見出し画像

ロシアの原発砲撃から見えてきた「プーチンの終わり」

ウクライナの南東部にある原子力発電所がロシア軍に掌握されたというニュースは衝撃的でした。

ウクライナ当局の発表によると現地時間の4日(金)の未明にロシア軍の砲撃を受けたということで、一時発生した火災は鎮火し「放射線量の値に変化は確認されていない」としています。しかし、ヨーロッパ最大規模の原子力発電所で起こったことだけに、まさに「世界が震え上がった」と言っていいでしょう。

これまでも原子力発電所がテロの標的になる危険性は指摘されてきました。しかし、ミサイルといった軍事力で砲撃されるような事態は想定されていない・・・いや、想定している人がいたとしても、その時はまさに「世界最終戦争」の時だという認識でしょう。プーチン大統領はとんでもない一線を越えてしまいました。

今回のことでまさにロシアの威信は地に落ちてしまいました。すぐには難しいのでしょうが、ここまで危険な賭けをする指導者をさすがのロシアもいつまでも担ぐことはできないのではないかと思います。「プーチンを降ろす」動きがどういう形で実を結ぶかは分かりませんが、戦争の「大義」をめぐる反発、経済危機、言論弾圧に対する不満、様々なものが鬱積していずれ現政権が終わりを迎えることになるでしょう。

ロシアという国は想像力を刺激してくれる豊かな文化を持つのですが・・・今回はそんな気分で、早期の解決を祈りつつ「ジャズ・ミッション・トゥ・モスコー」というアルバムを聴いてみましょう。

このアルバムは1962年の6月から7月初めにかけてベニー・グッドマン(cl)・オーケストラのメンバーとして当時のソ連公演を行ったバンドからメンバーをピックアップ、彼らのアメリカ帰国後に制作されたものです(2人だけ、ツアーに参加していなかったメンバーが入っています)。

ロシアをテーマにした曲や民謡が収められ、ツアーの熱気がそのまま持ち帰られたような印象があります。ミュージシャンにとっても、冷戦下で行き来が容易ではなかったこの時代に貴重な経験だったことが窺えます。

1962年7月12日、NYでの録音。

Zoot Sims(ts) Phill Woods(as,cl) Jerry Dodgion(as,fl) Gene Allen(bs)
Jimmy Maxwell(tp) Markie Markowitz(tp) Willie Dennis(tb)
Eddie Costa(p) Bill Crow(b) Mel Lewis(ds)

アレンジはアル・コーンが務めています。

⑤Russian Lullaby
アーヴィング・バーリンの作曲。バーリンは何とロシア生まれで、5歳の時にアメリカに渡っているそうです。バーリンの記憶が反映されているのかは分かりませんが、哀愁漂うテーマはロシアを思わせるものがあります。このトラックはコーンのアレンジが非常に光っており、テーマではホーン・アンサンブルで厚みと共に温かさを出して、まさに「ララバイ」という趣です。ソロの配置もなかなか巧みで、フルート~トロンボーン~テナー・サックスという順番。最初のジェリー・ドジオンによる軽い息遣いが感じられるフルートがバリトン・サックスなどを生かした重厚なホーン陣と見事なコントラストを成しています。続くウィリー・デニスによるトロンボーン・ソロは太い音色でバンド全体の「温度」を上げ、中間部のホーン・アンサンブルによる勢いのある展開につなげていきます。そして、最後にズート・シムズによるテナー・サックス。アルトのようにも聴こえる伸びやかで艶のある演奏でありながら、どこか陰影がついた音色を施し、テーマを反映した世界を作り出して締めくくります。

⑥Red, White And Blue Eyes
「黒い瞳」というタイトルで知られるロシア民謡。ここは原曲にあるリズミックな側面を強調してスピーディーなナンバーにしました。酒場で演奏されたら思わず踊り出す人が表れそうです。フィル・ウッズのアルト・サックスが中心となってホーン陣がグイグイとテーマを提示します。そのままウッズのソロへ。彼らしく急速調でも音が全く崩れることなく、直球で迫ってくるのが気持ちいい。重厚なバックのホーン陣と楽器一本で対等に向き合っています。続いてウィリー・デニスのトロンボーン・ソロ。大胆にリズム・ブレイクが入る中、スピーディーに駆け抜けます。リフをはさんでズートが登場。再びブレイクが入りますが、サラッと乗り越えるように吹き切ります。そして圧巻はエディ・コスタのピアノ。彼らしいゴツゴツと低音をきかせたソロで重い響きがロシアの曲調にぴったりとはまっています。最後はホーン・アンサンブルがドッと盛り上げて最終盤へ。フェード・アウトなのがちょっと残念かな・・・。

それにしても厳しい気候の中でこれだけのインスピレーションをもたらす文化を発展させてきた国が世界から非難されているというのは本当に残念でなりません。

短期的に見るとロシアはウクライナを占領できるのかもしれませんが、長期間、抑圧体制を敷くことは相当な抵抗をもたらし、プーチン大統領だけでなくロシア国民が大きな代償を払うことになるでしょう。自国のためにもリーダーには早く目を覚ましてもらい、「ロシアの懐の深さを」感じさせてほしいものです。

この記事は投げ銭です。記事が気に入ったらサポートしていただけるとうれしいです(100円〜)。記事に関するリサーチや書籍・CD代に使わせていただきます。最高の励みになりますのでどうかよろしくお願いします。