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時のすきま…

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小説です。 すべてフィクションです。 実在の人物・団体・場所や出来事とは一切関係ありません。
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2018年2月の記事一覧

『本日、酉の刻…』

第64話

——恋とは、実に煩わしい。
ウルカの冷たい声がイヌイの元に届いた。
彼はウルカの起こした風圧に目を細めながら、光帷を張り、大きな四翅を広げ、姿の見えなくなったウルカの後を追った。
——だが君は、その煩わしさを心の底では求めていたのではないのか…?——
とイヌイは答えた。
——あの子が無邪気に君を想い、ときめきに胸を躍らせているその感情を、君はおのれの心の動きのように感じていたのではない

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『本日、酉の刻…』

第63話
はっと気がついた時には、瑠珈はその小さな社の前に立っていた。
辺りは夕暮れだったが、先ほど大学の構内にいた時といくらも経っていないようだ。
確か大きな鵺と会う前はこの社の中に入ったような気がしたが、今立っている場所は社の正面の扉の前だった。
何が起こったのか、しばらく瑠珈は理解できなかった。
ゆっくりと色々思い出した。瀑の鱗の欠片がきっと、この社の境内のその外側のどこかにあるはずだ。

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『本日、酉の刻…』

第62話

その鵺は今までの鵺とは異なり、とても落ち着いていて、威厳のようなものを感じさせた。
この大きさは、瑠珈がこの鵺に怖れを感じているから大きくなったのではなかった。
瑠珈はこの大きい鵺を前にして一片の恐怖も感じなかったからだ。
大きい鵺は近くにやってきた瑠珈を見下ろすと、ゆっくりと身を屈めて小さな瑠珈に視線を合わせた。
鵺は、松明の明かりを下方から浴び、より一層迫力のある姿に見えた。
——

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『本日、酉の刻…』

第61話

「なんでまた、いつもウルカに会いたいって心から思うたびに、一番会いたくない鵺たちがやってくるの?」
と、瑠珈は目の前に降り立った3羽の鵺を見て泣きたくなった。
どこかに逃げなければ…と一瞬思ったものの、そんな時間はまったくなかった。
瑠珈の通う大学は、裏山、瑠珈が初めてウルカと出会ったかつての月出城址に近い。
今はもうずっと以前のように感じるが、裏山に近い瑠珈の大学はすぐに鵺たちに見つ

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