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マスクで「見えない」ことが想像力を刺激する

「脱マスク」の時代に向かっているようです。今月20日(金)、新型コロナ対策でのマスクの着用について政府の考え方が公表されました。
「屋外では、周りの人との距離が確保できなくても会話をほとんどしない場合には着用の必要はない」などとしています。

厚生労働省が各都道府県などに出した文書はこちら。

000941323.pdf (mhlw.go.jp)

「屋外でのマスク着用について」から具体例を一部抜粋します。
・ランニングなど離れて行う運動や、鬼ごっこのような密にならない外遊び
 など、屋外で、2メートル以上を目安として他者との距離が確保できる場
 合はマスクを着用する必要はないこと。 
・徒歩での通勤など、屋外で人とすれ違うことはあっても、会話はほとんど 
 行わない場合は、マスクを着用する必要がないこと。 屋外であっても、近
 い距離で会話をするような場面では引き続き、マスクの着用を推奨するこ
 と。 


慎重ではありますが、「社会活動の正常化」に向けた動きが起こっています。

正直、夏の暑い時期にマスクをするのは相当息苦しいですし、少しでも外せるのは嬉しいと思う反面、通勤電車に乗るときは着用が「推奨」されるらしいので煩雑さもありそうです。

これに加え、私が気になるのは「マスクのない表情にすぐ慣れるか?」という問題です。新型コロナウイルスの感染が国内で報告されてからもうすぐ2年半。いまやマスクのある「表情」は当たり前となっています。オフィスで同僚が飲み物を飲むために一瞬マスクを外しているのを見ると、「あれ?こんな表情だったっけ?」と思うことがよくあります。私たちは「表情から受ける情報量が少ない世界」にどっぷり浸ってしまったのです。これが「全部見える」ということになると、読み取る情報量の多さに最初は戸惑ってしまうかもしれません。

また、顔の下半分が隠れているというのは「見えない部分を想像する」ということでもあります。人によるでしょうが、私の場合は「見えない部分」を悪く想像することはあまりありません。実際は「顔の下半分がすごく疲れている感じ」だったとしても、目に光があればそんなことはイメージできません。

正直、マスクをしている方が「美男・美女に見える」ことや、「年齢の不詳さ」を印象付けることはあると思います。マスクを外した時に「あれ、何か違う?」と感じられないために着用を続ける人は(自分を含めて)たくさんいるはずです。新型コロナの感染が収束したとしても、根強いマスクの需要は残るでしょう。

そんなことを考えて、「表情が見えない美女」のジャケットを探してしまいました。渡辺貞夫の「Maisha」です。

これはナベサダによる「初のセルフ・プロデュース」作品。前2作の「フィル・アップ・ザ・ナイト」と「ランデブー」が東海岸の精鋭を集めた「落ち着いた」作品だったのに対し、ここでは西海岸のハリウッドに当地ゆかりのミュージシャンを集め、明るく、レゲエやアフリカ的な香りも交えたフュージョンを展開しています。ドン・グルーシン(key)の参加が大きいですかね。

ジャケット写真はナベサダ自身が撮影したもので、目元しか見えない女性が非常に気になります。絶対に美人さんなのでしょうが、そこは想像するしかないという(笑)。「見えない」ことによる人間のイメージの広がり、恐るべし。

1985年1~2月、ノース・ハリウッドのワン・オン・ワン・スタジオでの録音。メンバーは全部書き切れないので主だったところで失礼します。

渡辺貞夫(as,sopranino,fl) Don Grusin(key) Russell Ferrante(key)
Carlos Rios(g) Nathan East(b) Harvey Mason(ds)
Paulinho Da Costa(per) Herbie Hancock(key) ほか

③Road Song
このアルバムが発売された当時、テレビやFMなどでよく耳にしたナベサダのオリジナル。躍動感と旅情が入り混じったテーマをナベサダがアルト・サックスで朗々と吹きます。ドン・グルーシンのキーボードが「薄っすら」入っている感じがナベサダの生き生きとした音を引き立たせ、演奏全体を古びないものにしています。ナベサダのソロは短いのですが、ビバップの影響を受けたフレーズの連打の中に「無駄な音が一切ない」のが凄い。そして、何よりもサックスがよく鳴っている。ソロの終盤、伸びやかな一音を放ってからギターソロにつなぐところなどは名人芸です。カルロス・リオスのギター・ソロはエフェクトがかかっている音がちょっと懐かしい感じです。

⑤Good News
こちらは歯切れのいいナベサダのオリジナル。勢いのあるニュースが飛び込んできた、という感じです。普通にバンドのみでやると「薄い」サウンドになったのかもしれませんが、ホーン・アレンジでジェリー・ヘイが入っていてトランペットやトロンボーンによって豪華なバックがつけられています。スケールが大きな曲想にしたのが成功の理由でしょうね。そして、ここで圧巻なのがネーサン・イーストのベース。チョッパーの気持ちいいベース・ソロと彼自身のボーカルによるユニゾンが聴けます。このグルーブ感がたまらない!そこにナベサダがアルトで切り込んできて熱いソロを放つ展開がスリリングです。やっぱりただのフュージョンじゃなくてサウンドが生きているんですよねー。

この他、⑦Desert Ride のソプラニーニョによるアフリカ的なサウンドはナベサダならではと言えるでしょう。

それにしてもナベサダは写真を撮影した女性の素顔を見たのでしょうか。妄想ではたまたま出会った女性の「隠れた美」に惹かれて素顔は見ないまま、あの1枚に収めたのだと思いたいのですが。

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