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「カムカムエヴリバディ」時代の日本ジャズは面白い

NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」にハマっています。

朝ドラを見る習慣があるわけではなく、本当に「欠かさず見た」のは宮藤官九郎さん脚本の「あまちゃん」(2013年)ぐらいです。今回も出勤時にテレビで何となく「見えている」ことはありましたが深い関心は持っていませんでした。

それが、今回は深津絵里さんが途中から主役となり実年齢とは程遠い10代の女性を可憐に演じている辺りから目が釘付けになりました。さらに「ジャズ」がドラマの中で大きな役割を果たしていることが分かり、わざわざ録画で見るようになりました(笑)。

「カムカムエヴリバディ」のあらすじを簡単にご紹介しますと、祖母・母・娘という3世代の女性の100年に渡る姿を描く「ファミリーストーリー」です。それぞれが昭和・平成・令和という時代の中で様々な試練にぶちあたるのですが、そのかたわらにはラジオ英語講座があります。

今週の放送で第2代ヒロインの深津さん(役名・雉真るい)はクリーニングの仕事からジャズ・ミュージシャンと知り合います。こうした展開の中で1962年当時のジャズ・シーンが背景として出てきます。ミュージシャン同士の会話の中で「渡辺貞夫(as)の渡米がついに決まったらしい」といったセリフがあり、海外渡航がまだまだ珍しかった時代の空気が伝わってきます。

実際、渡辺貞夫さんは1962年にアメリカのバークリー音楽院に入学。先にアメリカに渡っていた秋吉敏子(p)さんからの誘いでした。それでは当時の日本ジャズの水準とはどの程度のものだったのか?今回はそこが垣間見える1枚をご紹介しましょう。秋吉敏子さんの「トシコ 旧友に会う」です。

秋吉敏子さんはいまもNYを拠点に活動する世界的なジャズ・ミュージシャン。1929年に旧満州で生まれ、日本に引き揚げた後に進駐軍のクラブでジャズの演奏を始めます。1953年に来日したオスカー・ピーターソン(p)に才能を認められ、アメリカでのレコード・デビューに続き1956年にバークリー音楽院に奨学生として入学します。卒業後は拠点をNYに移して活動していました。

そんな秋吉さんが5年ぶりに日本に里帰りした際に制作されたのが「トシコ 旧友に会う」。かつての仲間とのセッションですが、ピリッとした緊張感のある内容となっています。しかも、本場の時代の流れを掴んでいるところがすごい。1曲目の「So What」はマイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー」で知られていますが、この曲がレコードで世に出てから1年半余りで日本人が手掛けていることに驚かされます。正直、モード奏法を完全に消化して各自の個性を発揮できるところまでは行っていませんが、「進取の気性に富む」心意気が伝わってきます。

メンバーには秋吉さんが1951年に結成した「コージー・カルテット」のメンバーでもあった渡辺貞夫さんも参加しています。

1961年3月7・8日に東京・杉並公会堂、同年3月27日に東京・文京公会堂での録音。

秋吉敏子(p) 渡辺貞夫(as) 宮沢昭(ts)
原田政長(b)on tracks 2,7 and 8 栗田八郎(b)on tracks 3,4
富樫雅彦(ds)on tracks 1,2 白木秀雄(ds)on tracks 3,4
猪俣猛(ds) on tracks 5,6

②The Night Has A Thousand Of Eyes
おなじみのスタンダード。アレンジがユニークで、テーマでラテンリズムを取り込み、アルト・テナーのサックス2管がメロディを奏でるという試みをしています。考えてみると、ピアノトリオ+サックス2管という編成もなかなか挑戦的ですね。ラテンリズムでグルーブを生み出す富樫雅彦の巧みさに驚いていると秋吉敏子のピアノ・ソロが始まります。このソロが彼女らしいビ・バップの要素を持ったゴリゴリとした手触りがありつつ、リズムを意識した「飛ばし」があって面白い。この時点で彼女が音楽性において他のミュージシャンを圧倒していたことが垣間見える演奏です。

③Donna Lee
チャーリー・パーカー(as)のオリジナル曲。こちらはストレートなビ・バップで急速調の2管によってテーマが示されそのまま渡辺貞夫のソロへ。パーカーを師とするだけあって得意分野というか、非常に伸び伸びと勢いに乗ったソロが展開されます。音の艶、テクニック的にも申し分なく、何よりもよく「歌って」いる。若者らしい力みの入った音があるのもファンとしては嬉しく、これはアメリカでも十分通用すると思わせるプレイです。続いて宮沢昭のテナー・ソロ。こちらもスムーズにスピードに乗っていますが、テナーらしく緩急をつけてくるところがさすが。時に伸びやかなフレーズを交えて彼らしいところを出しています。そして秋吉敏子のソロ。こちらもビバップができる楽しさが伝わってくる演奏でノリのいいフレーズが目白押しです。ソロの後半で思い切った強打が聴けるところなどいい意味での力の入り具合があります。最後はホーン陣とドラムスの小節交換。白木秀雄のドラムのダイナミックなこと!日本人としては珍しいほど音量があるドラムだということがヒシヒシと伝わってきます。日本のビバップがこの時点で相当なレベルにあったことが分かる演奏です。

この他、当時の秋吉敏子の夫であるチャーリー・マリアーノ(as)のオリジナル④ケベックなども独特の哀感が印象的です。早くから発達を遂げていた日本のジャズ、恐るべし。

今後の「カムカムエヴリバディ」でジャズがどうフューチャーされるのか楽しみです。ネット上では「渡辺貞夫さんが何かの役で登場することを望む」という声があるそうですが・・・。来週も期待しましょう。

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