3×3群)により9群に分け、両方が最も低い群(P1A1群)を基準にした各群のフレイルの人のオッズ比も算出しました。

●結果:たんぱく質が多くて食事TACが高い人は特にフレイル有病率が低い

対象者のうち481人(22.8%)がフレイルありと判定されました。たんぱく質および食事TACとフレイルの関連を、他方の食事変数の影響を取り除いて独立に検討したところ、どちらも値が高いほど、フレイルの人の割合が低くなっていました(図1)。

図1. たんぱく質および食事TACとフレイルの関連

たんぱく質摂取量と食事TACの組合せで検討した結果、両方が最も低い組合せのP1A1群に対して、最も高い組合せのP3A3群のフレイルのオッズ比は、たんぱく質および食事TAC単独との関連よりも強く認められました(図2)。

図2. たんぱく質および食事TACの組合せとフレイルの関連

P1A1群とP3A3群の食事を比較すると、P3A3群はP1A1群に比べて菓子や清涼飲料水の摂取量が少なく、果物、野菜、豆、魚介、緑茶、コーヒーの摂取量が多くなっていました(図3)。

図3. P3A3群の食事摂取量(P1A1群=100%の場合)


●考察:たんぱく質だけでなく野菜、果物なども!

この研究で、たんぱく質摂取量も食事TACも、互いに独立して、値が高い群でフレイルの人の割合が低く、さらにたんぱく質摂取量と食事TACの両方が高い食事の場合、その影響はさらに強く認められることが明らかになりました。たんぱく質の摂取だけでなく、抗酸化栄養素を多く含む食品も意識して摂取することで、効果的にフレイルを予防できるかもしれません。

●まとめ

たんぱく質摂取量が高く、同時に抗酸化栄養素を多く含む食事をとっている日本人高齢女性の集団で、フレイルの割合が低いことが明らかになりました。果物、野菜、豆、魚介、緑茶、コーヒーなどの摂取を増やし、菓子や清涼飲料水の摂取を減らすことは、日本人高齢女性のフレイル予防に効果的な食習慣である可能性が考えられます。自身の好みや地域の習慣などに合わせて食事中のたんぱく質と抗酸化栄養素の摂取を同時に高めることによって、フレイルを効果的に予防できる可能性が考えられます。たんぱく質だけに注目するのではなく、様々な食品から食事を摂取することの大切さも、この研究では伝えているのかもしれません。

とはいえ、たったひとつの研究で結論を下すことはできません。フレイルを予防するための食事の量やその食べ方(タイミング)などを明らかにするためには、さらなる研究が必要になります。この研究ひとつに固執せずに、他の研究結果も参考にしながら、日々の食事を考えてみてください。

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【参考文献】
1. Kobayashi S, et al. Nutr J 2013; 12: 164.
2. Kobayashi S, et al. Nutr J 2017; 16: 29.
3. Kobayashi S, et al. J Nutr Health Aging 2014; 18: 827-39.
4. Bartali B, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2006; 61: 589-93.
5. Kaiser MJ, et al. Aging Male 2009; 12: 87-94.


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