ZARAは思い出のドバイの香りがした
長らくつわりと闘っている妻。
今日は調子が良いようで、妻の希望で久しぶりに近場へ外出することにした。
夏に向けて白いブラウスが欲しいようだ。
立ち寄ったのはモールの一角にあるZARA。
そこで僕たちは稲妻のように記憶を呼び起こされる体験をした。
それは、店内に足を踏み入れようとしたときに起こった。
((これは、ドバイの香りだ!!!!))
僕たちは、驚きの表情でお互いの顔を見合わせた。
新婚旅行はドバイだった。
旅行が大好きな僕たちだが、コロナの影響で数年間は海外旅行を自粛していた。
満を持しての海外旅行。さらには新婚旅行。思い出に残らないはずがなかった。
二週間、ドバイを楽しみつくした。
憧れだったエレガントなエミレーツ航空で空の旅を満喫し、巨大な迷路のようなドバイモールで買い物を楽しみ、ブルジュハリファとドバイファウンテンで豪華絢爛な噴水ショーを眺め、ターバンを巻いてラクダに乗り、砂漠の丘陵でサンドサーフィンをして、ファイヤーダンスを見ながらアラブ式BBQをほおばり、高級なバーガーとスライダーの値段の高さに目を丸くし、ルールが厳しい地下鉄にビビり、スークで煌びやかなゴールドを観覧し、シェイク・ザーイド・グランド・モスクの荘厳さに心を奪われ、アクアベンチャー・ウォーターパークで子どものようにはしゃいだ。
ドバイの景色、匂い、食べ物、暑さ、出会った人たち。
楽しく幸せな思い出が、色鮮やかに身体に染み込んでいる。
厳粛で、神聖で、冷ややかで、官能的で、甘い。
”ドバイの香り”を無理やり表現してみると、こうなる。
ZARA店内に漂う香りに触れたときから、脳内にはすでに美しいアザーン(Adhan)が再生されていた。
この香りがどうしても欲しくなった僕は、足早に香水コーナーへ向かった。
ZARAはメンズ、ウィメンズ、キッズの3区画に分かれているが、香水が置かれているのはメンズとウィメンズのみ。
片っ端からテスターの香水瓶を手にとっては、ドバイの香りはどれかと探っていく。
しかし、一向に正解の香りにたどり着く気配がない。ついにはすべての香水の確認が終わってしまった。
それならこの”ドバイの香り”はどこからやってくるのか?・・
もしかしたら高級ホテルのロビーのように、香りのコントロールをしているのかもしれない。
だが店員曰く、そのようなことはしていないという。
もう一度入り口に戻り、鼻に全神経を集中させてみる。
やはり、これはドバイで嗅いだ香りだ・・。
遠くの香水コーナーでは、若いカップルがムエット(試香紙)に香水を吹きかけては、これは好みだどうだのとワイワイ話しながら場を後にし、また別のカップルがやってくる・・。
そうか、分かった・・。
これが、ドバイの香りを生み出しているんだ!!!!
ドバイのモールでは、開けた場所のいたるところで香水を売っている。(日本のモールで臨時に催される地域の物産展のような感じ)
店員がムエットに香水を吹きかけ、道行く人に「試してみなよ、ほら!」と紙をひらひらさせるのがお決まりだ。
建物内のいたるところで様々な香りが発生し、それが人の流れによって攪拌される。
それが、ドバイの香りだったのだ。
二人の思い出の場所、ドバイ。
ZARAという思いもしなかった場所で、幸せな思い出が一瞬にして蘇った。
今から楽しみでしかたがないことがある。
それは、将来またドバイの地に降り立ち、この幸せな思い出に、家族の新しい思い出を重ねることだ。
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