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カーリングに感じる「人間のリズム」

昨夜、「良くやった!」と喝采を叫びました。

北京オリンピックのカーリング女子の準決勝で日本は昨夜スイスに8対6で勝ち、決勝に進出しました。これで、日本のカーリングでは初めとなる銀メダル以上が確定しました。

前回書いたように、北京五輪ではフィギュアスケートなどもテレビ観戦していますが、ちょっと気になることがあります。競技が「人間離れした」ものになっている感覚があるのです。

その代表的なものはスノーボードでしょうか。男子のハーフパイプは縦3回転に横4回転も加えた最高難度の技が話題になりました。選手たちは技を決めるためビルの2階の高さに相当するパイプの壁で勢いをつけ、その壁の縁からさらに5メートル以上飛び上がります。正直、「危ない!」と思った人も多かったのではないでしょうか。

また、ゲームのように競技を扱う感覚にもモヤモヤが残ります。フィギュアスケートではジャンプやスピン、ステップなどの技術点の合計がテロップで競技中に表示されるようになりました。会場にいる審判が評価した数字がリアルタイムに加算表示されるのですが一つ技を決める度に数字が増えていく様子を見ているとスポーツ観戦を楽しむというよりはゲームの加点を喜ぶみたいな気分になり、ちょっと落ち着きません。競技がエンタメ化されてしまっているとでも言うのでしょうか。

それに比べるとカーリングは「人間のリズム」の範囲内に収まっている感覚があります。氷の状態を読んでストーンを投げ、その配置に応じてコミュニケーションを取って次の一手を考えていく。「競技⇒話し合い⇒次の展開」という流れが「人間の生理の範疇にある」感じがして安心して観戦できるのです。

「人間のリズムに収まっている」ー今回はそんな気分で聴けるジャズをご紹介しましょう。ジョン・ルイス(p)の「ワンダフル・ワールド・オブ・ジャズ」です。

ジョン・ルイス(1920ー2001)はモダン・ジャズ・カルテットのリーダーとして知られているのでここで詳しい経歴を記す必要はないでしょう。彼はこのバンドを離れて自身が志向する音楽作品を多数残していますが、その中でも美しく優雅さを持っているのが本作です。

ルイスがジャズでもクラシックでもない第3の流れである「サード・ストリーム・ミュージック」を模索していた時期のアルバムですが、実験色はあまりなくストレート・アヘッドな内容です。ゆったりとした演奏が多いことが特徴で、「音楽を聴くことにすら疲れた」時でもスッと入ってきます。それだけ「人間に心地よい」テンポがあるということでしょう。

1960年7月29日、9月8~9日の録音。

John Lewis(p) Herb Pomeroy(tp) Paul Gonsalves(ts) Jim Hall(g)
George Duvivier(b)  Connie Kay(ds)  Eric Dolphy(as)  Benny Golson(ts)
James Rivers(bs) Gunther Schuller(fhr)

基本はルイスのピアノ、ジム・ホールのギター、ジョージ・デュヴィヴィエのベース、コニー・ケイによるドラムスのカルテットです。これにホーン陣が加わっています。

①Body And Soul
有名スタンダード。私が本作を「心地よい」と感じる印象を持つのは冒頭のこの演奏によるところが大きいでしょう。ルイスらしい非常に穏やかで静謐な響きのあるイントロに導かれてポール・ゴンザルヴェスのテナー・サックスが落ち着いてメロディを奏でます。非常にゆったりとした息遣いを感じさせる音からは優しい人間の温もりが感じられます。そのままソロに入るのですが、スローなリズムを受けてゴンザルヴェスもメロディの延長とでも言うように情緒たっぷりの演奏を続けます。太い音色でエモーションはあるのですが、それをひけらかすことなく抑制に徹したサックス。彼の「歌」に身を委ねるのが正しい聴き方でしょう。続いてジム・ホールのソロ。こちらも彼らしい「訥弁」ですが、独特の余韻の響きがゆったりとしたリズムの中で生きています。よく聴くとリズムは途中でちょっとだけテンポを上げているのですね。うっかりしていると気が付かない程度の微妙なチェンジで、アレンジというより自然発生的な流れに聴こえてこれも好ましい。ルイスのクラシック的なバッキングとの相性もいいです。そしてハーブ・ポメロイのトランペット・ソロ。ここでリズムはまたゆったりとしたものに戻っているのですがポメロイのソロが徐々に熱気を帯びるにつれバックも少しづつ重みをつけ、13分ごろからテンポを上げていきます。ここも「成り行きでそうなった」ように聴こえ、人間の体が求める流れに沿っているように感じられます。最後、メロディに戻るところで再びテンポが落ち、15分に及ぶ演奏が静かに終わります。

この他、②I Should Care における典雅なルイスのピアノや
④Afternoon In Paris の9重奏団による演奏も忘れ難い印象を残します。

今回のオリンピックではカミラ・ワリエワ選手のドーピング疑惑もありましたし、スノーボードのハーフパイプでは高回転化に制限を求める声が選手から出ているとも聞きます。「人間の限界を超える」スポーツの光の部分と共に影の部分も見たように思います。人間の体を守ることを優先したうえでルールが整備され、その枠内で限界への追及が行われることを望みたいです。

カーリング女子、ロコ・ソラーレは決勝戦でイギリスと対戦。日本時間20日(日)午前10時5分から始まる試合で展開される「人間の感覚」を楽しみにしましょう。

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