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意外と大変でむずかしい!食事を「はかる」食事調査法の種類と特徴

私が専門にしているのは「栄養疫学」という分野です。栄養素や食品の摂取状況などの食事に関わることを扱っている疫学のことです。

栄養疫学研究では、どんな栄養素や食品どのくらい食べている人が健康状態がよいか、病気になりやすいかを調べるのですから、食事摂取量をはかる測定する)ことが必要です。人が食べているものを測定することを「食事調査」といいます。栄養疫学研究では、たくさんの食べているものを、食事調査を行って調べるわけですが、これがけっこう難しい。そして、得られた食事の摂取量は、そのままの値ではなく補正して使う必要があります。その補正の方法と使い方は専門家向けに以下のnoteで説明したところです。

食事調査がどうして難しいのか、どうしてそのままの値を使ってはいけないのか?というと…。それは、食事というもの、そして調査で測定した食事摂取量の「特徴」のせいなんです。その特徴とはどういうものなのか、そもそも食事調査ってどうやってするのか、食事調査にまつわる色々を、何回かにわけてお伝えできたらと思います。このnoteではまず、食事調査の種類と特徴を説明していきますね。



●食事調査法の種類

食事調査法には、大きく分けて3つの方法があります(文献1)。それを図示したのが以下です。

図1. 食事調査法の種類と特徴

それぞれ説明していきますね。

●ある日実際に食べたものを記録する方法

最初は、図1の一番左の方法です。1日や数日間の食事の内容を、細かく数値化する方法になります。

◇食事記録法

対象者の方に秤を使ってもらって、実際に食べた食材の重量を量ってもらうのが食事記録法です。「みそ汁」などの料理名だけでは不十分で、中に入っている食材が豆腐なのか、わかめなのか、そしてそれが何グラムなのか、食材名と重量が必要になります。しかも料理を作るときではなくて、対象者さんが実際に摂取した量がほしいのです。食器によそってから測定すればわりと正確なんでしょうが、そうなると、みそなどの調味料はわからないですよね…。その場合には調理の途中ではかっておき、食べるときに全体量のうちの8分の1ほど食べた…などと計算して量を記録します。

研究や調査では「実現可能性」も考えないといけません。無理して普段と違う食事になってしまっては、せっかくの調査が意味ないわけです。そのために、理想的には全部秤量してもらう「秤量法」にしたいところですが、実現可能性を考えて、秤でははからずに感覚的な大きさや重さ、既製品であればラベルに書かれている食材や重量を転記する「非秤量法」にすることもあります。実際の私たちの調査では、できるだけ秤量して、できないところは非秤量にする、という「半秤量法」をとることが多かったです。

食事記録をとるのが大変、という話は、以前FOOCOMでも紹介しました。

◇思い出し法

栄養士さんなどの調査員が、対象者の方の前日に食べたものを聞き取って、食材ごとに数値化するのが思い出し法です。対象者さんにとっては若干負担が減る場合もありますが、調査員がうまく聞き取らなければ実際の食材と量がわかりません。フードモデルや写真を使って量をたずねることもあるそうです。そして、国によってはこの「思い出し法」を実施するためのマニュアルがしっかり整備されていると聞いたことがありますが、日本には広く一般的に使われているようなマニュアルはなく、あまり実施されていないような印象があります。

◇特徴

これらの方法の場合、実際に食べた食材の詳細な情報がわかりますが、対象者の方が秤を使ったり、栄養士さんが細かく聞き取った情報や対象者さんの記録した情報から摂取量を推定したりしなければならないため実施は本当に大変です。そういうわけで、数日間実施するのがやっとです。対象者さんも、調査員も両方大変で、負担大です。図1の、正確さは「詳しい」ものの、日数は数日間がやっとで、負担が大、というのはそういう意味です。

●質問票により食習慣を回答する方法

次は図1の中央の方法で、質問票を使う方法です。

◇食物摂取頻度法

対象者さんが過去1か月とか1年などの長期間に、どの食材をどのくらいの頻度で食べたのかを質問票で答える方法を、食物摂取頻度法といいます。「たまご」なら「毎日1回」なのか「週に2~3回」なのか、食材ごとに摂取の頻度の選択肢が用意されていて、それに回答していくのです。

◇食事歴法

食材の頻度に加えて、各食材の調理法や、朝食は毎日食べるかといったその他の食習慣も合わせてたずねる方法を食事歴法といいます。

食物摂取頻度法と食事歴法の質問票の違いは少しあいまいな感じがします。食物摂取頻度法と名乗っている質問票であっても、食習慣のこともたずねている場合はあるからです。この2つの質問票の違いはあまり深く考えないでください。

そして、実際の質問票はどんな感じなのか、以前のFOOCOMコラムで説明しています。

◇特徴

これらの方法の長所は、長期間の食習慣が分かることです。それに、たくさんの人に一度に調査することができますし、時間と労力が少なくてすみます。一方で短所は、食事記録法などに比べると、実際に食べたものを正しくはかれているとはいいがたいことです。質問票の回答は対象者の方の漠然とした記憶に依存します。過去1か月に食べたものといっても、正確な回答はしにくいですよね。それに、得られた結果は質問票で尋ねられている食材の結果のみで、ほかに食べているものがあっても分かりません。そういうことから、図1の、正確さは「少しあいまい」なんですが、日数としては1か月から1年くらいの長期の食習慣がわかり、記録や測定といったわずらわしさはなく、負担が少ない方法になります。とはいえ、使った質問票の精度を評価するための「妥当性研究」をあらかじめ実施しておかなければならず、その準備が大変です。妥当性研究のことはまた書きます!

●化学分析を活用する方法

最後は図1の右の方法で、化学分析を行う方法です。自分で記録したり回答したりするよりも、客観的で正確な分析値が得られます。

◇陰膳法

食べるために準備された料理をそのまま提出してもらい、化学分析をする方法が陰膳法(かげぜんほう)です。実際には、食べる予定のものと内容も量も全く同じものを2つ作ってもらい、1つを食べてもらい、残りの1つを分析に用います。食事量やそこに含まれる栄養素を非常に正確に調べることができます。とはいえ、普段ならこういうときには残り物をちょっと食べる、といった場合は調査できず(常に2人分用意しないといけないので…)、活用の場面は限られます。

◇生体指標

血液や尿などの生体から得られる試料中に存在する、栄養素や食品の摂取量の指標となる物質のことを生体指標といい、それを測定することで、摂取した食事の測定のかわりとすることがあります。試料には栄養素そのものや、その代謝物が含まれていて、それらを測定することで、注目している栄養素や食品の摂取状況を調べることができます。ただし、測定できる栄養素は限られますし、栄養素が吸収や代謝を通して変化したりすると、食べた量そのものを測定することはできません。

◇特徴

これらの方法には対象者の記憶には依存しない分析値を得られるという長所があります。けれども、分析には高額な費用がかかりますし、試料を集めるときには対象者にも負担がかかります。 長期間の調査は不可能です。活用の場面は限られていて、たとえば食品中の汚染物質を調べる場合などには使われます。一方、食べたあと体の中で完全に分解してしまうような栄養素の場合は測定できません。図1で、正確さは「限られた物質のみ正確」で、日数としては数日しかできないこと、そして負担としては対象者に採取してもらう負担に加えて、予算が重くのしかかる、という説明になっているのはそのためです。

●まとめ

栄養疫学研究は、食事摂取量をはかる(測定する)ことから始まります。その方法である食事調査法には大きく3種類あり、今回はそれぞれの特徴を紹介しました。これらを理解して、調査や研究を実施するときに使い分けることが必要になってきます。

どの食事調査を実施しても食事摂取量が得られることになるわけですが、さて、それをどう使っていくか、そしてそのときの注意点は、といったことはまた紹介していきます!

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【参考文献】
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2020年版. 2019.


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