【現実愛(憎)という映画監督のテネット(主義)】『TENET テネット』(クリストファー・ノーラン

想像力という子による現実という親殺しを敢行せんという強靭な意志の極北を遥か後方に観客の理解を置いていくイメージの連鎖にまざまざと見せつけられた気がする。幼少期の記憶を回顧し、自ら映画を現実逃避と呼ぶ謙遜の裏にある現実への根源的な怒りと畏怖。実写に執拗にこだわる愛憎模様。世界の時間反転不変性に対して有限に順行することしかできない我々の意識はどのような気持ちで意識していればいいのかという煩悶に現実愛という主義を叩きつけるその確信は、環境問題を憂慮するノーランらしく、自らの死を超えたところで在り続ける巨大な世界を全力で受け入れるということ、さらには力強く抱擁してみせれば、たとえ苦しく悲しく虚しかろうがこっちの勝ちだという遠吠えのようにも聞こえる切なる祈りに感じた。

TENET テネット(Tenet)/クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)/2020

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